花粉症で悩んでいる人は多いのに、実はあまり知られていない免疫力の関係性。免疫力は健康のバロメーターで、花粉症にも大きく影響するという。そこで、花粉症のセルフケア指導にも定評のある入谷栄一先生に、花粉症と免疫力の関係を教えていただいた。

「免疫力が高い=健康」は間違い? むしろ花粉症になりやすい!?

花粉症といえば、くしゃみや鼻水、鼻づまり。悩ましく辛いこれらの症状は、本来は体を守るための免疫機能が、過剰に働いて起きるという。つまり、花粉症は免疫力と大きく関わっているのに、そのことに無関心だったり、誤った認識を持っている人が多い、と入谷先生。

「免疫力を上げるのは体にいいこと、つまり免疫力が高い方が健康だと思っている人が多いようですが、そうとは限りません。免疫力が高いために引き起こされる病気も多くあります。花粉に反応しすぎてしまう花粉症は、この典型的な例。特定の花粉に対して免疫力が高すぎて、本来なら反応しなくていい花粉にまで免疫機能が働いてしまうのです」

さらに、花粉症が30代や40代に人に多く見られるのも、免疫の高低が関係していると入谷先生は続ける。

「免疫力がまだしっかりついていない乳幼児がスギ花粉症を発症するのは、約1%程度。ですが、免疫力がつきはじめた5~10歳では約14%に。10代~30代で約30%、40代では約39%がスギ花粉症をもつと言われています。一方、歳を重ねるとその人数が減る傾向にあります。ひどい花粉症で悩んでいた人でも、加齢による免疫力の低下と共に症状が軽くなることが多く、スギ花粉症をもつ人も60代で約20%、70代以上だと約10%程度にまで減少しているデータがあります」

免疫力が低すぎるのも考えもの。症状が悪化しやすく、不健康に

では花粉症にならない、もしくは症状を軽くするためには免疫力が低い方がいいのかというと、それも違うと入谷先生。

「小さい頃からのアレルギー体質は、年齢を重ねても変わることはないと考えられています。そのため免疫力を低くしたからといって、一度発症した花粉症が完全に治ったりすることは多くはありません。むしろ免疫力を下げようとするのは、非健康的な行為。体を守る働きが低下するため、風邪や感染症、がんなどの病気にもかかりやすくなります。

特にストレスなどで睡眠不足気味という人は、免疫力が低下しやすいので注意してください。交感神経と副交感神経のバランスの乱れと共に免疫のバランスもくずれてしまい、花粉症の症状が強く出ることがあります」

運動のしすぎはNG!? 免疫力は「ニュートラル」が理想

どのような免疫力の状態が花粉症によいかといえば、ニュートラルな状態が理想的だそう。

「花粉症は免疫力のアンバランスによって発症したり、悪化します。その免疫力は、生活習慣によって左右されます。適度な食事や運動、睡眠を心掛け、免疫がニュートラルな状態で安定するような生活を送りましょう。一見、当たり前のことのようですが、実はこれが花粉に反応しにくい体をつくり、症状を軽減させる秘訣です」

このときに気をつけたいのが、“適度”を越えてしまうこと。特に健康志向が高いほど、注意が必要だそう。

「最近の若い女性の間では、健康志向が高まっています。これは喜ばしいことですが、『これがいい』となると、やりすぎてしまう傾向があるように思います。たとえばダイエットだと、『糖質オフが痩せる!』と聞くと、糖質を極端に抜いた食事にしてしまう方も。『運動がいい!』と始めた途端、アスリート並みのハードな運動をしてしまう……。

美容や健康のために努力するのも、さまざまなことに勤勉であることもいいことですが、それが体にいい結果として現れるのかは別の話。度を越えれば、免疫のバランスがくずれて、むしろ不健康になってしまうことを忘れないでほしいですね」

症状がなくても気を抜かないで! むしろ花粉のない時期こそ花粉症予防を開始

花粉のシーズンが終わると症状から解放されて治った気になってしまうけれど、症状のない期間の過ごし方が翌年の症状にも影響する、と入谷先生。

「免疫のバランスは、短期間で整うものではありません。今年、花粉症に悩まされた人は、症状が治まっても免疫力をニュートラルな状態で保つ生活を続けることがポイントになります。それが来年、花粉に悩みにくくなるための第一歩だと考えてください。

また花粉症は突然発症するので、今年花粉症でなかった人も、来年は花粉症になることも考えられます。私は大丈夫、と油断しないでほしいですね」

花粉症ケアの基本は、一年を通して栄養バランスのよい食事、適度な運動、良質の睡眠を心掛けること。それが、免疫力をニュートラルに保つことにつながり、来年の花粉症の予防に。悩ましい症状から解放されても気を抜かず、続けてみて。


■お話を伺ったのは……
入谷栄一(いりたに・えいいち)先生
いりたに内科クリニック院長。総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー内科専門医。がん治療認定医。地域密着型でエビデンスに基づいた治療を続ける一方、わかりやすい説明が好評でさまざまなメディアでも活躍。ハーブやアロマにも造詣が深く、NPO法人日本メディカルハーブ協会理事も務める。著書に『キレイをつくるハーブ習慣』、『病気が消える習慣』(経済界)ほか多数。https://www.iritani.jp/



Photo: Getty Images Text: Yuko Tanaka