2021年はどんな年だった?
「試練の年だった」という人もいれば、「成長した」と言う人まで様々だろう。
2021年がどうであれ、新しい年を迎え、気持ち新たに希望に満ちあふれている人が多いはず。勢いを後押しするかのように、今年もウェルネスの世界では様々な変革や進化が期待できそう。
今回は、海外のフィットネスやウェルネスシーンに精通するライターの筆者が、2022年にわたしたちのウェルビーイングの支えとなるかもしれないと期待されている、ヘルス&ウェルネスのトレンドをレポートする。
1.サウンドヒーリング
ここ数年『サウンドヒーリング』がウェルネスの世界に旋風を巻き起こしている。音は何千年にもわたって人類を魅了してきたけれど、2022年は『音響心理学 』という技術でその勢いは増すと期待されているから、ぜひ注目してほしい。
実際、音の持つパワーが大きいことは、潜在的に知っている人も多いのでは?
周りを見渡してみて。何もない空間だと思っていても、実は音波や振動があふれている。しかし、音は目に見えない。私たちはその感覚を体験することしかできないのだ。
科学的な観点から見ると、音は物理的な要素と心理的な要素の2つで説明される。音の物理学では、物体の振動に伴って生じる圧力変化を説明し、それを外耳と中耳の生理機能によって知覚。音の心理学とは、それぞれの音を脳内でどのように解釈するかということ。音は環境に関する情報を提供するだけでなく、感情や情動を引き出すこともあるのだ。
私たちの体は、五感を使って周囲の環境を取り込む。つまり、体の健康は私たちの感覚と相互に関係していて、その一つが聴覚というわけ。
2022年は、AI技術を使ってパーソナライズされたサウンドヒーリングから、サウンドバスのような古代の技術への新たな関心まで、『音響心理学』は2022年に知っておくべき用語の一つとして間違いなさそう!
2. マイクロバイオーム
自分自身を大切にすることは、“意図的なケア”から始まる。
自分に必要なものを理解し、評価することで、より健康的でバランスのとれた生活を送ることができるようになるからだ。
そして、意図的なケアの根本となるのが、自分の体の仕組みを理解すること。それが、『マイクロバイオーム』への配慮であることが、時代が進むにつれて分かってきた。マイクロバイオームとは、ヒトの体に共生する微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)の総体のこと。
私たちの体内に生息する生物の世界は、私たちの一部であり健康の一部なのだ。
この10年間でマイクロバイオームの研究は爆発的に進み、私たちの体内に生息する生物と私たちとの関係が複雑に絡み合っていることがますます理解できるようになってきた。
中でも皮膚の表面に存在するマイクロバイオームには、いくつかの利点があると注目されている。
最大かつ最も目に見える器官である皮膚は、免疫機能、栄養状態、酸化、代謝問題など、皮膚下で何が起きているかを知る手がかりとなるだけでなく、感染症、環境ストレス、栄養や水分の損失に対する身体の最初の防御線でもある言われる。
皮膚の表面のマイクロバイオームは、常に私たちの環境と相互作用しており、感染症からの保護、免疫反応への影響、紫外線からの保護、皮膚細胞への栄養供給など、私たちの健康をサポートするために働いているのだ。
このような研究の進展に伴い、私たちは、それぞれのユニークな生態系をどのようにケアしていけばよいのか、より理解できるようになってくるだろう。
『マイクロバイオーム』という言葉も覚えておいて損はないかもしれない。
3.SNS×トラウマ
2021年ウェルネス業界で注目を集めたトピックの一つが「トラウマ」というテーマだ。コロナ禍を経験したわたしたちだからこそ納得できるはず。
トラウマとは、私たちに何が起こるかではなく、私たちに起こったことの“結果”として私たちの内側で何かが起こること。つまり、トラウマは遅かれ早かれ誰にでも訪れるものと考えられるだろう。例えば、明らかにトラウマになるような体験がなくても、自分や家族の重い病気への対応、親しい人の死、大切な人間関係の破綻、失業や大切なコミュニティからの離脱などもトラウマの原因になる可能性がある。
幸いにも、時代の進化が救いの手を差し伸べていることが2021年はよく分かった。
Instagramでは「#traumarecovery」などのハッシュタグで50万件以上の投稿があり、TikTokでは「#traumahealing」とタグ付けされた動画が3億3800万回再生されている。
こうしたSNS上でのトラウマについての議論が進むにつれて、研究や治療法も進歩している。
SNS上で人々が体験を語りコミュニティーが形成されたり、また社会が徐々に意識を高めていく中で、会話はかつてないほどに発展。2022年は、さらにトラウマに配慮した未来へと向かっていく兆しの光が見えてくるかもしれない。
4. フェイシャルスキンケア=ボディーワーク
フェイシャルのスキンケアでは、ボディワークが新たな焦点となりつつある。顔は体の一部であり、切り離すことはできないのだから。
数多くの製品、施術、奇跡の万能薬、治療法、若返りツールなど、スキンケア業界は、圧倒的に顔を中心とした業界であるかもしれない。もちろん、これはある意味では理にかなっている。顔は肌の中でも最も目につきやすい部分であり、自然と意識が向く場所だからだ。さらに、顔の皮膚は体の他の部分よりも薄くて傷つきやすいため、特別なケアが必要なパートでもあることは否めない。
けれども、1つの方法だけで成果を上げようとすると、物足りななさを感じることはないだろうか?
これは健康や美容など全ての分野に共通することかもしれないけれど、精神的な回復力を高めるには、肉体的にも精神的にも努力が必要。腸内環境を整えるには、食事や生活習慣を見直す必要があるし、睡眠の質にはストレス管理が必要。そして顔のお肌の手入れも例外ではない。
肌の質には、睡眠、栄養、精神状態、運動などが関係していることは決して新しい発見でもないけれど、肌はこれらすべての要素の反映であって、そのどれかが変化しても大きな影響を受ける。
そして、これが冒頭で言う、ボディーワークにつながる。最近では、フェイシャルスキンケアのために首から下を中心とした施術を行う海外のビューティーエキスパートが増えている。
この2年間のマスク生活で、顔のたるみや肌の老化を感じている人も多いけれど、心身に起こるすべてのことが、顔、顔の老化、また、顔の対称性に影響を与えると言われていることはぜひ覚えておこう。
人によっては、鏡に映るシワやくすみ、たるみなどに気づくだけで、その下にあるものには気づかないこともある。
表面的なサインに対処することは、決して根本的な原因解決とは考えにくく、身体のバランスの乱れであったり、感情的な問題である可能性もあるのだから、顔の印象を変えたい時はスキンケアを見直すよりも、ボディーワークを加えてみると良いことかもしれない。
5. 男性の妊活
すべての人に当てはまるわけではないけれど、従来の異性のカップルの場合、妊活の中心となるのは女性だった。
子どもを作り、育て、養うことは、すべて女性の仕事だと考えられていた。それは決して先進国でも例外ではない。不妊治療においても同じことが言えて、女性が主導することがマジョリティー。
けれど実際には、現代では精子の数と質が低下していることを示す多くのデータが存在する。1973年から2011年までに行われたメタ分析の結果、欧米諸国では精子の総数が59%も減少しているという研究結果もその一つだ。
だからこそ、男性の妊活にスポットライトを当てることが今重要。課題は、女性だけでなく、男性にも同じように発生する可能性がある。不妊に悩んでいる異性のカップルの両方に配慮する必要があり、女性だけに注意を向けてスタートするのは実は意味がないかもしれない。
しかし、男性の多くは自分の精子や生殖機能に関心を持ちたがらないということも念頭においておかなくてはいけないこと。
精子に問題があるということは、後々の健康問題が予測されると言う。American Journal of Epidemiologyに掲載された研究によると、精子濃度の増加は死亡率の低下と関連していることが分かる。
パートナーとよく話し合っていかなくてはいけない問題でもあるため、ここは慎重に。
欧米では、2020年頃から多くの企業が家庭での検査サービスを提供しはじめた。日本でもそんなサービスが身近になる日がそう遠くないかもしれない。
6. Tik Tok × スピリチュアルセルフケア
コロナのパンデミック化以降、欧米ではTikTokの助けを借りてスピリチュアル・ウェルビーイングがかつてないほどに広範囲に広がっている。
これまで占星術やタロットなどの占いは、今ほど親しみやすいものではなかった。しかし、多くの人々、特に若い人々が、宗教的な観点を越えて人生最大の疑問に対する答えを求めるようになるにつれ、以前は難解だったスピリチュアルなアプローチが多くの人に受け入れられるようになってきたようだ。
2014年にコロンビア大学で行われた研究によると、スピリチュアルな生活を送ることで、うつ病から身を守れることが示唆されている。
今ではこうしたパワーを利用するのに、スマホの画面をタップするだけの手軽さになったのも時代の産物と言えるのだろう。
2020年のパンデミックにより、私たちの生活のすべてがスクリーンに追いやられたとき、デジタルな精神修養は、人々に意味を見出す場を提供してくれた。そして、欧米ではTikTokほど求められたものはなかったのではないだろうか。
TikTokでは、ハッシュタグ「#Spiritual」は米国で2021年数十億回以上再生され「#wellness」は米国で今年12億回再生されているという説も。
宗教であれ、タロットや占星術のような修行であれ、あるいはそれらを組み合わせたものであれ、自分を超えた何かを探求することは、精神的にも肉体的にも、そして感情的にも豊かなものにつながると言えるのではないだろうか。
親指でスクロールするだけで、孤独感や不安感などに立ち向かえるようなプラクティスを提供するプラットフォームには価値がある。けれど、これらのアプリは最終目的地ではなく、出発点として機能する必要があることはユーザーが忘れてはいけないことだ。