ふと気付けば冷蔵庫を見つめている? どうやら、その行動の裏には正当な理由があるみたい。科学者の話では、人間には5種類の食欲があり、この5種類の食欲は互いに連携することで、体が効率的に機能するための栄養素(タンパク質、糖質、脂質、ナトリウム、カルシウム)を必要なだけ取り込めるようにしているそう。

人間には5種類の食欲がある

動物の行動に関する過去30年の研究の中で、著書『Eat Like the Animals: What Nature Teaches Us About Healthy Eating』を共同で執筆したデイヴィッド・ローベンハイマー教授とスティーブン・シンプソン教授は、人間の食生活に関する数々の重大な発見をしてきた。

学術誌『PLOS One』に掲載された論文によると、ローベンハイマー教授とシンプソン教授は南アフリカのケープ半島に生息するチャクマヒヒの栄養管理方法を調べるため、30日にわたりステラという名のメスのヒヒの食事内容を事細かに記録した。

すると、品目は日によって違ったものの、ステラの食事は「タンパク質と非タンパク質(脂質と糖質)のバランスが驚くほど一貫している」ことが分かった。続いて、ローベンハイマー教授とシンプソン教授は人間を対象に同様の研究を行った。

この研究に有志で参加した10名は別荘に1週間滞在し、2日間、自分の好きなタイミングでビュッフェ形式の食事を楽しんだ。その後、この10名は2つのグループに分けられて、2日にわたり、高タンパクのビュッフェか低タンパク・高糖質・高脂質のビュッフェのいずれかを摂取した。そして最後の2日間は、みんな最初のビュッフェに戻った。

その結果(人間と動物の摂食行動に関する学術誌『Appetite』掲載)、低タンパクの食事をした人は、タンパク質の不足を補うためにカロリーと糖質の摂取量を増やしていたことが分かった。一方、高タンパクの食事をした人は、バランスの悪さを補うために食べることが少なかった。

科学情報誌『New Scientist』に寄稿した記事の中で、ローベンハイマー教授とシンプソン教授は「たった1つしか存在しないパワフルな原動力として食欲を見るのは間違いです」と語っている。「さまざまな栄養素を管理してバランスの良い食生活を築くためには、それぞれ別の食欲が必要です」

それではなぜ、タンパク質、糖質、脂質、ナトリウム、カルシウムの5種類なのか? 「この5つは進化論的に正当な理由から選ばれています」と2人の教授は続ける。「その理由の1つとして、生体系には、これ以上複雑になると効率的に機能できないという限界があります。つまり、私たち人間には、何十種類もの栄養素に対して、それぞれ別の食欲を備えることができなかったということです」

「2つ目の理由は、この5つがどれも特定の量で必要とされる栄養素だからです。そして3つ目の理由は、その栄養素が私たちの祖先が暮らしていた環境では希少だったからです。現にナトリウムは、鉱床などで探すための専門の機械が必要でした」

超加工食品は私たちの食欲システムを混乱させる

超加工食品には通常、自炊では使わないような化学物質(着色料、乳化剤、甘味料、安定剤、保存料など)が使われており、パンやシリアルから冷凍食品や加工肉まで、あらゆる種類の商品に含まれている。

「超加工食品には高品質のタンパク質が少なく、単糖や精製糖質が多いです」と説明するのは、スキンケアクリニックHarley Street Skin Clinic共同創業者のアーメル・カーン医師。「このような食品には、食品メーカーがコストを理由に使いたがらない一部の必須ミネラルが不足していることもあります」

超加工食品に頼っていると、かなりのカロリーを摂取しないと目標とするタンパク質の摂取量に到達できなくなってしまう。そして、私たちの体は、その過程で炭水化物と脂質を摂りすぎることになっても、自然とタンパク質の目標摂取量を満たそうとする。

「太ると分かっていても超加工食品を食べてしまうのは、超加工食品に含まれる脂質や糖質に対する私たちの食欲が強いからだと思われていますが、実際はそうではありません」とローベンハイマー教授とシンプソン教授は説明する。

「実際は、脂質や糖質の摂取量を制限する私たちの能力よりも、タンパク質に対する私たちの食欲のほうが強いからです。脂質と糖質によってタンパク質が薄められると、いつもなら私たちに『脂質と糖質の摂取をやめなさい』と指示する体内の仕組みが、タンパク質に対する食欲によって乗っ取られてしまいます」

同様に、野菜の代わりにステーキばかり食べてタンパク質を摂りすぎるのも問題。

「タンパク質に偏りすぎの食生活では、カロリーの摂取量だけでなく、微量栄養素とミネラルの摂取量も制限されます」とカーン医師。「その結果、体の正常な機能が失われ、代謝が遅れて免疫機能が崩壊することもあります」

もっとインテュイティブ(心と体に従って直感的)に食べるには

毎食必ず主要栄養素(タンパク質、糖質、脂質)のバランスを取るようにしよう。「タンパク質は身体組織の構築と修復に使われます」とカーン医師。「糖質はエネルギーになる一方で、脂質はゆっくりと放出されるエネルギーになり、脂溶性の微量栄養素とミネラルを産生します」

ことあるごとにスパイスを使うのもいいし、ハーブなら家の中や小さな庭で育てられる。「調味料は大事です。そこから微量栄養素が摂取できたりしますから」

早食いをする傾向がある人は、ゆっくり食べるようにして。カーン医師によると、腸が脳に満腹シグナルを送るまでには10~15分かかるそう。

そして今度買い物に行くときは、あなたの中に眠るステラを呼び覚まし、多種多様な幅広い食材をカゴに入れよう。そうすれば、主要栄養素と微量栄養素のニーズが自然と満たせるようになる。

「食事のバランスが良ければ、高カロリーの食品(炭水化物や脂質)に頼らなくても満腹になれますし、人体の正常な機能に不可欠な微量栄養素とミネラルも十分に摂取できます」とカーン医師。

※この記事は、『Netdoctor』から翻訳されました。

Text: Medically reviewed by Dr Roger Henderson and words by Annie Hayes Translation: Ai Igamoto

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Dr Roger Henderson

Dr Roger Henderson is a Senior GP, national medical columnist and UK medical director for LIVA Healthcare

He appears regularly on television and radio and has written multiple books. His full-time medical responsibilities include being a senior partner of a six doctor general practice in Shropshire, running a main surgery and two branch surgeries, as well as teaching medical students and GP registrars.

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。