昔と比べて記憶力が落ちた、最近忘れっぽいのはスマホやパソコンを使いすぎているから? など悩みがある人は多い。記憶力が落ちる原因や記憶力を上げる方法はあるの?

今回は、菅原脳神経外科クリニックの菅原道仁先生にスマホと認知症の関係や記憶力アップの方法を伺った。

以下「」内、菅原道仁先生

<目次>

スマホが認知症に影響しているって本当?

記憶力が落ちる原因としてよく聞くのは、スマホやパソコンの使い過ぎ。それって本当なの?

「スマホやパソコンの見過ぎであたかも認知症と錯覚するような物忘れに悩むことをスマホ認知症、あるいはデジタル認知症と呼ばれています。しかし、これらは、病的な認知症の一つとしてみなされているわけではありません。みなさんは、記憶力が落ちたことを気にされる方がかなり多いですが、日常生活に支障がなければ気にしなくても大丈夫です。むしろ気にしすぎて、逆に脳にストレスをかけることのほうが心配です」

記憶力が落ちたと感じる原因

年齢以外で記憶力が落ちたと感じる理由は下記の2つ。

①思い出す力が落ちている

「脳は、よく思い出す情報を長く覚えていようとします。最近は、文字を書いたり、電話番号を覚えて電話をしたりということがほぼありません。そのため現代人は思い出すことが減っているのです。また、スマホがあることでわからないことをすぐ調べられるため、余計に思い出す癖がなくなっています。そのため、物忘れが増えたと感じてしまいます」

②情報に埋もれている

「学生時代と比べて、社会人になるとコミュニティーが広がり、日々やることやインプットも増えている上に、スマホからの日常で触れる情報が多くなっています。触れる情報量が増えれば、大事な情報が埋もれてしまい、思い出せないことが増えるのは当然ともいえます」

忘れっぽさと認知症の違い

とはいえ、記憶力が落ちたと感じると、もしかして認知症? と思ってしまうこともある。忘れっぽさと認知症の違いは、主に2つ。

① 日常生活にサポートが必要になる

② 本人よりも先に家族など他の人が気付く

    「認知症は、ホルモン異常や脳内にいらない物質が蓄積されることで脳と細胞の連携がうまくいかなくなり発症します。この場合は、自分が忘れやすくなっているということに気づかず、家族や周りの人が気づくというケースが多いです。症状としては、リモコンやATMの使い方がわからないなど日常生活に支障があることですね。自分が忘れっぽくなったと気づいている場合の多くは、改善できますし、気にする必要はありません。物忘れの症状が気になるのであれば、一度、脳神経外科や神経内科などの医療機関を受診することをおすすめします」


    忘れられない記憶があるのはなぜ?

    忘れられない思い出や記憶がある人は、多いはず。それは、思い出した回数が多いほど記憶にインプットされるという脳の仕組みがあるからだという。それだけではなく、感情が揺さぶられた記憶も長く覚えていることが多い。

    「友人と遊びに行った思い出などワクワク・ドキドキする感情を伴う記憶は偏桃体(感情を判断する部位)に大きく働きかけやすく、忘れにくい特徴があります」

    そのため、新鮮味があるものも覚えていることが多い。

    「小さいころに行った場所や美味しかったものを今も鮮明に覚えているというのは、「初めて知った」という感動があるからです。大人になるといろんな経験をしていくので、感情が動かされにくくなり、忘れっぽくなります」

    また、負の感情が動いた情報も嫌な記憶として残っている人も多いはず。

    「例えば恋人にひどくふられたり、大事なテストで悪い点を取ったり……嫌な記憶がフラッシュバックするPTSDもこれが原因で、不安や恐怖といった感情に関わっている扁桃体が記憶に影響をするからです」

    記憶力をアップさせる方法

    長期記憶をできるようになりたいなら、何度も思い出すこと、感情を伴う記憶であることが大切。下記5つを意識してみよう。

    ①日記を書く

    「記憶力が落ちたと相談に来る患者さんによくアドバイスするのが、日記を書くことです。日記を書くことで、今日何があったかを思い出す回数を増やすことができるからです。文章でもいいですが、絵日記にすると、詳細に思い出すことにつながるのでおすすめです」

    ②趣味などを作る

    「決められたことを毎日やるのではなく、新鮮な刺激を脳に与えることが大切です。年を重ねるとなかなか新しい趣味を見つけるのが難しくなるので、若いうちからいろいろな経験にチャレンジしましょう。その際は、同年代とだけではなく、世代を超えた交流が脳への新しい刺激となります。」

    ③何も考えない時間を作る

    「記憶の整理や何か新しいアイデアを生み出すときには、何も考えない時間を10~15分作ってみましょう。時間に追われているからこそ、お風呂にゆっくり浸かりながら、ボーッとする時間を大切にしてみましょう。ゆっくりお風呂に入るとしっかり眠れるようにもなって、ストレス改善にもつながります」

    ④新鮮な気持ちを持つ

    「慣れている作業も初めて行うようにやってみるのもおすすめです。『なるほど、なるほど』と念仏のように唱えて新鮮な気持ちで行うことで、脳にインプットしなきゃいけない情報だと勘違いさせましょう」

    ⑤気にしすぎない

    「大人になるとやらなくてはいけないことが増え、効率を上げるためにスマホやパソコンは必要不可欠です。スマホのせいで記憶力が下がったかもと考えすぎることが脳にストレスになります。必要な時は使う、そうでないときは使わないと割り切ることが大切です」

    脳トレはしたほうがいい?

    鏡文字や図形の配置場所を記憶するなど記憶力改善に脳トレをやる人も多い。脳トレは、記憶力アップに効果的なのだろうか。

    「脳トレをやったからといって認知症が著しく改善するというのはこれからの研究次第なところがありますが、脳トレをやるのが楽しいのであればやったほうがいいですね。嫌な場合は、無理してやるのは、ストレスがかかるのでやめましょう」

    記憶力の低下が危ないときは?

    若い人が認知症になるリスクは低い。でも最近忘れっぽいなと感じた時、その症状が「認知症」ではなく、「うつ症状」であることもある。一人で悩むよりも、医療機関の受診を検討しましょう。

    下記のチェックリストを確認してみて。

    ☑楽しいと感じていたことがつまらなくなった、やりたくなくなった

    ☑誰にも会いたくない

    ☑最近感情が表に出なくなった気がする

    「何かを思い出したり、感情を表したりするのはエネルギーが必要です。そのため、楽しいことがなかったり、仕事が忙しすぎたりすると、体も心も疲れ、記憶力が落ち、思い出す作業や感情を動かす機能が低下します」

    もし、自分がうつかもしれないと思った時には会社の産業医や、心療内科や脳神経外科や、物忘れ外来を受診するようにしよう。


    まとめ

    物忘れが多くなると認知症も心配になるけれど、プライベートや仕事がに影響が出るほどでなければ、「気にしすぎない」ことを意識して過ごそう。


    お話を伺ったのは…

    菅原脳神経外科クリニック

    院長 菅原 道仁(すがわら みちひと)先生

    菅原先生

    現役脳神経外科医。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門とし、国立国際医療センター、北原脳神経外科病院にて数多くの救急医療現場を経験。現在は、「病気になる前にとりくむべき医療がある」との信条で、菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、菅原クリニック 東京脳ドック(港区赤坂)で診療を行っている。脳のしくみについてのわかりやすい解説は好評で、「主治医が見つかる診療所」(テレビ東京)をはじめ、テレビ出演多数。著書に『認知症予防のカキクケコメソッド』(文響社)『そのお金のムダづかい、やめられます』(文響社)、『死ぬまで健康でいられる5つの習慣』(講談社)などがある。

    Headshot of Nao Sakamoto
    Nao Sakamoto
    エディター

    アシスタントエディターとしてSNS業務も担当。人間の心理、睡眠や美容に興味を持ち、記事執筆を行っている。自他ともに認める運動音痴だが、最近ヨガとピラティスで心と体を整え始めた。健康なライフスタイルを送りたいため、1日1食オートミール生活を実践中。