「プラトニック・ライフ・パートナー(PLP)」という言葉が、恋愛相手よりも友人を最も重要なパートナーとして選ぶ人たちを定義するために広まっている。今回は、この新しい関係性について、イギリス版ウィメンズヘルスからご紹介していく。

エイミー・メイソン・エデンは、あまり人に惹かれることがない。でも、ジムで初めてアルナ・コンラッドに出会ったとき、彼女は心を奪われた。

アルーナには特別な雰囲気があった。女性らしいエネルギーで、エイミーはそれを身にまといたくなった。ある日、別々のワークアウトを終えた二人は、おしゃべりをするようになった。二人は強烈に惹かれ合うようになり、エイミーの車の中でおしゃべりをしていても、あっという間に数時間が過ぎてしまうほどだった。

この出会いをきっかけに、二人は「無理なく親密な関係」になった。そして2年後の2020年3月、アリゾナのセドナにあるエイミーの家にアルーナが引っ越してきた。


仕事もプライベートも一緒。でも恋愛関係にはない

やがて彼女たちは、ウェブデザイナー(アルーナ)とプロジェクトマネージャー(エイミー)の経験を融合してアパレルブランドを立ち上げ、ビジネスアカウントも共有するようになった。そして、夜、二人きりになると、初対面のときと同じように、他愛もない会話で時間をつぶすようになった。

二人は、自分たちのことを「陰と陽の関係」と表現する。エイミー(31歳)は分析的、アルーナ(35歳)は感情的、服装もエイミーは黒、アルーナはベージュが好きetc.。まるで運命的に結ばれたような二人。この関係が普通のカップルの物語と違うのは、ただひとつ。

エイミーとアルーナが恋愛関係にはないということ。

二人は別々の寝室で寝る。セックスもしない。むしろ、彼らは「プラトニック・ライフ・パートナーシップ(PLP)」として知られる濃密な友情関係にあり、この新しい関係性を体現していると言える。


PLPはなぜ増えているの?

男女のカップルが子どもを持つ「家族」という、これまで理想と思われてきた形が自分にとってベストなのか、考え、行動する人が増えている。イギリス国家統計局(ONS)のデータによると、異性婚の割合は衰退の一途を辿っており、その割合は現在、1862年に記録が始まって以来最低となっている。

この人口統計学的傾向と並行して、女性が母親になるという前提が崩れつつある。2021年45歳になった人の18%が子どもを持たなかった(彼らの母親世代では13%だった)。一方、セックストイブランドのLeloが2020年に行った調査では、回答者の28%が「ポリアモラスな関係(※)を検討する」と答えている。

※すべてのパートナーの同意を得た上で複数のパートナーと親密な関係を持つこと

ミレニアル世代とZ世代の女性たちは、「落ち着く」必要があるという常識に疑問を持ち、「落ち着く」としたらそれはどのようなものなのか、既成概念に囚われずに考え始めているのだ。

プラトニック・ライフ・パートナーシップとは?
two women peeking out of round opening in coloured wall
Klaus Vedfelt//Getty Images

このような文化的背景の中で、プラトニック・ライフ・パートナーシップという概念が生まれた。19世紀、裕福な女性二人が同棲した「ボストン結婚」はその一例といえる。

2021年10月、エイプリル・リーという女性が空港で親友のレニーに会うために急ぐ動画がTikTokで拡散され、「PLP」がネット上で大々的に使われるようになった。2人はPLPであると自称し、自分たちの関係は「結婚に似たコミットメントを伴う友情」だとシェアした。

このエイプリルの投稿以来、メディアでも数多く取り上げられ、「#platoniclifepartners」のハッシュタグが付いた投稿はTikTokで1170万回以上再生されている。エイプリルとレニーがこの言葉を定着させた結果、多くの人々が自分の状況を表現するためにこの言葉を使うようになった。

多くの場合、女性同士、時には少なくとも一人のパートナーがクィアであるPLPには様々なパターンがある。例えばエイミーはクィアだと自認しているし、アルーナは複数の性別に恋愛感情を抱くバイロマンティックだ。

同棲するペアもいれば、一緒に子どもを育てたいと思うペアもいるし、同じ家には住まないけれど近くに住むことを選択するペアもいる。一般に、恋愛はそれぞれにする。恋愛は他でしたとしても、それを人間関係のプライオリティの上位にせず、その代わりに深い友情を受け入れることが、二人を結びつける。


PLPでは、恋愛はそれぞれ別に楽しむ

自分の人生と友人の人生を融合させ、もし望むなら他の関係を通じてセックスとロマンスを楽しむ。これは満足のいく、つながりを感じられる人生を再定義する一つの方法だし、それは人によっては、うってつけの方法かもしれない。

そこでウィメンズヘルスでは、プラトニック・ライフ・パートナーという選択が私たちの健康と幸せにどんな意味を持つのか、考えてみた。


健康に良い人間関係とはどんなものだろう?

多くの文化圏で、生涯続くロマンチックなパートナーシップは、人間の幸せの究極の形として考えられている。ところが、科学的にはそうではないと語るのは、心理学者で、『Singled Out: How Singles Are Stereotyped, Stigmatized, And Ignored, And Still Live Happily Ever After』の著者であるベラ・デパウロ博士。

彼女は研究を通じて、「永遠の」恋愛関係が幸福への唯一の道であるという考えを何年もかけて崩してきた。

「もし、その考え方が正しければ、結婚しているカップルが一番幸せで、同棲しているカップルがその次、付き合っているカップルとパートナーがいないシングルが最下位になるということになりますよね」

これが事実じゃないことは、誰もが知っているはず。

「むしろ、研究者がこの考えを検証したときにより重要だったのは、信頼できる社会的つながりの存在、つまり、頼りになるコミュニティがあるかどうかだったのです。そのような社会的支援を受けている女性や男性は、鬱やストレスを感じることから守られている可能性が最も高かったのです」とデパウロ博士。

これは、強い社会的つながりの健康的価値に関する現在の研究結果と一致する。社会的なつながりを持つことは、健康的な体重を維持するよりも重要で、禁煙と同じくらい健康的であることがわかっている。


不幸な結婚は、心臓病のリスクが高くなる?
frustrated sad girlfriend sit on bed think of relationship problems
Witthaya Prasongsin//Getty Images

結婚制度が女性に何らかの健康上のメリットをもたらすことを示唆する研究もあるものの、それは結婚生活がいかに幸せであるかにかかっている。

オックスフォード大学が2014年に行ったある研究で70万人以上の女性のデータを分析した結果、結婚している女性は、シングルの女性に比べて心臓病で死亡する確率が28%低いことが判明した。しかし、同じ年にミシガン州立大学で行われた別の研究では、不幸な結婚をしている老夫婦、特に女性は、幸せな結婚をしている人より心臓病のリスクが高いことが判明したのだ。

この研究に取り組んだ学者たちが発見したのは、良い結婚の有益性よりも、悪い結婚が健康に与える害だった。結婚したカップルは往々にして、結婚に高い理想を抱いているものだ。ところが実際に結婚生活が理想通りにならないと、理想が高かった夫婦ほど幸福度の低下につながる可能性がある。

「女性はしばしば育児、介護、家事を自分の分担以上にこなしてしまうのです」とデパウロ博士は補足する。このような疑いは、パンデミック時に統計的に現実のものとなった。イギリスの第2次ロックダウン時には、67%の女性が子供の家庭教育を担当していたのに対し、男性は52%だったというイギリス国家統計局(ONS)のデータもある。

デパウロ博士は、もしその事実に気がついたら、役割分担について二人で再度検討してみることを勧めている。

「友人同士のPLPの場合、男性・女性ということで結果的に偏ってしまう家事などの不公平が起こりにくいため、個人の健康や幸福、関係の質の向上に役立つと思います」

深い友情が健康を支える仕組み

プラトニック・ライフ・パートナーがウェルビーイングに有益であることは、「友情の科学」で説明できる。この研究分野は、この10年ほどの間に学術的な注目を浴び始めた。

「友人と交流すると、ドーパミンやベータエンドルフィンなどの神経化学物質の洪水が起こります」と教えてくれたのは、進化人類学者で『なぜ私たちは愛するのか』の著者であるアンナ・マシン博士。

「ドーパミンは、あなたの体の報酬化学物質で、ペットと触れ合ったり、インスタグラムの投稿にいいねがたくさんつくのを見ることでも放出されます。ベータエンドルフィンは、脳内麻薬のようなもの。多幸感、暖かさ、満足感、そして友人との深い絆を感じることができます。しかし、PLPと定義されるような濃密な友情は、体にさらに多くの恩恵をもたらしてくれる。親子や恋人同士、あるいは親しい友人など、非常に絆の強い関係では、生物行動学的同調性という驚くべきものを経験します」

「深く愛している人と一緒にいると、お互いの仕草をまねたり、言い回しをまねたりして、行動が一致するようになります。しかし、もっと細かく見ていくと、生理的なレベルでも心拍数、体温、血圧が一致するのです」


濃密な友情を育む脳
human brain network
ROGER HARRIS/SCIENCE PHOTO LIBRARY//Getty Images

深いつながりを感じている脳の中をのぞいてみると、ガンマ波という、強い警戒心と意識を感じているときに発生する同調性が見て取れる。マシン博士の説明によると、このことは、体のあらゆる部分が相手とシンクロしていることを意味する。そうすると相手に対して深い愛着が湧き、まるで相手の肌の中に入り込めるような感覚になるという。

このような絆が、前述の神経生物学的な解放と愛する人に寄り添い守られているという心理的な感覚と相まって、人生への肯定感だけでなく健康をもたらしてくれるのだ。


ロマンチックな愛と友情の愛には、二つの分岐点がある

ここまで見てきた生理学的な反応は、プラトニックであろうとなかろうと、心から慕う人と人生を共にするべき根拠になり得る。ロマンチックな恋愛もプラトニックな友愛も、同じ神経化学と生物行動学的同調性に支えられている。しかし、この2つは同じではない。

プラトニックな人生のパートナーシップは、恋愛関係とどう違うのか?

「恋愛と友愛の分岐点は2つあります」とマシン博士は続ける。「恋愛では、性的な側面があります。視床下部は性ホルモンを分泌するところですから、脳の活動が少し違います。あとは、文化的な捉え方の違いだけです」

これまで、ロマンチックな恋愛や結婚こそが目指すべき幸せの形だと信じられてきた。しかし、女性は100年前のように男性に経済的に支えてもらう必要はなくなりつつある。そして、避妊という選択肢もあるのだから、子どもを作らない自由もある。

そう考えると、異性間結婚にこだわる理由は文化的な観点だけでなく、進化的な観点からも減少しているのかもしれない、ということになる。


PLPは一般的なパートナーシップの選択肢になるか

現時点ではPLPと結婚を比較できるほどのデータはないものの、マシン博士は自身のオックスフォード大学での研究が参考になるのではないかと考えている。

その研究で彼女は、恋愛関係と親友関係の利点を比較した。「女性の場合、恋人よりも女性の親友のほうが感情的に親密であるということがわかりました」

PLPは女性同士の間で形成されることが多いので、この親密さは重要。親密さが健康上の利益と相関しているかどうかはまだわからいものの、親密であればあるほど、幸せな神経化学物質が放出されることは分かっている。

このように、PLPは長期的な恋愛や結婚よりも優れている可能性がある。二人は神経化学物質と生物行動学的共時性がもたらす喜びや快感・安堵感を楽しむことができ、世話をしたりお互いにサポートしたりすることでさらに感情のつながりを強め、ストレスを軽減させていく。セックスやロマンスも、他の場所で楽しむことができる。

PLPは感情的な安全の場であるという考え方は、エイミーも実感しているという。

「男性との恋愛では、問題を解決しようとすると『やりすぎだ』と言われ、相手が問題に向き合おうとしないことが多いと思います。アルーナの場合は、彼女の言動が引き金になった問題があったとしても、少し時間をおいて、問題の本質に向き合い、話し合うことができます。私たちは、痛みを伴う問題からも目を背けないでいられるのです」

プラトニック・ライフ・パートナーという現象は、今のところ、現行の夫婦制度にインパクトを与えるほどのものではない。でも、何世代もかけて、人生の伴侶の選択肢は少しずつ変わっていく可能性はあるのではないだろうか。

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Claudia Canavan
Health Editor

Claudia is Health Editor at Women's Health. She commissions, edits and writes about topics including the happiness potential of less conventional relationships, the future of genetically modified food, how hormonal changes can play with your sleep and the ways in which vaccine disinformation spreads.