自分のために、誰かのために頑張る姿にエネルギーをもらえる、ゴールデンウィーク公開の新作映画をご紹介。思わずエールを送りたくなる映画は、自分への応援歌にもなるはず! 心動かす映画体験をぜひ劇場で。

【おすすめ映画1】『セールス・ガールの考現学』

映画

モンゴル映画のイメージを一新するキュートな成長物語

モンゴル映画といえば大草原を想起させるが、『セールス・ガールの考現学』はそのイメージを鮮やかに覆す。モンゴルの都市ウランバートルで、ひょんなことからアダルトグッズ・ショップでアルバイトをすることになった女の子の成長譚を、ユーモアたっぷりに清々しく描く。うっすら口髭が生えた素朴な女の子から、おしゃれで芯の強い女の子へと変わっていく主人公サロールを演じるのは、300人のオーディションで選ばれ映画初主演を果たしたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガル。サロールと不思議な友情を育む店のオーナー・カティアは本作で30年ぶりに銀幕復帰したベテラン、エンフトール・オィドブジャムツが演じている。

Story

セールスガールの考古学

大学で原子力工学を学ぶサロールは、けがをしたクラスメイトから1カ月だけアルバイトの代理を頼まれる。高額で簡単な仕事だと聞いて向かった先は、街角の半地下にある大人のおもちゃが並ぶアダルトグッズ・ショップだった。店のオーナーは、高級フラットに暮らす謎多き女性、カティア。仕事が終わると、サロールは1日の売り上げを届けるため彼女のもとへ向かう。そんな日々を重ねるうち、ふたりには不思議な友情が芽生えていく。

自分らしく生きるため、自分自身と向き合う

セールスガールの考古学

親に勧められた大学で、興味もなかった原子力工学を学ぶサロールにとって、アダルトグッズ・ショップでのバイトは新しい世界を学ぶフィールドワークのよう。経験豊富なカティアは、彼女に目の覚めるようなアドバイスと、これまでになかった体験をくれる。様々な人との出会いによって、羞恥心を捨て、ありのままの自分と向き合ようになるサロール。悩みながら、笑いながら、自分らしく生きるための道を見つけていく彼女の姿に背中を押される。

セールス・ガールの考現学

セールスガールの考古学

4/28より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本・プロデューサー:センゲドルジ・ジャンチブドルジ
出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツ
配給:ザジフィルムズ
2021年/モンゴル/123min
© 2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures

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【おすすめ映画2】劇場版 TOKYO MER~走る緊急救命室~

tokyo mer

はじまりは、医療関係者の方々へのリスペクトとエール

2020年コロナ禍で、患者のために未知のウィルスに立ち向かっていたすべての医療関係者へ、リスペクトとエールを込めてスタートしたテレビドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室』(TBS)。オペ室を搭載した大型車両ERカーで、事件・事故・災害の現場に駆けつけ、危険を顧みず命を救うために戦うあの救急救命チームが劇場に帰ってきた。東京都知事直轄の救命医療チーム「TOKYO MER」に対し、厚生労働大臣は冷徹なエリートを集めた「YOKOHAMA MER」を新設。2つのチームが衝突する中、前代未聞の緊急事態が発生する。

Story

tokyo mer

横浜ランドマークタワーで、数千人を巻き込む大規模な爆発事故が発生する。TOKYO MERの喜多見チーフ(鈴木亮平)は、いち早く現場へ向かうべきと主張。しかし、YOKOHAMA MERの鴨居チーフ(杏)は「安全な場所で待っていなくては、救える命も救えなくなる」と言い、真っ向から対立する。地上70階には193名が取り残され、爆発は次々と連鎖、炎と煙で救助ヘリは近づけない。さらに、喜多見と再婚した千晶(仲里依紗)もビルのなかにいることが判明する。千晶は妊娠後期で、切迫早産のリスクを抱えていた……。

救急救命医の信念に“全力を尽くす”という意味を知る

tokyo mer

どんな現場にもいち早く駆けつけられるよう体を鍛え、過酷な状況にも物おじしない強靭なメンタルを持ち、何よりひとつの命を救うために全力を尽くす。そんな喜多見の救急救命医としての覚悟を存分に体現した鈴木亮平の演技が光る。綿密な取材のもと描かれるリアリティある救助活動、圧倒的な緊迫感と息もつかせぬ展開に目が離せず、チームメンバーがそれぞれ成長していく姿には胸を打たれる。

劇場版 TOKYO MER~走る緊急救命室~

tokyo mer

4/28より全国公開
監督:松木彩
出演:鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、要潤、小手伸也、佐野勇斗、ジェシー(SixTONES)、フォンチー、菜々緒、杏、徳重聡、古川雄大、渡辺真起子、橋本さとし、鶴見辰吾、仲里依紗、石田ゆり子
配給:東宝
2023年/日本/128min
©2023 劇場版『TOKYO MER』製作委員会

公式HP

【おすすめ映画3】それでも私は生きていく

それでも私は生きていく

ミア・ハンセン=ラブ監督が自身の経験を投影した自伝的作品

『未来よ こんにちは』で第66回ベルリン国際映画祭で銀熊(監督)賞を受賞したミア・ハンセン=ラブ監督の8作目の長編作品。子育てと仕事、そして父の介護……長い間自分のことは後回しにしてきたシングルマザーのサンドラが、新しい恋と出会う。悲しみと喜びの間で揺れ動く女性の心の機微を描いたヒューマンドラマ『それでも私は生きていく』。監督自身の父親が病を患っていたときに書き上げた自伝的脚本でメガホンをとり、第75回カンヌ国際映画祭でヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を受賞した。

Story

それでも私は生きていく

5年前に夫を亡くしたサンドラは、通訳の仕事をしながら、8歳の娘を育てるシングルマザー。かつては哲学の教師として多くの生徒から尊敬されていた父のゲオルグだが、今では病を患い視力と記憶を失いつつある。父を訪ねるたび、変わりゆくその姿を目の当たりにし、サンドラは無力感を抱いていた。そんなある日、旧友のクレマンと再会。二人で過ごす楽しい時間に心が安らぎ、既婚者だと知りながらサンドラはクレマンに惹かれていく。

現実を受け止める厳しさと、それを乗り越えていく強さ

それでも私は生きていく

衰えていく父の病状を受け止め、成す術もない自分に苦しむ一方で、不安定なクレマンとの関係に幸せを感じている自分もいる。正反対の感情だが、サンドラはそのどちらにも揺るがない愛がある。蔑んだり、妬んだり、嫉妬したりすることはなく、ただシンプルに相手を愛し、できることを一つずつ重ねていく日々。現実を受け止める厳しさ、それを乗り越えていく強さ、その両方を持ったサンドラを、フランスを代表する俳優、レア・セドゥが繊細に演じている。娘として、母として、女として、様々な顔を持ちながら日々を乗り越えていく女性たちに贈る人生賛歌。

それでも私は生きていく

それでも私は生きていく

5/5より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン
配給:アンプラグド
2022年/フランス/112min/R15

公式HP

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音田 博美
編集ライター

邦画を中心に紹介する映画雑誌のエディターを経て、フリーの編集ライターに。俳優・映画監督など著名人のインタビュー取材、『カメラを止めるな!』などの映画パンフレットの編集をはじめ、ドラマのムック本にも参加。2015年に立ち上げたコンテンツ制作会社Listenでは、映画公開特番などの映像制作にも携わっている。