仕事にはストレスがつきもの。でも、過度なストレスってどれくらい? 仕事がつらいと感じる時期は誰にでも訪れる。とはいえ、頻繁にストレスにさらされていると、燃え尽き症候群を引き起こす可能性がある。
アメリカの世論調査会社ギャラップが2023年に発表した報告書によると、残念ながら、過去10年間で従業員のストレスは右肩上がり。とくに今年は、2年連続でストレスが過去最悪の水準に達しているという。
まさにこれが、燃え尽き症候群(別名バーンアウト)を発症する原因に。マッキンゼー・ヘルス・インスティテュートが2022年に実施した調査では、アメリカの従業員の4分の1以上が燃え尽き症候群による症状を「ときどき」「頻繁に」または「常に」経験していると答えた。
燃え尽き症候群を経験したことがある人には痛いほどわかる。エネルギーが枯渇し、毎日疲労と戦いながら必死に生きている感覚が。食べることすらストレスに感じたり、食事を抜く傾向に陥る人もいるだろう。
覚えておきたいのは、うつ病と燃え尽き症候群は症状が似ているため、区別するのが難しいという点。この記事では、燃え尽き症候群について知っておくべきことと見極め方をアメリカ版ウィメンズへルスから詳しく解説していこう。
燃え尽き症候群とは?
公認心理師で公認エグゼクティブコーチのサラ・サーキス博士によると、燃え尽き症候群とは仕事に関連して起こる症状で、身体的、感情的に慢性疲労を起こしている状態を指すもの。仕事関連のストレスに定期的に対処していなければ、身体的、精神的、認知的な影響が及ぶ恐れがあるのだという。
燃え尽き症候群になると、満足のいく結果を維持するにはいつも以上に頑張らなければならないと感じたり、いつものように努力しているのに何一つ結果が出せないと感じるようになる。
「活動量が自分の活力のレベルを超えると、人は強いストレスを感じるようになります」と話すのは、 臨床心理士で作家兼講演家のモニカ・ヴェルマーニ博士。「日常で強いストレスにさらされ続けていると、それによる症状が日々蓄積され、燃え尽き症候群を発症することがあります。これは自分のことよりも、他人や自分が果たすべき役割を優先してきたからなのです」
燃え尽き症候群の一般的な症状とは?
基本的に燃え尽き症候群は仕事に関連しているけれど、それが私生活にまで波及することはよくある。サーキス博士とヴェルマーニ博士によると、燃え尽き症候群のもっとも一般的な症状は以下の通り。
不眠症:寝付きが悪い、眠りを維持できないなど、睡眠障害を抱える。サーキス博士いわく、これが体力の消耗やイライラしやすくなる原因につながることも。
痛みを伴う:サーキス博士によれば、筋肉の緊張や頭痛が出現したり、その他の身体的な不調を経験することがある。ヴェルマーニ博士いわく、片頭痛の可能性も考えられるそう。
消化管の問題:ヴェルマーニ博士によると、初期の段階では吐き気や便秘、下痢などの症状が出ることがある。サーキス博士いわく、胃痛や、過敏性腸症候群(IBS)関連の症状が出現することも一般的。
興味や関心を失う:サーキス博士が言うには、仕事や同僚(人間関係)に対する興味や関心が薄れ、否定的な態度や感情を抱きやすくなる。これはとくに、チームで働く人にとっては有害に。
注意力の低下:もっとも一般的な症状はブレイン・フォグ。サーキス博士いわく、注意力や認知能力の低下がみられることもある。
達成感の低下:努力しても成果が出ないと感じ始めるため、それが無力感やモチベーションの欠如につながりやすくなる。その結果、責任から身を引いたり、休養をとるために病気休暇をとることになるかもしれない。
人との関わりを避ける:ヴェルマーニ博士いわく、友人や家族から距離を置きたくなる傾向にある。これにより、周りから不満を抱かれることもあるかもしれない。
燃え尽き症候群を防ぐためにできること
あなたが会社で高い地位にいる場合は、個人のウェルビーイングを優先することをお互いに奨励し合えるような職場環境を作ることに積極的な対策を講じること。そうでない場合は、職場における境界線を設定し、必要なときははっきり「ノー」と言うようにサーキス博士は勧めている。
もちろん、これは口で言うほど簡単なことではない。最初に踏むべきステップとしては、自分が設けたい境界線を明確にし、上司と話す際には自分のニーズを具体的に伝えられるようにあらかじめ準備をしておくこと。
例えば、あなたが週末も働く傾向にある場合、「週末の仕事量を減らしたい」と伝えるよりも、「週末にしっかり休んで月曜日からの仕事に全力で取り組めるように体力を備えたい」と伝えるほうが随分効果的だとサーキス博士は言う。
上司と話をする前にあなたが好きなマインドフルネスを実践すれば、緊張や不安を和らげるのに役立つかもしれない。あなたのニーズによっては何度か話し合いを重ねる必要があることも、心に留めておこう。
日々の気分転換やストレス解消には、会議の隙間時間や仕事が始まる前や終わった後で体を動かしたり、マインドフルネスを実践するのが効果的。「ヨガであれ、(深い)ガイド付き瞑想であれ、それをしている間はそれだけに意識を完全に集中させることが大切です」とヴェルマーニ博士。「一度手を止めて内省すること時間を持つことで、身体的な症状を和らげることができますよ」
原点に戻り、規則正しい食事と十分な睡眠をとることにも焦点を当てるべき。サポートが必要だと感じる場合は、友人や家族、セラピスト、同僚に助けを求めることを恐れないで。
燃え尽き症候群を治すには?
燃え尽き症候群の最善の治療法は予防策をとること。燃え尽き症候群だと気づいたら、サーキス博士いわく、いつも以上にセルフケア習慣を強化するべき。それでも生活するのが難しく感じる場合は、専門家の助けが必要かもしれない。
助けの“種類”に関しては、燃え尽き症候群の症状の度合いによる。症状が軽度の場合はコーチやセラピストの助けを、症状が重い場合はかかりつけ医を受診する必要がある。とはいえ、まずはかかりつけ医に相談をしてアドバイスをもらうようにサーキス博士は勧めている。
「誰かと一緒に協力して治療を進めることができます」とサーキス博士。「自分の目的やミッション、価値観を改めて整理することで、人生のなにがうまくいっていないのかが明らかになります。場合によっては、新しい仕事を探す必要もあるかもしれません」
燃え尽き症候群を放置するとどうなる?
燃え尽き症候群を治すステップをとらなければ、症状はさらにエスカレートする。「そもそもこれらの症状は、体があなたを一度立ち止まらせ、人生を振り返り、リセットする必要があることを教えてくれているのですから」とヴェルマーニ博士。これらの症状を無視していると、以下のような問題を引き起こすことがある。
- 定期的にパニック発作が起こる
- 仕事のパフォーマンスが落ちる
- 欠勤が増える
- 体重が増える、または減る
- 対人関係に対し、長期的に緊張感を抱える
- 免疫力が低下する
燃え尽き症候群は、他の精神的な合併症を引き起こす可能性もある。「燃え尽き症候群を長期間放置した場合は、精神疾患や自殺リスクが高い大うつ病に発展することが考えられるのはなにも難しいことではないでしょう」とサーキス博士。
燃え尽き症候群とうつ病の違いとは?
前述した通り、燃え尽き症候群とうつ病の違いを見分けることは難しいけれど、それぞれには特徴的な症状があるという。
「大きな違いとしては、うつ病は精神疾患とみなされ、燃え尽き症候群は職場の状況に起因しており、それに伴う精神的な症状があるとされている点です」とサーキス博士。
どちらも軽度から生活に支障をきたすほど重症にもなりえるが、うつ病は直接的に仕事に関連しているわけではない。燃え尽き症候群の場合、ワークライフに変化を加えることで生活の質に向上がみられやすいが、うつ病ではこうした変化に関係なく、気分の落ち込みが継続してみられる。
燃え尽き症候群かうつ病かはっきりわからないときは、迷わずカウンセラーや心理士に相談を。
※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。
Text: SABRINA TALBERT Translation : Yukie Kawabata
Sabrina is an editorial assistant for Women’s Health. When she’s not writing, you can find her running, training in mixed martial arts, or reading.
短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。