代謝とは?

『ダイエットは基礎代謝を上げることが大切』

こんな話をよく聞くことも多いと思うが、実際に基礎代謝とは何なのか、パーソナルトレーナーの林健太さんに聞いてみた。私たちが代謝と呼んでいるものの中にもいくつか種類があるという。

■基礎代謝

じっとしていても生命維持のために消費されるエネルギーで、筋肉以上に肝臓や脳で消費される量が多いのが特徴。

■活動代謝

日常動作や運動などで消費されるエネルギーで、もっとも上げやすいけれども人によって差が大きい。

■食事誘発性熱産生

食事をした時にその栄養を消化・吸収する過程で発生するエネルギー。

「代謝と呼ばれるものには大きく分けて3つありますが、この3つを合わせて一日の消費エネルギーとなります。何も対策をせずに基礎代謝が上がることはなく、これらの代謝はそれぞれが連動して上がっていきます。そのため、一般的には全てを合わせて基礎代謝と考える人が多いのではないでしょうか」

代謝を上げることのメリット

代謝全体で見ると基礎代謝の占める割合が半分以上と最も高く、食事誘発性熱産生の割合が最も低い。活動代謝に関しては運動量や私生活のアクティブ率に応じて、人により変動が大きい。

加齢と共に食欲が低下し、運動量が減ってくると基礎代謝が落ちるのは自然な現象。逆に基礎代謝を高い状態でキープするためには、定期的な運動と栄養バランスの良い食事が大切だと林さん。

「基礎代謝の計算式などもいろいろありますが、体脂肪率くらいは考慮できても内臓や脳の働きまでは計算で算出できません。つまり基礎代謝が高いということは、健康的かつ活動的。分かりやすく言えばパワフルな人という好印象にも繋がります」

代謝アップが印象アップにも繋がるとは意外かもしれないが、活き活きすることは生命のエネルギーを積極的に消費していることの現れ。

基礎代謝を上げることはダイエットだけにとどまらず、人生のクオリティーも上げてくれるかもしれない。

基礎代謝を上げる方法

基礎代謝を上げる10の方法をパーソナルトレーナーが解説
Mireya Acierto//Getty Images

①筋肉量を増やす

筋肉を増やすことで代謝を上げるのは最も定番の方法。もちろんそれには運動が不可欠なので、基礎代謝&活動代謝の同時向上になる。

さらには私たちが見落としがちなメリットも林さんが教えてくれた。

「筋肉と聞くと骨格筋を思い浮かべる人がほとんどかと思いますが、内臓も筋肉です。運動による心肺の利用とそれに伴う機能向上も目に見えないところで代謝を上げています。さらには過剰な体脂肪を理想値に近づけることで各内臓の働きも改善します」

実際に基礎代謝の約半分が内臓の働きによるもの。さらには内臓が働きやすくなるということは食事誘発性熱産生も高くなるということ。

基礎代謝を上げるためにも、運動は最優先事項として取り組んでみよう。


②柔軟性を上げる(ストレッチする)

運動は苦手だけれどお風呂上がりのストレッチは欠かさないという人もいるだろうが、これにも多くのメリットがあると林さん。

「ストレッチも運動なので、もちろんエネルギーを消費します。筋緊張の緩和による血流の改善や、関節可動域向上による基礎代謝のベースアップにも繋がるので、短い時間でも続けることは非常に大切です」

さらには自律神経を整え、入眠を含めた睡眠全体の質を改善してくれる効果も。普段から精力的に活動するための土台の運動となるのがストレッチ。

激しく動いて汗をかくことだけが運動と考えず、できることから継続することで基礎代謝の段階的な向上が見込める。


③十分な水分摂取
基礎代謝を上げる10の方法をパーソナルトレーナーが解説
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体の構成要素の最も多くを占める水分。新生児では80%以上にもなるが、加齢とともに低下してくる。それに伴い代謝の低下だけでなく、血流低下や肌荒れ、冷えなど水分が少ないことで起こるデメリットは数えきれない。

「必要な水分量は体脂肪率や活動量、食事量によっても変動しますが、一つの目安として体重1kgにつき35mlを飲むようにするといいでしょう。体重50kgの人であれば1750ml(約2L)になりますので思っている以上に意識しないと難しいかもしれません」

排尿や汗に加え、呼気や皮膚から日常で自然に失われる不感蒸泄を合わせると、時期や体調によっては食事からの水分を合わせても摂取量<排泄量になることもあると林さん。

「特に体が渇きやすい寝起きや就寝前にはコップ一杯200mlを追加し、運動量の多い人は喉が渇いたと感じる前にこまめな水分補給を心がけることが大切です。喉の渇きは脱水症状の初期サインですので、できる限り感じることのないようにしてください」


④寝すぎない

前項でも挙げたストレッチで自律神経の調整したり睡眠の質を上げることは、寝すぎはもちろんホルモンバランスの崩れを防ぐことにも一役買ってくれる。

睡眠不足はホルモンバランスの崩れから肥満の原因になるとよく言われるが、寝すぎも同じく肥満の原因になると林さん。

「寝ている間は体をほとんど動かしません。つまり、起きている時間が長いということは、代謝の高い状態が長いということの裏返しです。睡眠は単純に長ければ良いというものではありませんので、自律神経のバランスを整えベストな睡眠時間や睡眠の質を導くことで代謝が上がると考えてください」

基礎代謝の向上は前述の通り運動があってこそ。自分のベストな睡眠を作り出す自律神経を整える行動は、寝ている時ではなくその日起きた瞬間から始まる。

⑤同じ姿勢は30分まで

デスクワークが多くなるとついつい集中してしまい、長い間パソコンとにらめっこをしてしまう人も多いだろうが、代謝の低下以上に危険と隣り合わせであると林さんは警笛を鳴らす。

「エコノミークラス症候群と言えば誰もが一度は聞いたことがあると思います。大袈裟かもしれませんが、長時間のデスクワーク中は常にこのエコノミークラス症候群と隣り合わせの状況であると思っておいていいでしょう」

長時間同じ姿勢でいることにより血栓ができ、血管を詰まらせるこの症状は、死を招くこともある。さらには集中する時間が増えることで水分補給の回数が減ることでもリスクは増大する。

基礎代謝の低下とともにこの先の長い健康を見据えて、デスクワーク中も30分に一度は立ち上がる、伸びをするなど1分程度の動きでいいので必ず入れるようにして。


⑥小さな積み重ねを怠らない
基礎代謝を上げる10の方法をパーソナルトレーナーが解説
ONOKY - Fabrice LEROUGE//Getty Images

エスカレーターやエレベーターは使わず階段を使う、移動は車より自転車を使う、大股で歩く……。例を挙げればキリがないが、こうした小さな積み重ねも基礎代謝を上げる大切な行動。

「運動が苦手だという人こそ、日常にどれだけ無意識に活動を組み込めるかがポイントです。立位は座位よりも消費エネルギーが大きくなる上に血流の悪化も防げるので、電車に乗るときだけは立っておくといった心がけも立派な運動です」

一日たった20kcal多く消費するだけでも一年間で7,300kcal。体脂肪として体重が1kg増えるのを防ぐことができる積み重ねを、おろそかにしてはいけない。


⑦よく噛んで食べる

噛むことが大切ということは半ば言い伝えのようなことかもしれないが、そうなるのにはそれだけ重要な理由があるということ。

体の健康を左右する食物を取り入れる入り口で十分な準備をすることは、自律神経を整え全ての代謝をうまく回してくれることにも繋がる。

「スムージーなどの液体食では行わない開口、咀嚼、嚥下といった行動の一つ一つもエネルギーを消費します。食物を移動させる消化管の蠕動運動も内臓筋の運動ですので、噛むことと合わせて固形の食事を摂ることの大切さを改めて知ってほしいと思います」

置き換えや時短でプロテインドリンクだけにしてしまうダイエッターには、基礎代謝を上げるためにもよく噛んで食べる食事の大切さを改めて考えてほしい。


⑧栄養バランスの良い食事

食事誘発性熱産生は三大栄養素(エネルギー産生栄養素)のタンパク質、脂質、糖質によっても変わる。

タンパク質のみを摂取したときは摂取エネルギーの約30%、糖質のみは約6%、脂質のみは約4%となるので、高糖質高脂質の食事がいかに低食事誘発性熱産生か分かるだろう。

「肥満を招く食事は食事誘発性熱産生が低い食事と言えます。タンパク質のみをたくさん摂ることも内臓への負担が大きくなるので勧められません。高タンパク質・中炭水化物・低脂質といった、バランスの良い食事を心がけることでこの代謝の恩恵を最大限に受けることができるでしょう」

さらに食事誘発性熱産生は基礎代謝や活動代謝の増加と比例して大きくなると言われている。栄養バランスはもちろん、代謝バランスを崩さないためにも栄養バランスの大切さを改めて見直してみよう。


⑨腸内環境を整える
基礎代謝を上げる10の方法
Alexey Yaremenko//Getty Images

「様々な製品に、〇〇菌〇億個というような表記がされていますが、腸内には1000種100兆以上ともいわれる多くの細菌が絶妙なバランスで共生しています。一時的に100億個の善玉菌を摂取したところで大きな効果を期待するべきではないでしょう」

肉類や加工食品の長期的な摂取で形成された我々の腸内細菌叢を、一朝一夕で変えることは不可能に近いと林さん。

「腸内環境の改善は、正しいファスティングを行うことで大きな改善が期待できます。賛否の分かれる方法ですが、海外では保険適用にもなっており、たくさんの研究結果もあります。肉類は確かにタンパク質が豊富で食事誘発性熱産生は高くなりますが、それ以上に腸内環境を乱し基礎代謝を低下させる原因にもなります」

『まごわやさしい』と言われる植物性食品や魚、納豆やキムチなど植物性発酵食品を中心とした食生活に変えることは、長期的な基礎代謝アップに繋がると考えておこう。


⑩食事量を減らしすぎない

ダイエットを始めると急に食事量を大きく減らしてしまう人もいるが、これも代謝を落とす一つの原因になると林さん。

「食事量が少ないと食事誘発性熱産生が少なくなり、基礎代謝の低下にも繋がります。摂取量を減らすのはなく、消費量を増やすという考え方に切り替えていきましょう」

2000kcalの食事で過ごしていた人が、いきなり1000kcalの食事にしてしまうと、体は消費量を抑えてエネルギー収支のバランスを取ろうとしてしまう。

食べない人ほど痩せにくいと言われるのはこの基礎代謝の低下にも関係している。食事誘発性熱産生の低下は基礎代謝の低下にも繋がることを知っておけば、むやみに食事量だけを減らすダイエットがいかにリバウンドしやすいかが分かるだろう。

消費エネルギーが増えるということはそれだけアクティブでエネルギッシュな人。そのためにも摂取エネルギーやそのエネルギー源の選択ともいえる食事は非常に重要。

ダイエット、基礎代謝アップ、筋力アップ…どんな悩みも最終的には運動と食事の占めるウエイトが非常に大きくなる。基礎代謝を上げたい人も、上記10のポイントを意識的に実践してみよう。

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林健太
NESTA公認トレーナー SIXPADオフィシャルトレーナー

 幼少期よりプロレスラーに憧れ、中学生の頃からジムに通い始め、高校・大学はアマチュアレスリング部に所属。
 卒業後、一度は就職するもプロレスラーの夢を諦めきれず2011年プロレスリング・ノアに入門。練習中の怪我により
 選手としてデビューすることはできなかったが、トレーニングを続けることで心身のモチベーションを維持し続けたことがきっかけでトレーナーとしての活動を始める。
インスタグラム: www.instagram.com/kenta_0327_/