TikTokがまたしてもダイエットの新トレンドを生み出した。今回の主役はオートミール。いま話題の減量薬オゼンピックと掛け合わせ、“オートゼンピック”なんて呼ばれているけれど、面白いのはここまでで手を出すのは絶対NG。一体なぜ? このダイエット方法でオートミールを無駄にするべきではない理由を専門家が教えてくれた。オーストラリア版ウィメンズヘルスから見ていこう。

オートゼンピック・ダイエットとは?

原材料はTikTokのユーザーによって少しずつ異なるけれど、一般的にオートゼンピック・ダイエットでは、オートミール、水、レモンかライムの果汁で作った濃厚なドリンクを朝食にする。

このドリンクのカロリーは乾燥したオートミール1食分(40g)で約150~160kcal。これを飲んだ上で昼食以降の食事を通常通りに摂取すると、満腹感と満足感が1日中続くらしい。

このダイエット方法をベースにした“オートゼンピック・チャレンジ”では、体重を1週間に2kgずつ、2カ月で18kgも減らせると言うけれど、持続可能性の観点から、体重を1週間に0.5kg以上減らすのは勧められない。

オートゼンピックをミールリプレイスメントとして使う場合は、おそらく1食分が通常の朝食よりも少なくなる。そのため、1食分の総カロリー含有量が減り、カロリー不足(赤字)の状態を作り出せる可能性が高いけれど、だったら似たようなカロリー量で栄養価がもっと高いオプションを選んだほうがいい。

そもそも、このドリンクはまったくもって食欲をそそらない。少なくとも私なら、乾燥したオートミールとライム果汁と水を飲むためにわざわざキッチンに立ったりしない。

オートゼンピック・ダイエットで本当に体重は減る?

理論上は減るかもしれない。カロリーの摂取量が減れば、体重も減ることが多いからだ。でも、先述の通り、このダイエット方法は健康的とは言えないし、まず長く続かない。

原材料そのものは極めて“クリーン”。水分とビタミンC、食物繊維も豊富に含まれている。でも、オートミールはタンパク質や良質な脂質と一緒に摂取しないと、血糖値を急上昇させてしまう。どう考えてもバランスの良い食事とは呼べないし、このドリンクに頼っていれば、いずれ大事な主要栄養素が不足することになる。

また、このダイエット方法で体重を“長期的に”減らせることを証明した研究結果は存在しない。それに、TikTokでこういう“ハック”を作るのは、大抵ヘルスケアの専門知識を持ち合わせていない人。このプラットフォームから素晴らしいトレンドが生まれることはあるけれど、試すだけ時間の無駄になるようなトレンドも多いのが現実だ。

ウエイト・シェイミングと減量薬オゼンピック

効果を裏付けるエビデンスがないことに加え、急激に体重を減らそうとしている点でも、このダイエット方法は勧められない。ご存じの通り、ウエイト・シェイミング(体重を理由に人をけなすこと)とダイエット文化は、自分の体と前向きな関係を築こうとする私たちの行く手を阻む。最初のうちは体重が減ったとしても、そのような非包括的で断片的なアプローチは多くの場合“続かない”。

栄養士のリヴ・モリソンは、このトレンドが社会に与える影響を懸念する。「食事は楽しいものでなければなりません。このようなトレンドは私たちと食べ物の関係を悪化させ、本来なら健康的な食べ物を不健康にして、食事の定義を変えてしまいます。オートミールを多くの人が効果を実感している薬剤に紐づけるのは、少し危険な気がします」。しかも、TikTokユーザーの大半は摂食障害のリスクがもっとも高い10代や20代の若者だ。

急激な減量がもたらす問題

モリソン氏によると、「オートゼンピック・チャレンジで体重が18kg減る」と聞いた人は、「他の食事もオートゼンピックにすることで、もっと体重が減らせるかもしれない」と考えて、さらに自分を追い込む可能性がある。

「これは健康的なアプローチではありません。そこが心配なところです。私の中で“チャレンジ”という言葉は、その対象が食べ物であろうとスタイルであろうと体重であろうと危険信号。チャレンジには開始時間と終了時間があるからです。チャレンジで生じる変化は、健康的で持続可能で進歩的な変化とは言えません。そもそも、健康的なライフスタイルは毎日少しずつ築き上げていくものです。食品群を制限する必要はありません。ありとあらゆる食べ物を取り入れて、楽しめばいいのです。健康的なライフスタイルには“最終目標”もありません。これは食生活にも運動にも言えることですが、ずっと続けられてこそ意味があります。健康的なライフスタイルは、ダイエットやチャレンジではなく生き方ですから」

ネット上のトレンドと危険信号

ネット上で新しいトレンドを見かけたら、まずはその危険性を見極めることが大切。宣伝しているのは誰? 情報源は信頼できる人? それとも素人? 表現や言い回しに問題はない? その食事は実際に楽しめる? 長期的に続けられる? あなたと食べ物の関係性に良い影響を与えそう? それとも、複数の食品群を排除するよう勧めている?

「その場しのぎのダイエットが私のフィードに溢れているのを見るたびに腹が立ちます」と話すのは、複合的ウェルネスサービス『Kic』共同創業者のステフ・クレア・スミス。「オートゼンピックは斬新なダイエット方法ではありません。見栄えはよくても、中身はただの食事制限。あれほどの短期間で、あれほどの体重を減らすのは体によくありません。大事な栄養だけでなく、食事の楽しみも失われてしまいます」

「20代前半の頃は、私も食事制限をしていました。有害なダイエット文化にそそのかされていたのです。だから私は、流行のダイエットが持つ負の側面を声を大にして訴えることに情熱を注いでいます。このトレンドを白日にさらしたくなかったので、自分のTikTokで取り上げるつもりはなかったのですが、このダイエットの誤った“メリット”を紹介する動画があまりにも多いので、声を上げざるを得ませんでした。食事を楽しみつつも健康でいることは可能です」

私たちも、このトレンドには絶対反対。

※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Scarlett Keddie Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。