感情の波に襲われて、ふと気づけば泣いている? なにをしても眠れないどころか、体重が増えてジーンズが履けなくなった? これはホルモンバランスがアップダウンを繰り返しているからかもしれない。
ホルモンバランスの乱れとは、体内のホルモンのバランスが、あなたにとって正常な値から逸れている状態のことをいう。ホルモンは、ありとあらゆる細胞に影響する重要な化学物質。よって、ほんの少しバランスが崩れただけで、好ましくない影響が連鎖して起こることもある。
CBD(カンナビジオール)は大麻草に含まれる有効成分。このCBDを含む商品は、ホルモンバランスを取り戻し、惨めな症状を緩和するうえで有効とされている。
でも、これは真実? そうであれば、どのような仕組みで効くの? サプリメントブランド『TheDurg. Store』の科学顧問でカンナビノイド専門家のジュリー・モルトケ博士に話を聞いた。
ホルモンの基礎知識
ホルモンは、内分泌腺でごく微量に産生されて、化学的な伝達係の役割を担う物質。
内分泌系の主な腺は以下の通り。
・脳の視床下部、下垂体、松果体
・腎臓の上にある副腎
・鼠径部にある卵巣と睾丸
・首の前面にある甲状腺と副甲状腺
・腹部にある膵臓
血流に乗ったホルモンは、さまざまな臓器や組織の受容体に送られて、多様な変化を引き起こす。
ホルモンは、あらゆる身体プロセスに不可欠な存在。そのプロセスの例は、以下の6つ。
①成長
②代謝
③生殖および性機能
④体温
⑤血圧
⑥感情
サイズは微小でも、ホルモンの作用は強大。特定のホルモンが少し多すぎたり少なすぎたりするだけで、健康上の問題が生じることも。
ホルモンバランスの乱れとは?
ホルモンの量は生理周期、妊娠中、思春期、更年期だけでなく、1日を通しても変化する。これは至って自然なことで、体が正常に機能している証拠。
また、内分泌腺から分泌されるホルモンの量が多すぎるとき、逆に少なすぎるとき、そして内分泌腺がホルモンの分泌を完全にやめてしまったときも、ホルモンバランスに乱れが生じる。
それに加えて、一部の疾患がホルモンバランスの乱れを引き起こすこともある。その例をご紹介。
・内分泌腺の腫瘍
・糖尿病
・甲状腺機能亢進症/低下症
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
・クッシング症候群
・アジソン病
さらに、体重過多、ストレス、ステロイドの服用、豆乳製品の過剰摂取といった生活習慣要因や環境要因で、ホルモンバランスが乱れることも。
ホルモンバランスの乱れを示すサインと症状
ホルモンバランスが乱れることは男性にも女性にもある。その症状は人それぞれで、問題の腺とホルモンによっても違うけれど、代表的なものは以下の通り。
・血圧と心拍数の変化
・体重の増減
・過剰な発汗
・気分のむらや落ち込み
・不眠と疲労
・目のかすみと頭痛
CBDは、医学的な研究結果と事例証拠から、このような症状に効果的とされている。CBDが持つ作用は幅広く、その全容を明らかにするための研究は今日も世界中で行われている。
CBDオイルがエンドカンナビノイド・システムに与える作用
エンドカンナビノイド・システム(ECS)は、細胞に信号を送るシステム。とても複雑なシステムで全容は解明されていないけれど、酵素、エンドカンナビノイド、2種類の受容体(CB1とCB2)という3つの要素から成ることは分かっている。
ECSの主な機能は、神経インパルスに作用する神経伝達物質の分泌をコントロールすること。ECSは以下の身体プロセスの調節にも関与する。
受胎能力と妊娠、睡眠、食欲、気分、記憶、感覚
CBDは大麻草に含まれる主要な有機化合物の1つ。そのオイルは、健康によいけれど“ハイ”になることがないという理由から、医療目的で使われることが増えてきた。CBDオイルはECSを刺激して、このシステムの作業効率を高めてくれる。
CBDオイルがホルモンに与える作用
これまでの研究により、ECSと内分泌プロセスは相互に関係していることが分かっている。
「ECSは体内のバランスを維持するうえで重要な役割を果たしています。正常とされる狭い範囲で体が作動する、いわゆる恒常性(ホメオスタシス)を維持できるのは、ECSのおかげです」とモルトケ博士。
「ECSはストレス、気分、記憶、受胎能力、骨の成長、痛み、免疫機能などを調節することで知られています。CBDは、ECSおよび体内の数多くの受容体と相互に作用します」
「ヒトを対象としたCBDの研究結果は非常に少ないため、CBDの作用が体内のホルモン系に現れる仕組みについては、まだハッキリしていません」
CBDは、インスリン、コルチゾール、メラトニンといった主要なホルモンに影響を与える。
インスリン
重要なホルモンのインスリンは膵臓で産生される。インスリンバランスの乱れは、糖尿病だけでなく、心疾患や肥満につながることも。
「大麻草の摂取によって血糖値が下がることは長く知られる事実です」とモルトケ博士。「臨床治験の結果も、糖尿病の人が医療用の大麻を使うと血糖値が下がるため、糖尿病用の薬やインスリン注射の必要性が低下することを示しています」
CBDがインスリンに及ぼす作用を完全に理解するには、さらなる研究が必要となる。「でも、CBDで血糖値やインスリンが下がる仕組みは分かっていません。CBDそのものが血糖値やインスリンの数値に直接影響を与えるとは思えませんが、CBDの抗炎症作用が2型糖尿病の治療に役立つ可能性は考えられます。2型糖尿病は、血糖値の上昇により、全身に慢性の炎症が生じる疾患ですから」
コルチゾール
過剰なストレスは血圧にも心身の健康にも悪いので上手に管理する必要があるけれど、その上で重要なのがコルチゾールとアドレナリン。
コルチゾールは人間の生存に欠かせないホルモンで、“戦うか逃げるか”反応の調節を担う。このコルチゾールが過剰に分泌されると、体重増加、気分のむら、不安の増幅といった症状が現れる。
「私たちの研究結果は、CBDオイルによって、慢性的なストレスを引き起こすコルチゾールの値が下がることをハッキリと示しています」とモルトケ博士。
メラトニン
松果体で産生されるメラトニンは概日リズム、つまり、あなたが寝て起きる時間や活力の調節を担うホルモン。メラトニン値は夜間にもっとも高くなり、早朝にもっとも低くなるのが一般的。
ECSは、この睡眠パターンにも関係している。これまでの調査によってECSは、CB1受容体を活性化することが分かっている。CB1は、メラトニンの産生量を増やすとともに寝つきをよくして、快眠を促す受容体。
ホルモンバランスが乱れたときの症状にCBDが与える作用
CBDは、1ヵ月の中で自然と生じるホルモン変動に伴う症状と、思春期や更年期のホルモン変動に伴う症状の両方に効く可能性がある。
気分のむら
生理中や更年期の多くの女性は、不安や気分の落ち込みを感じる。これは、エストロゲンとプロゲステロンがセロトニン(通称“幸せホルモン”)の量に影響を与えるから。
これまでの研究により、CBDはセロトニン受容体を活性化し、動物の体内で抗不安作用と抗うつ作用を発揮することが分かっている。
おなかの張り
生理中は子宮の収縮が激しくなって、食べものが消化器系を通り抜けるスピードが遅くなる。その結果として起こるのが、つらい便秘とおなかの張り。
生理前はエストロゲンとプロゲステロンの量が減るので、体内に水も溜まりやすい。
消化器系にはカンナビノイド受容体があり、ECSは蠕動運動のコントロールに一役買っている。そのため、CBDを摂取すると腸の蠕動運動が促進されて、おなかの張りが緩和する。
痛みと筋けいれん
女性の中には生理痛がひどいという人もいれば、ほとんどないという人もいるけれど、これまでの研究から、生理痛と筋けいれんはCBDで軽減することが分かっている。
生理周期の中でプロゲステロンが減少すると、その代わりにプロスタグランジンが増加して生理中にピークに達する。プロスタグランジンは炎症を引き起こし、痛みを感じやすくさせ、血管と子宮を収縮させる。プロスタグランジンは生理を規則的に来させる上で必要な物質。でも、この物質が多すぎると、生理痛がひどくなったり経血量が増えたりする。
プロスタグランジンの産生には、COX-2という酵素が関わっている。CBDを摂取すると、このCOX-2の産生量が減少するため、炎症、痛み、筋けいれんが和らぐ。
CBDは、筋肉と血管の弛緩作用があることで広く知られる。これも、CBDの摂取によって生理痛が緩和する理由の1つ。
この通り、CBDとECSの仕組みと作用は複雑なので引き続き多くの研究が必要になるけれど、ホルモンバランスの乱れに伴う症状がCBDで緩和することを示すエビデンスは、現時点でも存在する。
注記:CBDを使うのは必ず医師に相談してから。英国食品基準庁(FSA)によると、妊娠中、授乳中、投薬治療中の人はCBDの摂取を控えるべき。医師の指示がある場合を除いて、CBDの摂取量は1日70mg未満に抑えて。
Text: Zia Sherrell Translation: Ai Igamoto