「腸内環境を整えるには食物繊維が大事」ということは、よく知られている。とくに善玉の腸内細菌のエサとなり、積極的に摂取したいのが水溶性食物繊維。さらにそのなかでも腸内細菌が大喜びして食べるのが、最近ウワサの「イヌリン」だ。イヌリンは腸内細菌を介して、免疫機能やエネルギー代謝、糖や脂質の調整、脳機能などにも働きかける成分だという。そんなイヌリンについて、医師で予防医療に詳しい桐村里紗さんが解説してくれた。

今話題の「イヌリン」とは?

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IAN HOOTON/SCIENCE PHOTO LIBRARY//Getty Images


イヌリンとは水溶性食物繊維の一種。善玉の腸内細菌のエサとなり腸内環境を整え、腸内細菌の代謝物を介して、健康をサポートしてくれます。

イヌリンを多く含む食材は?

イヌリンは菊芋やチコリに多く含まれますが、ニンニクやニラ、玉ねぎ、ゴボウなど、身近な食材にも含まれています。これらを日常的に食べることで、イヌリンが腸内環境を改善してくれます。

  • 菊芋:約20%
  • チコリ:15~20%
  • ニンニク:9~16%
  • ニラ:3~10%
  • 玉ねぎ:2~6%
  • ゴボウ:3.5~4%

※:Critical Reveiews in Food Science and Nutrtion, 35(6):525-552(1995)

※含有量は調査によって違います。

イヌリンは食物繊維のなかでも善玉菌に利用されやすい

woman's stomach
Laurence Monneret//Getty Images

イヌリンががほかの水溶性食物繊維と比べてなぜ優秀なのか。それは、善玉の腸内細菌がもっとも好んで食べるエサになるから。人と同じように、腸内細菌もエサを食べるとフン(代謝物)を出します。人にとって有益なフンを出すことを「発酵」と呼び、善玉菌と呼ばれる腸内細菌は有益なフンを介して、健康に働きかけます。

腸内細菌にとってイヌリンはほかの水溶性食物繊維と比べて食べやすく、利用しやすいものなのです。これを「発酵性が高い」といいます。

水溶性食物繊維は種類によって、発酵性の高さは違います。

食物繊維の発酵性の違い:腸内細菌に利用される率の違い

  • イヌリン:100%
  • ペクチン・グアーガム :75~100%
  • 難消化性デキストリン:50%
  • セルロース・寒天・アルギン酸ナトリウム:25%未満

発酵性が高いほどよく食べられて、有益なフン(代謝物)を出します。発酵性が低いものが意味がないかといえば、そういう訳ではありません。腸内細菌に寝どこを与え、便のかさを増し、腸を動かして排泄を良くします。

野菜や海藻、きのこ類、豆類、ナッツ類、穀類、芋類には、それぞれ種類が違う食物繊維が含まれているので、いろいろと組み合わせて食べると効果的。

イヌリンと同程度に発酵性の高いペクチンは、リンゴやプルーンに含まれています。

難消化性デキストリンは、健康食品などに含まれていますが、イヌリンやペクチンと比べると利用率が劣ります。

イヌリンがスーパー善玉菌を活性化する

morning coffee at home
MilosStankovic//Getty Images

スーパー善玉菌であるビフィズス菌も酪酸菌もイヌリンが大好き。これらの腸内細菌のフン(代謝物)を通して、善玉の腸内細菌が暮らしやすい腸内環境に整えます。

フン(代謝物)として分泌するのが、乳酸や短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸)などの有機酸。実は、お肌と同じで腸内環境も「弱酸性」が最適なのですが、善玉の腸内細菌はこれらの有機酸を分泌することで腸内を弱酸性に整えます。

悪玉の腸内細菌はアルカリ性の環境を好むので、弱酸性の環境では増えることができません。

腸内細菌を通したイヌリンの7つのすごい働き

  1. 免疫機能の調整:アレルギーを抑える
    腸管のまわりには免疫細胞が集まっています。免疫細胞には敵と戦う血の気の多いものと、それをなだめる調整役がいます。とくに酪酸は調整役の働きを促すことで、アレルギーや自己免疫疾患を予防します。
  2. 脳機能の改善
    酪酸は脳細胞の栄養となる物質(BDNF)を増やし、脳の成長を促す働きがあります。酪酸菌の減少はうつ病とも関連しています。
  3. ダイエット効果
    中性脂肪を抑制して脂肪細胞の肥大化を防ぎ、エネルギー代謝を高めて肥満を予防する働きがあります。
  4. 糖代謝の改善
    糖代謝に関わるインスリンなどに関与して、血糖値の上昇を抑え、糖尿病を予防・改善します。
  5. バリア機能の強化
    腸の細胞は、人の体内を外敵から守る重要な防御壁です。バリア機能が壊れると、体に毒素が入りやすくなったり、アレルギーを起こしやすくなったりします。
  6. 弱酸性の環境を保つ
    短鎖脂肪酸は、腸内環境を弱酸性に保ち、善玉の腸内細菌が暮らしやすい環境を保ちます。
  7. 発がん物質産生の抑制
    発がんの原因物質(二次胆汁酸)の産生を抑制します。

イヌリンの摂取目安は?

イヌリンが含まれる食品を一般的な量摂取する場合には、とくに健康への害はありません。むしろ、もりもり食べて頂きたいところです。

食物繊維の目標摂取量は、男性21g以上、女性18g以上(厚生労働省:食事摂取基準2020版)。平均的には男性で約7g、女性で約4g不足しているとされています。

イヌリンを含むサプリメントの摂り方・選び方

イヌリンを含むサプリメントもたくさん販売されていますよね。とくに粉末タイプは、スムージーやヨーグルト、スープなどに混ぜて使いやすいのでおすすめです。

摂取目安は不足分を補う目的で、5〜10g程度と考えたら良いでしょう。

イヌリンは、菊芋やアガベを原料に作られています。JAS認定をとったオーガニック製品も多く販売されています。
いっぽう、水溶性食物繊維のサプリメントとして一般的な難消化性デキストリンは、とうもろこし由来です。とうもろこしは遺伝子組み換えで農薬や除草剤を大量に使った輸入とうもろこし由来である可能性があるので注意が必要です。農業を通じて環境を破壊し、気候変動の原因となってしまう可能性があります。

腸内環境にとっても地球環境にとっても、私がお勧めしたいのはオーガニック製法のイヌリンです。

イヌリンが向かない人「SIBO(シーボ)」とは?

イヌリンは多くの人の腸内細菌にとってうれしいエサとなりますが、一部向かない人がいます。食物繊維の多い食事や発酵食品を食べて、2〜3時間でお腹がガスで張ったり、下痢をしてしまうタイプの人です。
このタイプの人は「SIBO(小腸内異常細菌増殖症)」と呼ばれる特殊な病態の可能性があり、腸活にいいはずの食品が逆効果になります。

腸内細菌がおもに暮らすのは大腸。大腸にいるはずの腸内細菌が小腸にまで上がってきてしまうと、食後早い時間で発酵してしまうことでガスが発生したり、お腹が動いて下痢になったりします。

ストレスで下痢や便秘など消化器症状を繰り返す「過敏性腸症候群(IBS)」の人に、しばしば合併しています。この場合は発酵性の高い食物繊維は向きません。特殊な除去食が必要になりますので、腸内環境に詳しい消化器科の医師に相談しましょう。

それ以外の場合は、ほとんどの人と腸内環境にとって最高の食材です。

いい腸内環境を作るにはバランスが大切

腸内環境を改善するためには、イヌリンだけ食べればいいわけではありません。腸内細菌には種類がたくさんあり、それぞれ好きなエサの種類が違います。

腸内環境を良くする鍵は「多様性」。さまざまな種類の腸内細菌が活躍する腸内環境を作るには、多様な種類の発酵食品・食物繊維を含む食品(野菜・海藻・きのこ 類・豆類・ナッツ類・雑穀類・芋類)をバランスよく摂り入れることを意識してみてください!


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桐村里紗
医師/tenrai株式会社 代表取締役

臨床現場において、最新の分子栄養療法や腸内フローラなどを基にした予防医療、生活習慣病から終末期医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。食や農業、環境問題への洞察を基にした人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルスケア」や女性特有の悩みを解決する「フェムケア」、また世界の最新ヘルストレンド情報などを様々なメディアで発信、プロダクト監修を行なっている。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。他、「とくダネ!」などメディア出演多数。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか~口臭と体臭の科学』(光文社新書)、『腸と森の「土」を育てる〜微生物が育てる人と環境』(光文社新書)ほか多数。
tenrai株式会社:https://tenrai.co/ 

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Kaoru Sawa
ウィメンズヘルス・エディター

美容・ダイエットを中心とした記事を担当。自他共に認める美容マニアで、ハマり症。その気質から、自分が挑戦する取材企画には必ず結果へのコミットにこだわる。男性ライフスタイル誌、女性向けアプリメディアなどを経て、2021年までウィメンズヘルス編集部に在籍。