ランナーにとって気になる体重とタイムの関係性。体重が減ると、タイムは速くなるのだろうか? 
自己新記録を出したい人には「YES」と言ってあげたいけれど、実際は残念ながら「状況次第」みたい。早速専門家の意見を見ていこう。

先日、米女子陸上選手のメアリー・ケインは、長距離走選手強化を目的としたナイキ・オレゴン・プロジェクト」におけるコーチ(アルベルト・サラザール)のパワハラ問題を公にした。彼女いわくサラザールは、利尿促進剤などを使って「体重を減らすよう常に圧力をかけてきた」そう。

言うまでもなく、ランナーが体重を減らす必要はない。ダイエット目的でランニングを始める人が多いのは確かだけれど、ランナーの体型やサイズは実にさまざま。

でも、健全なアプローチさえ取れば、ランニングで体重を減らすこと自体に問題はない。実際に、走る距離を伸ばしたことで体重が減った人もいるかもしれない。

Low Section Of Woman Tying Shoelace On Street During Sunset
Sengchoy Inthachack / EyeEm//Getty Images

体重がタイムに影響を与えるというエビデンスは存在する。米国スポーツ医学会誌『American College of Sports Medicine』に掲載された論文によると、体重を5%減らせば3kmのタイムが3.1%速くなり、体重を10%減らせば3kmのタイムが5.2%速くなる。一般的に、動かす体重が少なければ少ないほど速く走れて当たり前(バックパックを背負って走れば、通常はペースが落ちる)。

「簡単に言うと、V8エンジン搭載のゴーカートはV8エンジン搭載のトラックより速いということです」と説明するのは、米ケンタッキー大学健康科学部のケビン・ムラック博士研究員。

でも、体重を減らしたところで必ずしもタイムが縮むとは限らないという。体重はタイムに影響を与える要素のひとつだけれど、それだけでタイムが決まるわけじゃない。

なぜ? 米サンフランシスコ州立大学運動生理学准教授のジェイムス・バグリー博士いわく、ランニングエコノミー(体が酸素をいかに効率的に使っているか)には「体重」「体重配分(体のどこか重いか)」「体脂肪率」という3つの要素が影響を与える。

ここで2つ目の要素「体重配分」について考えてみよう。バグリー博士によると、ふくらはぎが太くて足の重量が大きい人はランニングエコノミーが低い。実際に米コロラド大学ボルダー校の研究結果は、ランニングシューズが100g重くなるたびに、走るペースが0.78%落ちることを示している。「でも、大腿四頭筋が重い分には問題ありません」

一流の長距離ランナーは大抵みんな似たような体型をしている(四肢が長い/ふくらはぎが細い/胴体が短い/背があまり高くない)けれど、身体組成を改善しても(筋肉をキープしながら体脂肪を減らしても)タイムは数分しか縮まない。

「もともとヘルシーでスポーツマンらしい体型をしている人は、(身体組成を改善しても)それほどタイムが縮みません」とバグリー博士(米国運動競技会の体脂肪率ガイドラインは、男性アスリートで6~13%、女性アスリートで14~20%)。

体脂肪率が米国運動競技会のガイドラインより高い人は、体脂肪を減らすことでタイムが縮むかもしれないけれど、専門家が言うように、それでトレーニングを犠牲にするのは絶対NG。残念ながら、極端なカロリーカットや糖質制限がトレーニングだけでなくマインドセットにも悪影響を与えるケースは少なくない。

「耐久アスリートおよびプロアマのトライアスロンコーチとして15年やってきましたが、体重や見た目のことばかり考えていると、大抵はケガやバーンアウトにつながります。そうなると、成功のカギである一貫性が保てません」と話すのは、米ジョージアサザン大学の准教授で運動生理学研究所長のグレッグ・グロシキ博士。「SNSには不安になるほど筋肉質なアスリートの写真が溢れているので見た目のことばかり考えてしまいがちですが、パフォーマンスを高めたいなら、体重のことは忘れて走ることに集中しましょう

※この記事は、ランナーズワールドから翻訳されました。

Text: Kiera Carter and Danielle Zickl Translation: Ai Igamoto

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