「ルルレモン」と聞いて真っ先に頭に浮かぶイメージはなんだろう? バンクーバー発のアスレティックウェアブランド。ヨガウェア、テニスウェア、ライフスタイルウェアなどラインナップは幅広いけれど、ランニングの印象は強くなかったかもしれない。だが、ルルレモンが本気で女性ランナーを応援する姿勢を示す、一大プロジェクトが進んでいる。

自分史上最長距離を目指す6日間のウルトラマラソン「FURTHER」

a group of people running on a road with a large sign
lululemon

この壮大なプロジェクトのスタートは2023年5月。“すべての人の可能性と女性の可能性をたたえる”ためにスタートした長期的なグローバルキャンペーン。そのクライマックスとも言えるイベントが、2024年3月6日(水)から11日(月)まで6日間にわたって開催された女性のためのウルトラマラソン「FURTHER」だ。

会場となったのは、カリフォルニア州ラ・キンタにあるカウィラ湖の周囲を走る4キロの公認周回コース。世界中から選ばれた10人の女性アスリートたちが、6日間でそれぞれの自己最長記録を目指した。10人の中には48時間走の世界記録を持つウルトラマラソン界のレジェンド的ランナーもいれば、1年前まで1キロ走ることもできなかったというランナーもいる。国籍も体形も目標もさまざま。1日に何時間走るか、どの時間帯に走るかもアスリートそれぞれの自由。10人のアスリートにはそれぞれに7人のサポートスタッフ、メディカルスタッフ、専属シェフがつき、コース脇には休息を取るためのキャンピングカーが並ぶアスリートヴィレッジも用意された。

10人の出場アスリートそれぞれに合わせたウエアや小物を開発

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lululemon

このウルトラマラソンレースは、単に記録を更新することが目的ではない。ルルレモンは昨年5月にこのレース開催を発表すると同時に、10人のアスリートのための製品開発をスタートさせた。全員の体を3Dスキャンして作ったマネキンを用意し、カナディアン・スポーツ・インスティテュート・パシフィックとルルレモンの研究チームが共同で、それぞれのランナーの各種データを計測、必要なウエアやギアを開発してきた。体形や走る速度が違えば、必要な装備も異なるのは当たり前。また、昼間は気温が20度以上、強い日差しの中を走るランナーのための機能性を備えたアイテムも多数揃えた。今回新たに実装された新しい技術は36に及ぶ。

a man running on a road
lululemon

その一例は、オールインワンの「ランシー」。ウエスト周りには360度の収納ポケットがあり、オールインワンで起こりがちなトイレ休憩時の不便さを解消するためにショーツ部分も全てを脱がずとも用を済ませることができる仕様に。スポーツブラの胸元に給水ドリンクを挟むランナーがいたことから、スポーツブラの内側にもポケットを搭載、暑さ対策には保冷剤を収納できる冷却ベストやアイススリーブ、クーリング・ヘッドウェアなど多数のアイテムを開発した。他にも、ポニーテールを頭の高い位置で結ぶランナーのためには、帽子の高い位置にポニーテールを出すための穴を開けたアイテムまで用意するという細やかなケアぶりだ。10人のランナーのために用意されたのは、6日間で200ピース以上のウエア&ギア、ソックスだけでも1日に36足を揃えたという。

6日間で世界記録を次々と塗り替える快挙!

a person running on a road
lululemon

こうしたルルレモンによる全面的なサポートの下で開催されたウルトラマラソンレースで、結果としてすべてのランナーが自己最長記録を更新し、数々の世界記録も樹立された。10人の走行距離の合計は2880マイル(4636キロ)。ちなみに今回更新された世界記録は、カミーユ・ヘロンの300マイル、400マイル、500マイルの世界記録、500キロ、600キロ、700キロ、800キロ、900キロの世界記録、そして3日間、4日間、5日間、6日間の世界記録だ。

a woman running on a road
Photo: Lululemon

6日間をかけて数百キロを走るという、想像もつかない過酷なレース。それでも印象的だったのは、ランナーたちの笑顔と陽気なムード。互いに声を掛け合い、笑い合い、好きなものを食べて、飲んで、それぞれのニーズに合わせて用意されたウエアとランニングシューズ(※日本未発売)に身を包み、肉体的・精神的に極限の状況でも、決して足を止めなかった。

ルルレモンの公式サイトインスタグラム、各ランナーのSNSを通じてリアルタイムで実況中継された彼女たちの姿は、世界中の人々をエンパワーしたに違いない。

ウルトラマラソンの結果を製品へと反映させ、私たちのもとへ

a man running on a road
lululemon

今回のレースでアスリートたちが着用したウエア類は、ほとんどが非売品。だが実際に着用して走ってわかった気付きやデータが、私たち一般ランナーのためのプロダクトに落とし込まれ、製品化される予定だ。今回のレースはルルレモンが女性や女性アスリートと本気で向き合い、女性ファーストの製品開発を行う姿勢の現れでもある。今回のレースを通じて得られた、女性ランナー10人による6日間のランニングの生理学的・生体力学的影響などの調査結果の第一弾は、2024年秋に発表される予定だという。

日本でも、すべての女性ランナーを応援

a group of people running
shinsuke kamioka

世界記録を樹立するランナーだけでなく、ほとんどの時間を歩き続けることで自身の最長記録を更新したランナーも等しくサポートする姿勢からもわかるように、ルルレモンは挑戦するすべての女性をサポートしたいと考えている。

例えば日本では、ランナーの森川千明さんが主宰するコミュニティ「RUN TO GROW for women」もルルレモンがサポートしている。このグループは、「女性ランナーが、今よりも、もっと輝けるように! ランニングを通して、目標を達成する喜びを感じてもらいたい」と願うエリートランナー集団、ウェイズエリートが企画した。2024年春シーズンに向けて、もっと速くなりたい、挑戦したいという女性たちが集まり、6回の練習会を通してその目標達成を目指してきた。

a group of people running on a street
shinsuke kamioka

森川さん自身も実業団のランナーとして走っていた経験から、引退し、アスリートでは無くなった時に自分の存在価値がなくなったように感じた経験があるという。「速くないと価値がないと思っていたので、エリートランナーとして走り続けていました。でも、女性は出産や育児などでそれまでと同じように走り続けることが難しくなる現実もあります。そんなことにもどかしさを感じていた時にバギーランに出会い、速くなくてもいい。ランニングには色々な楽しみ方があるんだということを知りました」

その出来事をきっかけに、ルルレモンと協働してバギーランのイベント「インフィニティ」をスタート。これからも元エリートランナーの受け皿となるような活動を広げていく予定だという。

今後、女性ランナーに優しいブランドは? という質問に、多くの人が「ルルレモン」と答えるようになる日も遠くないだろう。

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Kiriko Kageyama
エル・グルメ編集長/ウイメンズヘルス編集長

『エル・オンライン(現エル・デジタル)』のファッションエディターを経て、フリーランスに。女性ランナーによる企画集団「ランガール」を設立。その後女性誌立ち上げやWebメディアの立ち上げを経て2017年にウィメンズヘルス』日本版ローンチ時から編集長に。2023年夏よりエル・グルメ編集長も兼務。趣味は料理を作って友人たちに振る舞うこと。