「筋トレをすると幸せホルモンが分泌される」「ランニングをすると幸福度が上がる」など、運動と幸福感の話をよく耳にする。実際、フィットネスやスポーツで得られる高揚感や解放感を、身をもって感じたことがある人もいるはず。そこで今回は、ストレスフルな今だからこそ取り入れたい幸福度を上げるための運動法や、分泌される幸せホルモンの種類と効果を、医師で予防医療に詳しい桐村里紗さんに伺った。

運動で分泌される「幸せホルモン」とは?

healthy woman running on treadmill
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運動することによって分泌される「幸せホルモン」と呼ばれるものは、いくつかの種類があります。それらは、私たちの気分に作用します。ホルモンだけでなく、神経伝達物質と呼ばれるものも、通称として「幸せホルモン」と呼ばれています。

  • エンドルフィン
    脳内麻薬の一種で、多幸感をもたらす。女性の場合は、分娩など強い痛みがある際に脳内から鎮痛のために分泌されます。その出産がなんとも幸せなために「オーガズミック・バース」と呼ばれることも。このホルモンは、食事・運動・セックスなど、脳が「ご褒美」と感じる活動の際に増加します。
  • セロトニン
    精神を安定させる神経伝達物質。低下すると、抑うつを引き起こします。睡眠や食欲、学習、記憶などにも関連しています。
  • ドーパミン
    快楽をもたらす神経伝達物質。脳に“ご褒美”を与えます。ストレスで低下してしまう物質なので、ストレスがかかるとドーパミンを分泌しようと甘いものに走ったりするのはこのせいです。依存症の原因になりえますが、運動によっても分泌されるので、健康的に脳にご褒美を与えたいもの。
  • 内因性カンナビノイド
    内因性カンナビノイドは、体内で分泌される生理活性物質です。中枢神経や末梢神経に作用し、全身の細胞を調和させ、バランスを保ち、免疫や認知、記憶、感情、鎮痛など、さまざまな心身の働きをサポートしています。

ヘンプ由来のCBDオイルにはカンナビノイドが含まれていますが、もともとは体内で分泌されているものなのです。

【幸せホルモン別】幸福度を上げる運動法

female frestyle swimmer
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【適度な有酸素運動】集中力・やる気を上げるドーパミン

やる気と集中力を高めるには、ドーパミンが分泌される運動を。定期的な運動は、脳に報酬を与えます。ドーパミンは、横になったり休んだりするのではなく、酸素を取り入れながら体を動かすことで分泌されます。つまり、有酸素運動がベスト。このとき、適度な負荷が大切。やや呼吸が速くなり、少し辛いと感じる程度が効果的です。ランニングだけでなく、サイクリングや水泳、エクササイズでも良いですね。

【リズム運動】鬱々とした気分解消にはセロトニン

鬱々とした気分を上げ、質の良い睡眠をとるには、セロトニンが必要です。セロトニンの分泌には、一定のリズムを繰り返すリズム運動が効果的とされています。もっとも簡単な方法としては、一定のリズムで呼吸を繰り返すだけでもOK。ウォーキングやランニング、エアロバイク、踏み台昇降などで、リズムを感じられたら効果あり。運動の場合、20~30分をピークに分泌されますが、疲れない程度がベターです。また、一定のリズムで行うスクワットなどの筋トレも、セロトニン分泌には効果があります。

【ランニング】多幸感を得るエンドルフィン・内因性カンナビノイド

継続的にランニングをしている人なら、誰もが「ランナーズハイ」を経験したことがあるでしょう。多幸感をもたらすエンドルフィンという脳内麻薬によるものと考えられていました。ところが実は、内因性のカンナビノイドも分泌されることが明らかになってきました。

カンナビノイドは、心身に作用する生理活性物質の総称です。今話題のヘンプ由来のCBDオイルには植物由来のカンナビノイドが含まれており、摂取することで体内の受容体を刺激します。カンナビノイドは体内でも自然に生成されており、それが内因性カンナビノイドです。

「ランナーズハイ」が起きているとき、自分の内側からカンナビノイドが分泌され、陶酔感、多幸感、不安の減少などを引き起こす可能性があるとわかっています。(Psychoneuroendocrinology:Vol126、Apr,2021)

エンドルフィンや内因性カンナビノイドは、痛みやストレスを受けた際に分泌されます。

ランナーズハイに突入するための走り方は、

  • 長距離を走る
  • ランニングの強度は自分の体力のマックスの70〜80%に。
    目安は心拍数120程度とされています。軽く息が上がるものの、ギリギリ会話はできる程度と考えてください。
  • 苦しいと感じたときに、諦めずにさらに継続してみる

さらにこの走り方は、脳も若返り、脳機能がアップするBDNFが分泌されます。

「幸せホルモン」とは違いますが、筋肉を使うと、脳機能をアップさせるBDNF(神経栄養因子)の分泌が高まることもわかっています。記憶力や意欲、学習機能アップなど脳機能を高めて、脳の老化予防になります。

BDNFは、
・脳の神経細胞を増やす
・神経の接続(シナプス)の形成を促す
・脳機能が向上する
という働きがあります。

有酸素運動、筋トレ、いずれでも効果が期待できます。

ストレスフルなご時世ですが、甘いものやお酒などでストレス発散させようとするのは不健康です。健康的な運動で脳にご褒美を与えて、気分を盛り上げて脳機能をアップさせましょう。

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桐村里紗
医師/tenrai株式会社 代表取締役

臨床現場において、最新の分子栄養療法や腸内フローラなどを基にした予防医療、生活習慣病から終末期医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。食や農業、環境問題への洞察を基にした人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルスケア」や女性特有の悩みを解決する「フェムケア」、また世界の最新ヘルストレンド情報などを様々なメディアで発信、プロダクト監修を行なっている。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。他、「とくダネ!」などメディア出演多数。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか~口臭と体臭の科学』(光文社新書)、『腸と森の「土」を育てる〜微生物が育てる人と環境』(光文社新書)ほか多数。
tenrai株式会社:https://tenrai.co/ 

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Kaoru Sawa
ウィメンズヘルス・エディター

美容・ダイエットを中心とした記事を担当。自他共に認める美容マニアで、ハマり症。その気質から、自分が挑戦する取材企画には必ず結果へのコミットにこだわる。男性ライフスタイル誌、女性向けアプリメディアなどを経て、2021年までウィメンズヘルス編集部に在籍。