「暫くセックスをやめる必要がありました」と語るホープ・フリン(31)。「同じ複数の男性と何度も関係を持っていましたが、将来がないことはわかっていたので、このネガティブなセックスのサイクルから抜け出す必要があったんです」

元カレをブロックするだけで十分なのでは? と考える人もいるだろうけれど、ホープは別の方法をとり、セックスから完全に離れる決意をした。そう、彼女自身の精神的な健康と幸せのために。

「セックスをしないと決めて以来、自分の考えがより明確になり、私は何者でなにを望んでいるのか、自分のことに焦点を当てられるようになりました。一人でいること、とくに毎晩一人で寝ることによって、自分のなかにある強さを見つけることができたんです。自分が自分を慰める存在であるために、自分の内側で安心感を見出せたときは深く感動しました」とホープ。

性病検査サービスアプリ「iPlaySafe」のコンテンツ責任者であり、女性のコミュニティ「FeedMeFemale」を創設したホープは、メンタルヘルスのために自発的に独身でいること(または性的に禁欲すること)を実践しており、自己愛のためにセックスをやめている若い女性たちの一人。とくにZ世代の禁欲については近年注目を浴びており、この世代が20年前の若者たちよりも性的に活発でないことは既に調査で明らかになっている。

学術誌『Archives of Sexual Behaviour』に掲載された大規模な研究によると、Z世代の若者には性的なパートナーがいない傾向にあり、2022年にセクシュアルウェルネス企業「LoveHoney」が実施した調査では、18歳から24歳の4人に1人は性経験がないこともわかった。

近年では「Puriteen(純潔なティーン)」がソーシャルメディアでトレンドとなり、TikTokでは「#celibacy(禁欲/独身主義)」に関する動画が1億9500万回も再生され話題となっている。また、Googleトレンドは、「celibacy」というキーワードの検索が90%増加したことを報告している。昨年一時的にトレンドとなったカジュアルなデートを楽しむ「Hot Girl Summer」は明らかに消え去っている。

とはいえ、こうした動きが「宗教」や「出会いがない」という理由でないなら、なぜ若い人たちはますますセックスを避けるようになっているのだろう?

セックスをしない

sex problems, impotence or sexually transmitted disease concept
Tero Vesalainen//Getty Images

「Z世代には、“ゴースティング”(連絡を絶ちその後音信不通にすること)、#MeToo(私も被害者である)、“オーガズムの格差”、“抗生物質が効かない性感染症”、“復讐ポルノ”など……今の若い人たちにとってパートナーとのセックスが憂鬱で非人間的なもの、場合によっては危険なものに感じられる暗い理由がたくさんあります。だからこそ、セックスから離れることをセルフケアの一環として捉えられているのではないでしょうか」と語るのは、セックスに特化したライター兼ブロードキャスターのアリックス・フォックス。

「一部の人にとっては、それが自己尊重の正当な表明でもあります。カジュアルなセックスは、一部の人にとっては解放感をもたらし、自分に自信が付くのかもしれませんが、他者が自分の体に触れることを完全に拒むことで力強さを感じられる人もいます」とフォックス。

有限な #SexSabbatical(セックスの長期休暇)、#CelibacyJourney(禁欲の旅)、または #CelibacyEra(禁欲時代)を選択することは、心が傷ついた関係や後悔するような出来事の後で、自分に休息と内省のための機会を与え、癒やしと自己成長のための時間を確保することでもあるとフォックスは付け加えた。過去の10年間を特徴付けたセックス・ポジティブ運動の存在にもかかわらず、カジュアルな体の関係を持った後の感情的な結果を調査した2022年の研究では、女性の46%が後悔をしていると告白。こうした女性は、フックアップや一夜限りの関係を持った後に「孤独、不幸せ、拒絶」といった感情を感じたことを報告している。

内省する時間を持つという考えにはホープも共感を示している。「セックスをやめたことで、以前の私とセックスの関係の問題解決に役立ちました。それから、過去の恋愛を癒せたことにも驚きました。私はもともと触れ合いを好むタイプではありませんでしたが、この期間を通じて、性的な関係を持たなくても、他人に対しより深い愛情を示せるようにもなりました」

実際のところ、一部のZ世代にとっての禁欲は、単に「パートナーとのセックスを一時的にお休みすること」ではなく、「性的に関わることは、単に楽しいことや欲望だけではない」と気付くための長期的な選択肢にもなっている。

「ヤスミン・ブノワのような著名な活動家や、Netflixドラマ『セックス・エデュケーション』に登場する無性愛者のフローレンスのような存在が広く受け入れられ、アセクシャリティとアロマンティシズムの正当性に対する意識と受容は今はるかに高まっています。一般的な社会ではすべての“普通の”若者がセックスを求めているという考えを押し付けていますが、Z世代の多くは、従来のセックスに対する考え自体にますます嫌悪感を感じるものであることも認識しています」

一人を選択する

woman relaxing on allotment
Lilly Roadstones//Getty Images

禁欲主義について一部の専門家は、現代の考え方やエンパワーメントにリンクしていると考えている。LoveHoneyの性と性の健康の専門家であるサラ・ムリンドワが言うには、意図的で意識的な選択肢として禁欲を活用することで、その性的エネルギーを自己成長に費やすことができる。

「これはとくに女性が、性に関する社会的な圧力や期待から自分自身を解放するのに役立ちます。自分の欲望や性に対する価値観について、より深く探求することを可能にしてくれます」とムリンドワ。

「キャリアの目標や自己成長など、自分の人生の恋愛以外の側面に焦点とエネルギーを向けることができ、最終的にそれは大きな自信へとつながる可能性があります。性的な欲望や衝動にもうまく自制できるようになり、セックスに対して自分の意志をしっかり持って決断できるようにもなるでしょう」

世代的な大きな変化も考慮する必要がある。著書『Generations: The Real Differences between Gen Z, Millennials, Gen X, Boomers and Silents—and What They Mean for the Future』を持つ心理学者のジャン・トゥウェンジ博士によると、Z世代は“大人としての活動”に従事するまでに時間を要している。

「彼らは有給の仕事に就かない傾向にあり、運転免許を持つことも少なく、成人になっても性的な関係や大人の関係を築かない人が増えています。これは、寿命が長くなったことに関連する全体としての大きな変化の一部であり、成長の進行が以前より遅くなっているのです」

テクノロジーの影響もあり、トゥウェンジ博士によれば、10年前に比べて夜の10時にやること(スクロール、ストリーミング、ブラウジングなど)が増えたことも関係している。また、Z世代がセックスをしない傾向にある理由は、自分の幸福は他人に左右されるものではないと教える個人主義の影響もあると考えられている。「全体の長期的な傾向として、セックスや結婚、子どもを持つことからも遠ざかっています。多くの若者はまだこれらのことを望んではいますが、望まない少数派が増えているのも事実です」

これは、“愛のコスト危機(Cost of Loving Crisis)”による影響もある。出会い系アプリPlenty of Fishの調査によると、独身の半数以上(52%)は高騰する物価と経済的な悩みがデートプランに影響を与えていると認めており、73%の人はデート代を支払えないことを懸念し、恋愛対象の相手との予定を避けたり断ったりしている。

「多くの若者は低賃金で働き、驚異的な教育ローンを抱えています。恋愛をするよりも暖房代を貯めたり請求書の支払いをすることのほうが重要なのです」とフォックス。「デート代の資金調達だけが問題ではなく、お金のことを心配しながら生活をなんとかやりくりするために過度に労働し、昨今の世界情勢に不安や挫折感、恐怖感を感じて生きることは、性欲を失う致命的な組み合わせです」

複雑な社会や経済状況、健全でないデート文化、あるいは長い間女性が押し付けられてきた性的な役割に反抗するものであるかはさておき、明らかなことは、より多くの若者が独身生活を自ら選び、続行するだけでなく、それを称賛する声まで上がっているということ。

さらにTikTokなどのソーシャルプラットフォームでは、独身生活や禁欲が彼らの人生をどう変えてくれたのか、それを自己発見と成長のツールとして活用する方法を多くの女性が共有している。セックスから休息をとり、自分自身を深く振り返り、内面の明確さを見つけることが、ホープのように、彼女たちを幸せにしている。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: ELLA GAUCI Translation : Yukie Kawabata

Headshot of 川畑 幸絵
川畑 幸絵
翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。