すべてのランナーに共通する性質があるとすれば、それは献身。トレーニングに“全力を傾ける”ことの意味は人によって違うけれど、休養日をスキップして、つい無理をしてしまうことは誰にでもある。それにいまは、SNSで自分と人のパフォーマンスを比較するのが容易な時代。

毎日4~5km走っていれば、そのうち体が強くなり、タイムも上がると思いきや、“休日なし”の精神が逆に害をもたらしていることも。臨床スポーツ心理学会の理事で認定メンタルパフォーマンスコンサルタントのアンジェラ・ファイファー博士と、ランニングコーチングサービス『Running Strong』のオーナーで認定ストレングス&コンディショニングスペシャリストのジャネット・ハミルトンに話を聞いた。

ファイファーによると、ランナーが“休みなし”のメンタリティに固執する理由は複数ある。まず、ランニングも他の運動も毎日の習慣にしたほうが続きやすいと感じているケース。そして、アスリート(レベルを問わず)は他人だけでなく自分に対しても負けず嫌い。それが「あと1セット」「あと1km」のメンタリティに拍車をかける。

「距離やタイムの記録更新や、レースへの出場権がかかっていると、アスリートの負けず嫌いな性質が理性に勝ってしまいます」とファイファー。

ハミルトンによると、神経を落ち着かせるため、頭をスッキリさせるため、不安やうつを乗り越えるために毎日走るという人も。また、ワークアウトやランニングのストリーク(一定期間、1日も休まずに運動を続けるチャレンジ)を理由にする人もいる。

毎日走るのはOK?

ファイファーによると、連日のトレーニングに耐えられる人もいれば、1日休むとジムやランニングになかなか戻れない人もいる。

でも、メンタル面のリカバリーは必要だし、たった1日休むだけでも心身の回復は促進される。ファイファーいわく、リカバリーを怠るとバーンアウトしかねない。

フィジカル面のリカバリーも、もちろん必要。ハミルトンによると、適度な休養を取ることで体は早く強くなる。

「生物学的な話をすると、体は刺激に反応することで強くなるものですが、これは刺激に対して反応する時間があってのことです」とハミルトン。つまり、ほとんどの人にとっては、過剰な負荷をかける期間(体をハードに鍛える日)のあとにリカバリー期間(体を休ませる日)を設けるのがベストということ。

これは、リカバリー期間中に体が“適応”というプロセスを踏むから。具体的には、ミトコンドリアを増やしたり、血管を拡張したり、血流を増やしたり、筋繊維を強くしたりという細胞レベルの生理学的変化が起こる。そして、適切な時間と燃料をあげないと、体はこのプロセスを踏めない。でも、どのくらいの時間が“適切”かは人それぞれ。

「ペースを落としたショートランがリカバリーになる人もいますが、完全に休むことを好む人や、ランニングより負荷の低い運動(ウォーキングや軽い水泳など)をすると調子がよいという人もいます」とハミルトン。

ランニング・ストリークのようなチャレンジが有効なのは、これが理由。毎日欠かさず長距離を走っていたら、まず確実にバーンアウトしてしまう。でも、タイムやペースの目標を設定せずに1日1.5km走るくらいなら、ストリークは続けやすい。ときどき歩いてもOK。そうすれば、心身に過剰なストレスをかけることなくストリークが続けられる。休養日は本当にラクをして。ゴール直前でペースを上げたり、上り坂を何度も駆け上がったりするのはNG。

以前『ランナーズワールド』誌が報じたように、休養日に少しだけ走るのも◎。量と強度が低い限りは、ランニングもリカバリーになる。

ハミルトンも同意見。

「何百日も続けて走るランナーはたくさんいますが、成功の秘訣は、ときどき本気で手を抜いて、超短距離をのんびりと走ることです」とハミルトン。でも、ケガをしやすいタイプなら、毎日走るのはやめておこう。

ハミルトンによると、リカバリー用のアクティビティが何であれ、一番大事なポイントは、前述の生理学的変化を促進するプロセスを妨げないこと。たとえば、ガンガン泳いでも、あなたのためには絶対ならない。その日は走らないからといって、ハードな運動をしてもいいことにはならない。

「トレーニングのプロセスや体にかかる生理学的なストレスを理解して尊重する人のほうが、本番のパフォーマンスは高いです」とハミルトン。「睡眠も休養もトレーニングの一環です。最高のパフォーマンスには、ストレス(過剰な負荷)と休養(リカバリー)の両方が必要ですよ」

休養日を取ったほうが良いサイン

ランニングを1日(以上)休んだほうが良いサインには、心理学的なものと生理学的・身体的なものがある。

ファイファーいわく、メンタルヘルスのために一番休むべきなのは、予定していたランニングやワークアウトを乗り切るだけの気力がないときや楽しめないとき。

「ランニングが大好きなのに気が重くなってきたら、1~2日休んで別のことをしてみましょう」とファイファー。「そうすればリチャージできます」

生理学的・身体的なサインには、睡眠パターンの乱れ、朝の心拍数上昇、全体的な疲労感、食欲減退、体のコリや痛み、局所的な不快感が含まれる。また、風邪のウイルスと戦えないときや、いつものトレーニングのペースが維持しにくくなっているときも体を休めたほうが良い。

「普段から体のささやきに耳を傾けていれば、体が悲鳴をあげることはありません」。あなたが頑張りすぎていることを知らせる捉えがたいシグナル(ささやき)に気付き、休養日を組み込むことでそのシグナルを尊重すれば、ケガ(悲鳴)を防ぎやすくなる。

結論

1日(以上)でも休みを取れば、ペース、距離、自己新記録のプレッシャーから解放される。

「目標を達成するために私たちが自分にかける言葉やプレッシャーは、メンタル面を本当に疲弊させます」とファイファー。「目標達成は重要ですが、人生にはステキなことが他にもあります」

ファイファーいわく一流のアスリートでも休みを取る。

「トレーニングでもレースでも、この考え方を崩さないようにしてください。時として、休みを取ることがゴールへの近道になりますからね。1~2日休むと本当にスッキリするので、目標に対するブレがなくなり、そのために必要なトレーニングに励めます」

ただし、万人に合うルーティンは存在しないので、自分に合ったルーティンを見つける必要がある。

「人によって目標が違えば、ニーズも違います」とハミルトン。「気分の落ち込みや不安を解消するために毎日走っている人と、レース成績を上げるためにトレーニングをしている人とでは、目標とニーズがまったく違ってきますから。前者は何が何でも毎日走る“必要”があるのに対し、後者は大事なワークアウトやレースにおけるパフォーマンスを高めるために、あえて休みを取る必要があります」

※この記事は、ランナーズワールドから翻訳されました。

Text: Danielle Zickl Translation: Ai Igamoto

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