「なぜ人間はこうも食べる?」このシンプルな問いに対する答えは複雑で多面的。私たち人間が食べてばかりいるのは、行く先々でおいしい物に出会うからかもしれないし、1日に何度も間食をするのが普通という(食品業界によってあおられた)考え方のせいかもしれない。

仕事が大変すぎてジャンクフードを食べずにはいられない日もあるだろう。では、どうして“こうも”食べるのか? その答えは私たちのホルモンにある。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

小さな化学的メッセンジャーであるホルモンは、通常の食欲や大食いしたい衝動から脂肪が蓄積される場所まで、ありとあらゆる物事を管理している。だから、あなたのダイエットの成否はホルモンにかかっていると言っても過言じゃない。

「ホルモンは体重(とダイエットの成否)を左右する支柱です」と語るのは、英ロンドン肥満クリニックで内分泌学と体重管理を専門とするチナドライ・ラジェスワラン医師。

「ダイエットに失敗したと言って自分を責める人は多いですよね。でも、ダイエットがうまくいかないのは、その人たちの意志が弱いからではありません」

空腹ホルモンとは?

食欲関連のホルモンには、空腹ホルモンのグレリンと満腹ホルモンのレプチンの2種類がある。まずは後者のレプチンについて見ていこう。

脂肪細胞に住んでいるレプチンは、あなたが満腹になった時点でメッセージを送り、食欲を調節してくれる有益なホルモン。でも、あなたの体重が減り、すみかである脂肪細胞が消え始めるとレプチンの量も減っていく。

レプチンが少なくなると「満腹だから食べるのは止め」というメッセージが送られてこなくなるので、あなたは箸を置かず、それこそ人がこうも食べる理由を考えながら食べ続ける。こうなると、普段は有益なレプチンがヨーヨーダイエットの一因になってしまう。

過体重が長く続けば、レプチン抵抗性が生じることもある。「過体重や肥満の人の体内ではレプチンが大量に分泌されます。そうすると、レプチン受容体(レプチンが結合する脳の領域)がキャパオーバーになってしまい、これ以上レプチンが入ってこないようにするためのバリアを作り始めます」とラジェスワラン医師。

「この状態が慢性化すると、満腹を感知する体の能力が完全に失われてしまいます」。言い換えれば、空腹の合図も信用できなくなるということ。

おなかがすいて仕方ないのはグレリンのせいかもしれない

腸に住むグレリンはレプチンと協力して私たちの食欲を調節しており、胃がほぼ空っぽになると、食事の時間であることを脳に知らせる。

ラジェスワラン医師によると、グレリンは脳と消化管をつなぐ迷走神経を通して働き、あなたが食事をとってから約3時間は大人しくしている。

でも、あなたの体重が減っているときは体が餓死の危険性を察知して(体には、あなたが意図的に体重を減らしていることが分からないため)、グレリンの分泌を加速させる。その結果、いつもよりおなかがすいて食べ物を漁りながら、またしても人がこうも食べる理由を思案する羽目になる。

とある実験では、過体重の成人集団が体重を平均13.5kg減らしたところ、グレリン値が体重を減らす前より20%高くなった。

空腹ホルモンを大人しくさせることは可能?

ある程度は可能。空腹ホルモンを大人しくさせておくための第一のルールは、すぐに体重が減るという流行のダイエットに手を出さないこと。このようなダイエットではリバウンドが避けられないし、レプチン抵抗性も生じてしまう。

あなたの食事を構成する1つひとつの食品に気を配ることも大切。満腹の間はグレリンも黙っているので、低カロリーで腹持ちのよい間食(ポップコーンやブロススープ)を。

また、レプチン(たくさん欲しいホルモン)の不足と亜鉛の不足を関連付ける研究結果も存在するので、亜鉛が豊富な食品(豆類、牛肉、カシューナッツなど)を取り入れて、体内の満腹感知器(レプチン)を増やし、健康的な体重の実現と維持を後押ししよう。

「亜鉛はレプチンの分泌と輸送に関係しているため、亜鉛が不足するとレプチン抵抗性が生じます」とラジェスワラン医師。

「亜鉛はグルコース(糖)と脂質の代謝においても重要な役割を担っています」。そして、早食いは絶対禁物。ゆっくり食べれば、レプチンが自分の仕事に集中できる時間が増える。

最後に、今夜は少し早く寝てみよう。米シカゴ大学の論文によると、ちょっとした寝不足でもグレリン値が高くなり、体に脂肪がたまりやすくなる。

これで2つのホルモンは、あなたの味方だ。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Editor of Women’s Health Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。