イライラすると周りが委縮する、パートナーがいつもイライラしているなどの悩みはない? もしかすると、それは「不機嫌ハラスメント」の加害者になっている可能性が高いかも。逆に不機嫌な人の態度に振り回されることが多い、相手の行動にびくびくしてしまうなどの「不機嫌ハラスメント」の被害に遭っている人も、不機嫌ハラスメントの心理を知ることで改善策が見つかるはず。

今回は、不機嫌ハラスメントの原因や不機嫌ハラスメントにならない方法を、脳神経メカニズムや感情に関する研究を行う慶應義塾大学教授の満倉靖恵先生に伺った。

<目次>

不機嫌ハラスメントとは? 

不機嫌ハラスメントとは、不機嫌な態度をとることで相手に不快な思いをさせたり、過剰に気を遣わせたりして精神的な苦痛を与えること。これは、本人が意図している、いないに関わらず起こるそう。

不機嫌ハラスメントチェックリスト

もしかしたら、あなたも不機嫌ハラスメントの加害者になっている可能性があるかも。

下記のチェックリストを確認してみて。

□思い通りにならないと不機嫌になる

□どちらかというと気分屋である

□後悔するほど怒ることがある

□誰も自分のことをわかってくれないと思うことがある

□イライラすると周りが委縮する

□人のうわさ話や悪口をよく言う

□愚痴が多い

□パートナーには言わなくても伝わる 

もし1つでも当てはまったら、不機嫌ハラスメントの加害者になっている可能性が高い。

不機嫌ハラスメントが起こる理由

なぜ、不機嫌ハラスメントは起こってしまうの? その理由は3つある。

1.人はネガティブな気持ちを強く感じる

フキハラ
ディスカヴァー・トゥエンティワン

グロテスクな映像を見る実験を行ったところ、嫌度とストレス度を示す脳波が40分以上も高い数値(最低値が40、最高値が100)でキープされることがわかった。一度グロテスクな映像を見ただけで、40分以上もストレスや嫌な気持ちが持続する一方で、可愛らしい動物映像を40分見た場合は、満足度が40から60の間、快適度に至っては20から40の間と低くなる。人間の脳は、ポジティブな感情は長続きせず、逆にネガティブな感情は長続きするという特徴がある。

人間の脳は、気分が下がったり不機嫌になるとなかなか治らないという点から、不機嫌ハラスメントが起こるといえる。

2.不機嫌ノーラの存在

不機嫌は、脳からダイレクトに脳波を介して周りにいる人に伝わる。その理由は、脳が発するとても微弱な電気信号。これは、本人の意思や意図と関係なく発せられてしまうため、満倉先生は「不機嫌ノーラ(不機嫌な脳のオーラの略)」と命名した。

3.不機嫌は周囲の人にうつる

フキハラ
ディスカヴァー・トゥエンティワン

上の図は、電話でクレームを訴えている人のそばに座った被験者のストレス度を示す脳波を測定したもの。「ストレス度」を示す脳波が一時は100%に達するほど強く出ている。満倉先生よると、ストレス度が高まった理由としてクレームを受けている人への高い共感性、不機嫌ノーラがうつっているという2つの要因が考えられるそう。

また、実験を始めて15分後、被験者が別の部屋に移ったらどうなるかを検証したところ、元いた部屋を出た瞬間にストレス度は一時的に収まったが、すぐに高い脳波に戻ってしまった。相手に愚痴を言い続けたり、不機嫌な気持ちを周囲にわかるように出すという行為は、相手のストレスを助長することを自覚しよう。

不機嫌ハラスメントにならないようにするには?

不機嫌な気持ちが自分の意志と関係なく周囲に伝わってしまうことで起きる不機嫌ハラスメント。今回は、不機嫌ハラスメントにならないためにできる4つの方法をご紹介。不機嫌ハラスメントに遭っている人にも有効だから、ぜひチェックしてみて。

①距離を置く

自分がイライラしていたり、モヤモヤを抱えたりしているときには、できるだけ一人で過ごすのがおすすめ。そのため、テレワークは会社内の不機嫌ハラスメントを防ぐ上で有効だという。

チームで取り組むプロジェクトで行き詰まった時も、チーム全員が別の場所で過ごすことでそれぞれの不機嫌ノーラを分散させることができる。

家族の一人が不機嫌な場合、別の部屋に移動したり、散歩に行くことで不機嫌がうつることを避けることが可能。

②ストレスコントロールを行う

人の脳は、ポジティブな気持ちを維持するよりもネガティブな気持ちの方が持続しやすい。そのため、ストレスを早く解消するなら、ポジティブな気持ちでネガティブな気持ちを上書きするというより、ネガティブな気持ちを解放することを目指すのが◎。ゆったりした音楽を聴いたり、心が癒やされる映像を見たりするものよいそう。

③嫌なことが共通している人と付き合う

好きなものが一緒な人といた方がいいとよく聞くけれど、実は嫌なものが共通している人といる方がいいと満倉先生。

その理由は、自分が嫌いなものを見て不機嫌になると、不機嫌ノーラが出て相手も不機嫌になるから。苦手なものや嫌いなものがバラバラの場合、お互いに不機嫌になる時間が増え、不機嫌な原因が増えれば増えるほど、一緒にいる時間のほとんどが不機嫌になるため、よい関係性が長続きしない。

④香りでストレスを軽減する

自分の好きな香りを30秒間嗅ぐと、たった30秒でストレス度が82%から74%と8%も弱まったという実験結果がある。

フキハラ
ディスカヴァー・トゥエンティワン

またストレス度を下げるのにおすすめなのは、ネクタリン(もも)の香りということも実験で明らかになった。ネクタリンの香りを嗅ぐ前に55%だったストレス度を示す脳波が、3分間で50%まで減少している(データ32)。さらに被験者の約80%に効果が出ており(14人中11人)、ネクタリンを嗅いだ後のストレス度を示す脳波は短い人で2時間、長い人で4時間弱いままキープされた。

自分が不機嫌であることを自覚したら好きな香りを嗅いでみたり、周りの雰囲気が悪いと感じたらネクタリンの香りを活用するのも不機嫌ハラスメントに有効といえる。

まとめ

・人間の脳はネガティブな感情を引きずってしまう

・不機嫌は、周囲の人にうつる

不機嫌な感情は、自分にも周囲の人のメンタルにも悪影響。

感情のコントロールをできるように意識することを始めてみて。

人間の脳の仕組みや脳と心の関係などを知ることができる『「フキハラ」の正体 なぜあの人に振り回されるのか?』。ぜひチェックしてみて!

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お話を伺ったのは……

満倉 靖恵(みつくら やすえ)先生

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム取締役CTO/株式会社イーライフ取締役CTO/博士(工学)/博士(医学)なども務める。

生体信号処理、脳波解析などをキーワードに、脳神経メカニズム・感情・睡眠・うつ病・認知症などに関する研究に従事。特に医工連携型研究に注力。電通サイエンスジャムと共同で、世界初の脳波によるリアルタイム感情認識ツール「感性アナライザ」を開発。リサーチ、商品開発など世界中で活用されている。心拍のみを用いた自律神経の動きに注目した睡眠の5段階解析、非侵襲ホルモン解析などの専門家。

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Nao Sakamoto
エディター

アシスタントエディターとしてSNS業務も担当。人間の心理、睡眠や美容に興味を持ち、記事執筆を行っている。自他ともに認める運動音痴だが、最近ヨガとピラティスで心と体を整え始めた。健康なライフスタイルを送りたいため、1日1食オートミール生活を実践中。