冬のランナーはビタミンDのサプリメントを摂取するべき?
「ビタミンDがコロナウイルス感染症を防ぐ」という気になる噂の真相も。
夏は外に出るだけでビタミンDが摂取できる。でも、冬が来て日照時間が短くなったら、ビタミンDのサプリメントを飲んだり、ビタミンDが豊富な食材を増やしたりしなければならないの?
つい最近、コロナウイルス感染症の生存率とビタミンDの摂取量を紐づける研究結果が出たことで、気にし始めた人もいるかもしれない。
しかも、感染者数が再び増加し、屋内で過ごす時間が増えたため、貴重な日光を浴びる機会は減る一方。
そこで今回は、2名の栄養士にビタミンDのいろはを聞いた。その内容をランナーズワールドからご紹介。
ビタミンDとは?
ビタミンDは脂溶性ビタミンの一種であり、体内で数々の役割を担うホルモンの一種でもある。ランニングのような衝撃の強い運動には強い骨が必要。そして、カルシウムの吸収と速筋繊維の機能にはビタミンDが絶対不可欠。ビタミンDには、細胞増殖、免疫機能、タンパク質合成に関わる2,000以上の遺伝子を調節する役割もある。
米国立衛生研究所によると、以下の食品はビタミンDの優秀な供給源。
・サーモンなどの脂の多い魚(85gあたり570IU)
・ニジマス(85gあたり645IU)
・ビタミンDが強化されたミルク(1カップあたり120IU)
・ビタミンDが強化されたシリアル(1職あたり80IU)
・全卵(Lサイズ1個あたり44IU)
・紫外線に当てた生のホワイトマッシュルーム(1/2カップあたり366IU)
・ヨーグルトやチーズといった乳製品
・ビタミンDが強化されたオレンジジュース
1日に必要なビタミンDの量は?
米国とカナダは、子供または70歳未満の大人に1日600IUのビタミンDの摂取を推奨している。でも、骨以外の身体機能と運動パフォーマンスを考えると、1日600IUでは足りないという専門家の声もある。
米国内分泌学協会によると、無防備の状態で十分な日光を浴びていない人は、1日1,500~2,000IUのビタミンDを摂取した方がいい。「無防備の状態で十分な日光を浴びる」とは、日焼け止めを塗らずに5分(肌の色が白い人)~30分(肌の色が黒い人)、腕、脚、背中に昼間の日差しを週2~3回浴びるということ(もちろん、これを理由に日焼け止めを塗らないでいることは推奨されない)。
日照時間が短い地域や、寒さ対策で重ね着が当たり前の地域では、冬に日光を浴びるのが特に困難。必ずしもビタミンDの摂取量を増やす必要があるわけではないけれど、冬は日光だけで十分なビタミンDがまかなえないことは知っておく必要がある。食事やサプリメントから摂取するビタミンDを増やすのは極めて重要。
定期的に日光を浴びていないアスリートは、ビタミンDのサプリメントや、サプリメント+ビタミンDが豊富な食事のプランを立てて。ビタミンDが強化された食品や通常のマルチビタミンでは不十分。多くの人は冬の間ビタミンDのサプリメントを飲むべきとはいえ、食事+日光という一番自然な供給源を手放すべきではない。
パフォーマンスのために骨、筋肉、免疫系を最適なコンディションに保ちたいなら、冬は特にビタミンDが豊富な食材を多く取り入れ、ビタミンDのサプリメントの服用を検討しよう。でも、まずは医師に相談を。そして、1日の推奨摂取量を守ること。
ビタミンDが不足しやすいのは?
皮膚が日光にさらされると、ビタミンDが合成される。でも、冬は屋外で過ごす時間が減り、厚手の衣類を着ることが多くなるため、皮膚を経由して十分なビタミンDを取り入れるのは難しい。
ビタミンDが特に不足しやすいのは、高齢者、メラニン色素で肌の色が黒い人、屋内でトレーニング・競技を行うアスリート。また、ゲータレード・スポーツ科学研究所によると、米国の北半分とカナダに住むアスリートは大抵ビタミンDのサプリメントが必要な状態にある。その原因は屋外トレーニングの時間短縮だけじゃない。食事内容や太陽の角度、紫外線B波の量もビタミンD不足に関係している。
公認管理栄養士のケリー・ジョーンズによると、夏の間か秋の始まりに病院で検査を受けて、その時点でのビタミンDの量を調べてもられば冬のプランが立てやすい。意外なことに、夏季もビタミンDが不足している人は少なくない。ビタミンDの数値があれば、食事を工夫するべきか、サプリメントを飲むべきか、もっと日光を浴びるべきかが見えてくる。
「日光をたっぷり浴びても、活性型ビタミンDを十分に作れない人はいます」
とジョーンズ。
「冬が来る前に検査を受ければ、冬に向けたプランが立てられますし、1年を通して食事によるビタミンDの摂取量を意識することも可能になります」
ビタミンD不足になると?
ビタミンD不足に関する専門家の意見はまちまち。でも、米国立衛生研究所によると、血中のビタミンD濃度が30nmol/L(12ng/mL)を下回ると欠乏状態で、50nmol/L(20ng/mL)以上であれば骨と体の健康に十分と言える。ただし、これは一般集団に対するガイドライン。
ゲータレード・スポーツ科学研究所は、血清中のビタミンD濃度が50nmol/L(20ng/mL)を下回ると欠乏状態で、75nmol/L(30-32ng/mL)以上であれば十分と定義している。こちらの数値はアスリート向け。
ビタミンDが不足すると、急性疾患、炎症性損傷、疲労骨折、筋肉の痛みや衰弱、パフォーマンス低下のリスクが高まる。つまり、ランナーが骨の損傷や疲労骨折を防ぐには、十分なビタミンDが必要ということ。
「骨と骨格の健康に加え、ビタミンDは免疫系の炎症やホルモンにも影響を与えるため、気分にも無関係とは言えません」とジョーンズは説明する。「骨と骨格の健康は長距離を安全に走る上で不可欠ですが、気分はモチベーションとスポーツに対する意欲を維持する上で重要です」
栄養学専門誌『Nutrients』に掲載された論文によると、アスリートのビタミンD不足は健康とトレーニング効率に悪影響を与えかねない。23本の論文を対象としたメタ分析では、2,000名以上のアスリートの約56%にビタミンDが不足していることが分かった。また、食事だけで1日に必要なビタミンDを摂取できている米国の大学生アスリートは5%に過ぎず、大学生アスリートのビタミンD不足(<20 nm/mLまたは<50 nmol/L)は、冬と秋の上気道疾患に関係しているという研究結果も存在する。
ビタミンD不足はランニングに影響を与えるか? ひとことで言えばYES。
「ビタミンDはトレーニング、パフォーマンス、総体的な健康に不可欠ですが、多くのアスリートはその事実を知りません」と話すのは、栄養系ポッドキャスト『Nail Your Nutrition』のコ・ホストを務める公認管理栄養士のマリタ・ラドロフ。「ビタミンD不足は、肺機能や最大酸素摂取量(VO2 Max)だけでなく、速筋繊維のコンディションにも影響を与えます」
ビタミンDはコロナウイルスをやっつける?
ビタミンDは免疫系と呼吸器系における重要な役割を担うため、コロナウイルス感染症とビタミンDの関連性が広く研究されている。いくつかの研究結果は、ビタミンDが不足するとコロナウイルス感染症の症状が悪化する、つまり、この感染症の重症化を防ぐにはビタミンDが効果的である可能性を示している。
科学情報誌『PLoS One』掲載の19万人以上を対象とした研究論文は、コロナウイルス感染症が体内のビタミンD濃度と密接に関連していると結論付けた。陽性で入院中の患者200名を対象とした別の研究では、そのうちの80%にビタミンDが不足しているという結果になった。また、臨床病理学専門誌『The American Journal of Clinical Pathology』が発表した小規模の研究結果を見ると、コロナウイルス感染症で入院中の患者186名中59%(女性47%/男性67%)にビタミンDが欠乏していた。
ビタミンDがコロナウイルス感染症を防ぐという直接の因果関係は実証されていないけれど、これまでの研究結果は、その可能性が実際にあることや、ビタミンD不足が重要な問題であること、ビタミンDが免疫系と総体的な健康に大きな影響を与えることを強調している。でも、結論を導き出すには、より大規模な研究が必要になる。
Text: Sarah Schlichter, M.P.H., R.D.N. Translation: Ai Igamoto