片頭痛は間違いなく自分の意志を持つ獣。気まぐれに私たちの自由を奪い、代わりに痛みと苦悶(くもん)をもたらす。それに加えて、光や音に対して過敏になったり、吐き気がしたり、視覚障害や極度の疲労が現れたりすることも。じゃあ、こういった片頭痛の症状は片っ端から出ているのに、肝心の頭痛がないときは? サイレント片頭痛かもしれない。アメリカ版ウィメンズヘルスから見ていこう。

「サイレント片頭痛は、頭痛以外の片頭痛の症状が出ている状態です」と説明するのは、米ノースウエスタン・メディカルグループの頭痛スペシャリストで神経学者のビアンカ・バルセロ医学博士。「サイレント片頭痛は、頭痛がないという点で通常の片頭痛と異なりますが、最近は“サイレント”という言葉を使わない医師が増えてきました。この言葉は、通常の片頭痛ほど悪くないという誤解を与えかねないからです」。実際のところサイレント片頭痛は心身を極度に衰弱させるため、最近は“頭痛のない片頭痛前兆”と呼ばれるようになってきた。

頭痛のない片頭痛前兆は誰にでも起こりうるけれど、バルセロ医師の話では、片頭痛歴のある人に生じやすい。正確なトリガーはいまも謎に包まれたまま。しかし、カフェイン、アルコール、騒音、異常気象、明るい光、チカチカ点滅する光、寝不足、ストレス、不規則な食生活は主要因と考えられる。ホルモン変動も片頭痛の一因なので、サイレント片頭痛がある4%の米国人の多くは女性。バルセロ医師によると、生理、閉経、妊娠、低用量ピルの使用もサイレント片頭痛の症状を引き起こすことがある。

幸いにもサイレント片頭痛を緩和することは可能。その方法と予防法を神経学者が教えてくれた。

サイレント片頭痛の症状は?

バルセロ医師いわくサイレント片頭痛の症状は人によって異なるけれど、通常は5~60分にわたって、ゆっくり徐々に現れる。「もっとも多く見られる症状は前兆です。前兆とは具体的に、視覚、感覚、発話、言語の一時的な変化を伴う反復性の発作です」。前兆の約99%は幻覚、閃輝暗点(ブラインドスポット)、視覚の歪み、目の灼熱感といった陽性視覚症状(ないはずのものが見えること)。でも、暗点、かすみ目、さらには失明といった“性視覚症状(見えるはずのものが見えなくなること)が現れることもある。

バルセロ医師によると、感覚的な症状には四肢(特に手足)のしびれやうずき、発話障害、味覚や嗅覚の異常、聴覚障害が含まれる。サイレント片頭痛では、吐き気、頭のフラフラ感、めまい、首やアゴの痛み、意識の混乱が生じたり、光や乗り物に酔いやすくなったりすることも少なくない。

サイレント片頭痛を治すには?

バルセロ医師いわくサイレント片頭痛は、その前兆症状が小発作や脳卒中、脳内出血といった深刻な神経学的疾患に似ていることが多いため、診断が難しい。

「残念ながらサイレント片頭痛は診断と治療が非常に難しい疾患です。他の疾患でないことを確かめなければなりませんから」。でも、焦らなくて大丈夫。本当に心配が必要なのは、いままで経験したことのない症状が出たときと、症状が1時間以上治まらないとき。視力の急激な変化や四肢のしびれといった急性の症状が見られるときも、できるだけ早く病院へ。

その一方で、片頭痛が頻繁に起こる人、先述の症状を経験したことがある人、その症状が深刻でない人は、自分で症状を管理・緩和することができるかも。とはいえ、ほとんどの症状は5~60分で消えるので、治療は要らないかもしれない。「多くの薬は速効性が不十分なので、サイレント片頭痛の症状が出ている間に効かない可能性があります」とバルセロ医師。「イブプロフェンを飲むこともできますが、それが効き始める頃には症状が治まっているでしょう」

待つのがイヤなら、ジンジャエールやジンジャーティーで吐き気を抑えて。静かな暗い部屋で安静にしていれば、光や騒音に対する感度が下がるそう。視覚的な前兆は、目に冷たい布を当てることで軽減・治癒することがある。

サイレント片頭痛を防ぐには?

サイレント片頭痛を防ぐカギは、薬を使わない処置にある。「脳は一貫性を好みます」とバルセロ医師。規則正しい睡眠(1日7~9時間)、運動、水分補給、バランスのよい食事、ストレス解消は、どれも有効は予防策。

毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きれば、概日リズムが安定してくる。バランスのよい食生活を心がければ身体機能が正常化して、十分に水を飲めば脱水症状が軽減する。バルセロ医師によると、どのアクションもサイレント片頭痛の症状を防ぐことで知られている。

でも、サイレント片頭痛の症状が絶えず、あるいは頻繁に現れるなら迷わず医師に相談を。「日常生活や生活の質にネガティブな影響を与えている症状については、それが何であろうと神経学者に相談するべきです。最近の薬は安全性が非常に高く、副作用も少ないですから」とバルセロ医師。「片頭痛は私たちから時間と忍耐力を奪います。1人で静かに苦しまず、プライマリケア医か神経学者に頭痛(あるいは頭痛のない片頭痛前兆)のことを話して、生活の質を向上させてくださいね」

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Andi Breitowich Translation: Ai Igamoto