1歳半から水泳を始め、2016年のリオパラリンピックでは8種目に出場、現在も7種目で日本記録を持つ一ノ瀬メイさん。2021年に現役を引退し、現在はスピーカー、モデル、俳優業など様々なシーンで活躍の幅を広げている。

今年3月に開催された「TEDxKyoto2023」では、メイさんの15分のスピーチに、多くの人が心を震わせた。今回、東京レガシーハーフマラソンに初参加する。取材日はハーフマラソンの前日、苦手だったという長距離に挑戦することになった背景について聞いてみた。

(「」内、一ノ瀬メイさん)

a person standing on a balcony

TEDxKyoto2023」でもそうだったけれど、彼女の言葉ひとつひとつには説得力があり、強い意志があるから、受け取った人たちが自分自身のことを考えるきっかけになる。生きていくうえで、どんな言葉や考え方を大切にしているのだろう。

「大切にしていることはたっくさんあるけれど、すべて水泳で学んだこと。それだけ極めると、言葉に血が通う瞬間みたいなのがあるんです。人に言われたり、本で読んだりしただけでは、言葉として知っているだけ。その言葉を自分の経験を通して、本当に腑に落ちるという経験を水泳でさせてもらってきたから、血の通った言葉が自分のなかにあります。だからこそ、発信するときは、経験を通して出てくる自分らしい言葉で伝えることを心がけています」

「そのなかでも大切にしているのは、『ないものに目を向ける』のではなくて、『あるものに目を向ける』ということ。もっと高いレベルへとずっと追い求めていると、自分が達成したことやできていることを忘れしまい、できていないことばっかりにフォーカスしてしまう。例えば、パラリンピックに出られるまではそれが目標だけど、パラリンピックに出たと思ったら、次はメダルが欲しい。そんな永遠に終わらないサイクルでずっと生きていると、終わりがない。そんなときに父に『今すでにあるものや達成できているものに目を向けて。感謝ができないと満たされないよ』と言われたことがすごく残っています」

「 自分の体についても、”腕がない”とも言えるけど、”でも、どこにでも連れてってくれる足があって、いろんな人に出会わせてくれる体がある”って考えるようになったんです。ないものじゃなくて、あるものに目を向けるというのは、自分の根底には強くあるかなと思うから、大切にしている言葉です」

「できない」を「できる」に変える。チャレンジをするタイミングがきた!

a woman smiling at the camera

今回初めて、ハーフマラソンに挑戦するというメイさん。実は長距離を走ることを避けていたのだとか。

「今までもマラソンは、声をかけていただいたことはあったけれど、長距離を走るのがほんとに嫌いで、苦手でした。水泳でも、パラリンピックの水泳のなかでは1番長距離の『400メートル自由形』だけ、唯一日本記録を持っていないのです。だから自分には長距離は合わないと感じていて、いままで避けてきました。でも今回、アシックスさんからレース2カ月前くらいに『東京レガシーハーフマラソンに参加してみませんか?』と言っていただいて、悩んだけれど、引退して少し月日が経って、そろそろ『できない』と決めつけてきたことを、 『できる』に変えるチャレンジをするタイミングなんじゃないかなと思い、参加を決めました」

初のハーフマラソンが、自分自身と向き合うための理由と、応援してくれる人がチャレンジするきっかけにもなってほしいと話す。

「今まで競技として、世界一を目指すスポーツにしか取り組んでこなかったから、引退後は運動しなかった時期がありました。でも、やめてはじめて、運動が自分の健康・メンタルヘルスに大きなベネフィットをもたらしてくれていたのだと痛感したんです。だからこそ、最近は競技としてのスポーツだけじゃなくて、ウェルビーイングのための運動をもっと広げていきたいという気持ちになっています。私が苦手だった長距離、ハーフマラソンに挑戦することで、自分もなにかにチャレンジしてみようって思ってもらえたらすごくいいなと考えています」

自分の体と心をコントロールできると心地よい

a person smiling for the camera

ハーフマラソンに向けて練習していく過程で、心と体に変化があったそう。

「水泳もマラソンも黙々とやるというところが似てるなと思います。水泳時代もプールの底をひたすら見て、誰と喋るわけでもなくやり続ける。もちろんしんどいこともあるけど、自分と向き合う時間になっていました。マラソンも走っているときは携帯も見ないからデジタルデトックスにもなるし、1日の中で自分と向き合う時間っていうのが確実に取れるんです。自分にとって、走ることは新鮮だけど、そういう感覚は懐かしい。引退したタイミングで、自分が一旦手放した自分と向き合う時間や黙々と実践する感覚を取り戻した気がしています」

「あとは、走り始めて、体がどんどん変わってくるのも面白いですね。『運動できる体』=『自分がコントロールできる体』だと思っていて、引退した時に、体重も変わったし、筋肉も落ちた。当たり前のことだけど、自分が自分の体をコントロールできてないというのが気持ち悪かった。最近は『明日走るから、今日は重たいものを食べないようにしよう』とか、走っている以外の時間も自分の体と向き合うようになれて、この挑戦を決めてすでによかったと思えています」

ハーフマラソン当日の楽しみは、沿道の応援!

a person sitting on a window ledge

「ハーフマラソン当日は、1歩1歩を積み重ねることにフォーカスして走りたいと思っています。一番の楽しみは、沿道からもらえる応援! 水泳の場合、泳いでるときは応援が聞こえないから、応援を受けながらスポーツをやるという経験も初めてなのでたくさんパワーをもらいたいなと思っています」

そんな意気込みを語ってくれたメイさんは、見事完走! 彼女の走る姿がキラキラかっこ良くて、勇気をもらった。多くの人が、メイさんのチャレンジに胸を打たれただろう。

a group of people running on a street

「初めてのハーフマラソンは前日から当日終わるまでお祭りのようで、参加者のみなさんはもちろん、運営やボランティアの方、関わってくださる皆さんが自分で選んでその場にいること、そして心からその場を楽しんでいることにインスパイアされっぱなしでした!」

ご機嫌でいるために、心がけている3つのこと

最後に、メイさんはSNSや講演で自分のありのままの発信をすることで、同じ行動をしてほしいのではなく、「みんながみんならしくあってほしい」と話してくれた。そのためには、自分自身がご機嫌であることが大事だという。ライフスタイルで心がけていることを教えてもらった。

ヴィーガン食を実践中

「自分の健康は食べるものでできていると思うから、食事は大切にしています。東洋医学のアーユルヴェーダも勉強し、質のいい食事をすることで、思考も変わると思っています。3年前からはヴィーガンを実践し、体も心も整っているなと感じています」

②その日の自分に合う運動をする

「運動をしていない時期があると、やはり体に違和感があり、停滞していると感じます。そのため定期的に運動をして、めぐりがいい体を保つようにしています。生理の時は激しい運動は控えてヨガをするなど、自分の体のバランス、リズムに合わせて、楽しく体を動かすようにしています」

③ジャーナリング、考えること

「自分の想いと行動がずれていないか定期的に確かめることがとても大切だと思っていて、ジャーナリングをしたり、チームでミーティングしたり、自分の思っていることを言語化することは意識しています。先ほどの話でもあったように、無いものばかりに目を向けていると、焦りから行動してしまうので、それだといい選択ができないと思う。朝は、ヨガと瞑想をすると大体ご機嫌でいられる。一日落ち着いて、色んなことが選択・判断できるように心がけています」

メイさんのように、自分で自分をご機嫌にする方法を知っている人は強い。今後の彼女の発信や挑戦も注目していきたい。

一ノ瀬メイさん
1997年京都府出身。一歳半から水泳を始め、史上最年少13歳でアジア大会に出場。2016年リオデジャネイロパラリンピックでは8種目に出場し、現在も7種目の日本記録保持者。2021年に現役を引退後はスピーカー、モデル、俳優業、企業とのパートナーシップなど様々なシーンで活躍の幅を広げながら、”Well-being“ ”Sustainability” ”Diversity & Inclusion”を軸に活動している。
Instagram: https://instagram.com/mei_ichinose

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Nana Fukasawa
ウィメンズヘルス・エディター

2018年に「ウィメンズへルス」編集部にジョイン。アシスタントを経て、エディターとして美容、フード、ダイエットなどの記事を担当。流行りそうなヘルシーキーワードをいち早くキャッチすることを心がけている。CBDや筋膜リリース、アーユルヴェーダ、植物療法を学ぶ、自他共に認める“セルフケア マニア”。2023年初めてのハーフマラソンに挑戦。