数年前、筆者は「フェールラーベン・クラシック」という国際的なグループで行われるバックパック、キャンプ、ハイキングの山中ツアーで、アメリカ・コロラド州のトレイルを3日間かけて歩いた。それまでにも、イタリアやフランスのアルプス山脈でモンブランを巡るような大規模なハイキングをたこともあったが、あんな経験は初めてだった。背中におよそ27キロの荷物を背負い、チャレンジと承知で友人と参加した。

ほどなくして、息を切らしながらめまいがする程の高さまで登り、1日およそ16キロ以上の距離をトレッキングし、河川水をろ過してウォーターボトルに入れ、仲間の勧めで水分補給のために、塩味のリコリス(甘草の一種)キャンディーを食べたり、塩の錠剤を飲んだりした。それで水分補給になるのかと思うけれど、どうやらその通りみたい。アメリカ版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

「基本的に、自分の体は塩水を含んだ大きな袋のようなものだと思ってください」と話すのは、テキサス大学健康科学センター・ヒューストン校のマクガバン・メディカルスクールにてスポーツ心臓医を務めるジョン・ヒギンス医学博士。「体を機能させる能力は、塩分と水分のバランスとかなり密接な関係があります」

塩またはナトリウムは、マグネシウムやカリウム、カルシウムを含む電解質の一種で、激しい運動で消耗された電解質を補うために使用される。特に塩が優れているのは、持久運動や90分以上のトレーニング中でも、錠剤やキャンディーなどで持ち運べ、手軽に摂取できること。

でもなんで電解質は大切なの? コロラド大学医学部でウィルダネス・メディシンのディレクターを務めるクリス・デイビス医学博士いわく、水を飲むと胃に到達し、腸に吸収される。でも実際に水分補給するためには、水分を吸収、保持し、細胞中に行き渡らせるための電解質が必要だそう。

発汗と体温も明らかに関係している。「汗をかくと、水分が失われているだけでなく、塩分も失われていることに注意してください」とデイビス医学博士。

つまり暑ければ暑いほど、体温のバランスを保つために汗をかき、汗に含まれる塩分も多く失われる。乾燥した気候では、汗をかいてもすぐに蒸発してしまうので特に問題だと、マウント・サイナイ・アイカーン医科大学で腎臓学の准教授を務めるニコラス・ハーバード医学博士は話す。

「乾燥していると、どのくらいの水分が失われたか気づかないかもしれません」とハーボード医学博士。「そういった気候においては特に水分補給に気をつけなければいけません」

ヒギンス医学博士も同意見で、「普段より汗を多くかくと、ナトリウムが不足して、ふらつきやランニング中のペースダウン、筋肉のけいれんなどパフォーマンスに影響が出る可能性があります」とのこと。

結果、多くのアスリートが体の水分レベルを一定に保つために、ゲータレード(1本にナトリウム270ミリグラムを含む)や塩キャンディー、塩タブレットなどの商品を求めるそう。デイビス医学博士いわく、中には1リットルの水に塩小さじ1/2杯と砂糖小さじ6杯を混ぜた経口補水液に頼る人もいるそう。

問題点は? すべての人に当てはまる処方はないということ。当然、人はみな同じではないので、脱水症状を防ぐのに必要な水や塩の量は人それぞれ。けれども運動中に水分補給をする方法はいくつかあるとのこと。まず、デイビス医学博士は運動前に塩分を摂りすぎないよう注意する。私たちの多くは塩分を多く摂りすぎているからだそう。

自身もマラソンをするヒギンス医学博士は、ランニング開始1時間後、その後30分ごとに塩タブレットを飲んでいるが、激しい運動中に塩分を摂取し続けるとパフォーマンスが向上すると話す。ただ、運動後の補給も同様に大切。「終わった後もまだ汗をかき、クールダウンしています」と医学博士。「なのでエクササイズ後も水分を摂り続けることが大切です」

塩分は激しい運動や持久力の必要なアスリートには重要だが、そもそも水を十分に飲んでいなければ、塩分はその役割を果たすことができない。ヒギンス医学博士は、運動前に約480ミリリットルの水を飲み、15分ごとに数十ミリリットルの水を少しずつ飲むことを推奨する。また、塩分を摂取すると喉が渇くので、より多く水を飲むことにも役立つ。

ただ、塩の摂取量には注意が必要。体は必要分だけを吸収し、残りは腸に送られるが、摂取量が多すぎると下痢を引き起こす。摂取する量は200ミリグラム程度の塩タブレットであれば安全だとヒギンス医学博士は話す。

だからこそヒギンス医学博士は、30分程度の一般的な適度な運動前は、胃腸にトラブルを引き起こす可能性があるので、塩分を摂らないよう特に強調する。デイビス医学博士いわく、腸に塩分爆弾を落とすようなものだそう。

結論:塩キャンディーや塩タブレットは、本当に必要なときである激しい運動や持久運動時に使用しよう。それ以上は傷口に塩を塗るようなものなので注意して。

※この記事は、当初アメリカ版ウィメンズヘルスに掲載されました。

※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Ashley Ross Translation: Asami Akiyama