多くの人と同様に、筆者のエリザベス・ミラードは毎日の歩数や心拍数、睡眠や消費カロリーを記録する方法として、トラッカーをつけ始めた。(ミラードが使用しているのはFitbit Alta HR)

約1年半の間、データを調べたり、傾向を見たりするのを楽しんでいたが、その後、ある変化に気づくことに。データの数値を、健康目標に向かうためのものとして捉えるのではなく、それ自体自己認識の代わりとなってしまっていたのだ。

例えば、朝スッキリ目覚めてよく眠れたと思っても、データを見るとひどい睡眠だったと示されていたら、途端にやる気に満ち溢れた一日を過ごす気じゃなくなる。走り切ったと思ってランニングを追えても、心拍数や消費カロリーデータが思わしくなければ、達成感は失望感に変ってしまった。

やがて、自分の気持ちを決めるために数値をチェックするようになってしまった。これはFitbitのせいでも、他ブランドのトラッカーのせいでもないが、ミラードが結局はデバイスを放置してしまうには十分な出来事だった。そしてそれは多くの人にとっても共通することのよう。今回はフィットネストラッカーがメンタルヘルスに与える影響について見ていこう。

フィットネストラッカーの問題

1,800人を対象に実施されたフィットネストラッカーの使用や習慣、ストレスに関する調査では、活動量の増加など使用による多くのメリットがわかった一方で、約半数の人がトラッカーのデータによって、不安やプレッシャーを感じていることもわかった。その結果、トラッカーを装着しないことに罪悪感を抱きつつも、45%の人がトラッカーの装着頻度を減らしていることが判明。

「フィットネストラッカーは、運動不足を確認することができますが、私が調査した男女の中には、トラッカーが体に対する不安やうつの感情を悪化させ、さらにやる気を失わせるという人がいます」と話すのは、精神科医でMindpath Healthで地域医療ディレクターを務めるリーラ・マガヴィ医学博士。「中には、フィットネストラッカーを失敗のリマインダーとして認識し始め、トラッカーを隠してしまう人もいます」

既に不安障害を抱えている人たちは、より深くそう感じるかもしれないと、医学博士は付け加える。そして、その不安の度合いが心拍数を上昇させ、トラッカーがそれを記録することが問題となる。強迫障害を患う人もまた、トラッカーによって、オーバートレーニングや乱れた食生活などの強迫観念などが強まる可能性もあると、マガヴィ医学博士は話す。

たとえ、感情的な健康問題を抱えていなくても、筆者のようにトラッカーがネガティブな方向に自身の認識を変えてしまう可能性もある。だからこそ、一歩下がって、その使用についてより認識を深めることが有用だ。

フィットネストラッカーの使用をやめるべきサイン

筆者の場合は、トラッカーの使用を止める選択をしたわけだが、そこまでしなくても、自身がトラッカーをどう使用しているか、特にトラッカー使用時の自分がどう感じるかを認識すればいいようだ。

「数値に意識が行き過ぎてしまうのは赤信号です」と話すのは、筋トレガイドの『Return to Center』の著者であり、カリフォルニア在住のトレーナー、ロッキー・スナイダー氏。

スナイダー氏いわく、もちろん目標を持つことにはメリットがあり、トラッカーを使えば簡単に目標を立て、それに対する進捗(しんちょく)を測定することができるとのこと。

「問題なのは、体がどう感じているかを考慮しないことです」とスナイダー氏。「例えば、心拍数に注目していても、ストレスや筋肉の緊張、痛みの反応など、心拍数に影響を及ぼす可能性は考慮していないのです。数字や統計にとらわれず、全体像を見る必要があります」

フィットネストラッカーがメンタルヘルスの妨げとなるもう1つのサインとして、アクティビティ自体を楽しんでいないことだと、スナイダー氏は付け加える。レースで撮影された写真のほぼすべてのランナーの表情とは裏腹に、このスポーツは実際に楽しいはずだという。

「日々の目標に気を取られ、より幸せで健康的な生活を送るという、あらゆるプログラムの根底にある真の目的を忘れないようにしましょう」と彼は話す。「もしフィットネストラッカーによって精神的に疲弊していると感じたら、トラッカーは置いて、冒険のその瞬間を楽しみましょう」

自分を慈しむ「セルフ・コンパッション」ができるようになるには?

マガヴィ医学博士いわく、フィットネストラッカーの使用法を変えると、その限界を受け入れるだけでなく、感情的な豊かさをサポートすることができるという。

フィットネストラッカーは、ルーティンを作ったり、健康的な行動をポジティブな習慣に変えるのに役立ちます」と医学博士。「あらゆる健康的な行動は“勝利”と認識することができます。モチベーションを上げられない人にとって、自分の状況を知れる数値はカギとなります。トラッカーは自分の達成具合の確認や、セルフ・コンパッションの実践に有効です」

一般的には、より大きな戦略の一環としてトラッカーを使用したり、その効果を常に意識したりすることで、「データへの執着」の罠に陥るのを防ぐことができると、マガヴィ医学博士は話す。そうすれば、データへの執着に負けることなく、モチベーションを維持するサポーティブなテクノロジーだと感じられるそう。

こう考えると、ガラクタの引き出しの奥からトラッカーを引っ張り出して、使用法を変えて使ってみることになりそうだ。

※この記事は、『Runner’s World』から翻訳されました。

Text: Elizabeth Millard Translation: Asami Akiyama