コロナ禍によって、フィットネス業界も大きな転機を迎えた。宅トレがムーブメントとなり、YouTube、有料オンラインレッスンや、オンラインサロンまで、自分の体に耳を傾けるためのが選択肢が大いに広がった。その転機の追い風を受けた二人のフィットネストレーナーがSNSやYouTubeを通して二人が学び、得たこととは?

廣田なお 大熊理奈

廣田なおさんとは?

2020年、コロナ禍の真っ只中、筆者はフォロワー20万人(当時)以上も持つビッグインフルエンサーに出会うことになった。廣田なおさんである。彼女はなんと元銀行員。『みんなが気軽に集まれるコミュニティを作りたい。一人ぼっちだと感じる人を減らしたい』。そんな思いから、ヨガ講師を志し、大手ホットヨガスタジオの正社員へ転身。2年間在籍の後、独立しスタジオをオープンさせた。しかし、なかなかヨガスタジオの運営はうまくいかなかった。そんな時、彼女に大きな転機が訪れた。Instagramである。廣田さんはフィットネス動画にテロップを入れるなどして、コツコツとフォロワーを増やしていった。そして、数年で20万人以上のフォロワーを得ることになる。筆者が出会ったのは、そんな20万人を超えた後の、ウィメンズヘルス合同インスタライブであった。廣田さんは想像していたインフルエンサーとしてのイメージとは少し印象が違っていた。気さくで溌剌としていて、愛嬌もあり、運動が苦手な人だった。現在は、講師育成講座、オンラインスタジオ、オンラインコミュニティ、YouTube、Instagramとビジネスの幅を広げる若き実業家である。@onaonao

ある日、廣田さんから、年末に急な連絡があった。

「大熊理奈ちゃんが、帰国するんですよ! 私たち一緒に合同レッスンイベントやることにしたんです」

二人は、ある意味ライバルではないの? 筆者の心が揺れ動いた。

廣田なお 大熊理奈

大熊理奈さんとは?

2020年、コロナ禍の真っ只中、YouTubeのレコメンドに現れたのが、大熊理奈さんである。初見、筆者は、完全にアメリカの人だ、と思った。日本語のイントネーションが英語みたいだったからだ。YouTubeのフォロワーは確か、当時は10万人に満たないくらいだったと記憶する。彼女の拠点はアリゾナ。20歳で一身発起し、学生ローンを組んでアリゾナの大学に編入した。26歳となった今でも支払い続けているという。アメリカの大学在学中より、日本で学んだ”ピラダンス”を広げるべく、動画をYouTubeで投稿するようになった。しかし、メガフィットネス市場を持つアメリカでは、彼女のつたない英語では太刀打ちできなかったそうだ。そこで、バイリンガルに変更したところ、日本人のフォロワーが少しずつ増えてきた。そんな折、日本のテレビで”逆腹筋”というキーワードを耳にし、自身でも動画を作ると、この動画がブレイク! 数日で一気にフォロワーは1000人に達した。YouTubeのフォロワーは現在17.5万人、配信総本数は役700本に至る。彼女はアリゾナで対面のレッスンクラスを持ちつつ、YouTube、TikTok、Instagram、オンラインサロンと活躍の場を広げるデジタルネイティブお化けである。@Rina Ohkuma

二人の共通点は動画配信でオンラインビジネスが成功したこと

時期は違えど、二人ともジムやスタジオなどでの集客がうまくいかずに始めたのが動画配信だった。なおさんはInstagram、理奈さんはYouTube。互いにフォロワーを着々と伸ばし続ける最中、追い風が吹いた。それがコロナ禍である。

なお(以降N):元々、筋膜リリース動画は配信していたんですが、コロナ禍で急に筋膜リリースブームが訪れたんです。アップしていた過去のリリース動画をたくさん見て頂けるようになりました。

廣田なお 大熊理奈

理奈(以降R):コロナによって、YouTubeの再生回数、コメントで明らかに反響が大きく変わりました。アメリカも、日本も、世界的に在宅が増えて、宅トレが求められてるんだな、って肌で感じました。この状況になる直前、実は私からなおさんにメールしたんです。何かコラボレーションしたいな、と思って。

N:理奈ちゃんのことは前から知っていたので、メールをもらって嬉しかったです。それで、少しずつ話を進めていき、去年の5月にyoutubeでコラボ動画を撮影したんです。それ以来、こまめに連絡を取り合うようになりました。

そんな二人に5つの同じ質問を投げかけてみた。

廣田なお 大熊理奈

Q.1二人にとって、YouTubeはどんな存在?

R:私は今でも色々なSNSを使って配信していますが、やっぱりYouTubeが一番好き。プレミアのソフトを使って、自分で撮影し、編集をして、テロップを入れてと全て一人で進めています。人に頼んでやってもらっていた時期もあったんですが、色々と気になってしまうことが多くて。一人でやる方が性に合っているんです。最近はずっとパソコンかスマフォをいじってますね(笑)。本当はそういう生活がすごく嫌なのに、去年は焦りも感じてしまって。2021年の動画配信コンテンツ数を数えたら、youtubeだけで191本になりました(笑)。

N:YouTubeは”新しい人との出会い”として更新し続けています。ヨガをしたい方、ボディメイクをしたい方が見つけて来てくださるので、Instagramでは届けられていない方に届けられるのが嬉しいです。実際にアリゾナに住んでいる理奈ちゃんと出会えたのもYouTubeを通してですしね!

Q2.一番辛かった時期はどんな時? 

N:スタジオを開けても誰も来なくて、スタジオ代のために出張でどんなとこまでもレッスンに出向いてた頃ですかね。あの時は体力的にも大変でした。あれ、何のため? と自問自答ですね(笑)。

あとは、やっぱり「ヨガインストラクターになる!」って言って動き出したことを鼻で笑われた時期もあったので、その時もすごく悔しくて辛かったですね。

R:私は”辛い”の基準がズレているのか、仕事を始めてから辛いと思ったことがまだ一度もないです。だからもっと努力が必要なのかな、と思っています。

Q3.それぞれフォロワーの方で多い悩みはどんなこと?

N:”お腹が凹まない”

”腰肉が気になる”

”脚が太い”

という悩みが多いですね。アドバイスとしては、腹筋すればいいわけでも、スクワットすればいいわけでもないということ。体型の崩れは骨格から整えないと直らないので、とにかく姿勢改善が肝だよ!! と伝えています。

R:私のフォロワーの方は

”大転子(太ももとお尻の一番張っているところ)の出っ張りが気になる”

”痩せたい”

という相談がきますね。やはり、骨盤のズレを正すこと。痩せるのではなく健康を目指すこと、とアドバイスしています。ただ、私が痩せることではなく=健康を目指すことに意識がもっと高まったのは、去年太ってしまったことによって感じた影響が大きいです。

Q4.フィットネストレーナーも太る?

実際に、理奈さんは、去年体重が6kgも増量してしまったことをYouTubeで明かしている。フォロワーの中に、”痩せているあなたに痩せる方法を言われても説得力がない”という元も子もないコメントを残していた人もいたそうだ。そこで理奈さんは増量を試すべく、食生活を一度変えてみたそう。詳しくは「【PODCAST】Ep.6 最近太って気づいたこと。I Gained Weight...【RINA RADIO】」から。

廣田なお 大熊理奈

R:食事の内容を変えたことはきっかけで、本当に太った原因は食生活の乱れに尽きるかと思います。一度乱れると、また変えることが難しいんですよね。食生活を物理的にどう切り換えるか、ではなく、それを受け入れて、痩せるためでなく健康を意識して食事をするという、マインドに切り替えたら少しずつ体は戻りました。でも日本にいた頃の方が太っていたんですよ。アメリカは食事が高カロリーになりがちだから、日々気をつけていました。その結果、日本にいる時よりも体が軽くなったんです。やはり”意識”することって大事ですね。今は、インターミッテントファスティングをしていて、食べる順番にも気をつけています。

N:私も、インスタにもあげている(「体型は体重じゃない」)のですが、体重は変わってないのに、見た目は昔に比べて今の方が痩せて見えるんです。著しく変わったのは”体型の歪み”に意識を向けてから。単純に調子にのって食べすぎた時など、今でも多少の上下はあります(笑)。そんな時は、ヨガの教えにもあるように「足るを知る」べく、「本当に食べたいか」「惰性で食べてないか」をちゃんと問うことで、食べ過ぎる癖から抜け出せた気がしています。

Q.5体に対してのコンプレックスは?

廣田なお 大熊理奈

N:昔はコンプレックスだらけでしたが、「コンプレックスをチャームポイント」として愛すること、そして正しい体の使い方を勉強したことで多くは改善しました。

R:私は肩幅が広いので、太ると体が大きく見えてしまうのが嫌だったんです。少しでも小さく見せようと猫背になってしまっていたのですが、それをコンプレックスとして捉えるといつまでも嫌だなって思ってしまうだけ。それで、私もコンプレックスは受け入れるべきもの、と考えるようになりました。正しい姿勢を心がけたり、腕回りのエクササイズやストレッチをして、肩幅が広くても綺麗に見えるように努力しました。コンプレックスだと思うと、いつまでも克服できないものじゃないですか。

この時代に出会うべくして出会った二人。なおさんは34歳、理奈さんは26歳。世代もキャリアも違うけれど、二人はそれぞれ多くのフォロワーと出会い、多くの人が抱える”痩せる”や”コンプレックス”への悩みの本質には”健康”への意識の薄さにあるのではないか、という共通の意識を持っていた。それは筆者も同じ。このデジタル社会を生き抜くため、これからも健康のために生きる本質を見失わずに進んで欲しい。

Photo: Kazuki Takano

Headshot of Chie Arakawa
Chie Arakawa
ウィメンズヘルス・シニアエディター

タレント・アスリートインタビュー・スポーツファッション・ウェルネス記事などを担当。女性誌FRaUでファッション・スポーツ・ダイエットなどの編集キャリアを積み、その後スポーツライフスタイルマガジンonyourmarkのプロデューサーとして在籍後、2022年までウィメンズヘルス編集部に在籍。