結局使わなかった薬や使い切らなかった薬、使用期限が過ぎた薬でキャビネットがあふれてる?
この薬品ロスは、NHS(英国民医療サービス)内で深刻化しつつある問題。
『NetDoctor』専属薬剤師のリタ・ジェラーニによると、一度薬局を離れた薬は、未開封でも未使用でもほかの人に使うことができないため、薬局に戻されても100%廃棄される。今回は、この薬品ロスの問題についてや私たちにできる6つのアクションをご紹介。
知られざる実情
1年分の残薬を金額に換算すると、推定3億ポンド(約470億円)にもなる。
これだけの費用があれば、
・訪問介護士11,778人の雇用
・80,906人の人工股関節置換手術
・19,799人の乳がんの薬物治療
・300,000人のアルツハイマー病の薬物治療
・312,175人の白内障手術
が可能になるそう。
私たち1人ひとりの問題
イギリスの保健省の調査によると、NHSは薬品ロスで年間約3億ポンドをドブに捨てている。そのうちの1億1000ポンドは薬局に戻された薬、9000ポンドは自宅に眠る未使用の薬、5000ポンドは介護施設で処分された薬。
このなかには、私たちが処方されても使わなかった薬や注文したのに使わなかった薬も含まれている。つまり、私たちも患者の治療に使えるはずの費用を無駄にしているということ。
私たちにできること
それは、本当に必要な薬だけもらうこと。
「未使用の薬、クリーム、包帯でいっぱいの袋が処分目的で薬局に持ち込まれると、薬剤師として本当に腹が立ちます」とリタはいう。
薬局に戻されて処分される年間1億1000ポンド分の薬は、私たちが必要な分だけもらうことで削減できる。
「処方される薬について、患者さんが薬剤師や医師と慎重に話し合えば、薬品ロスも減るのではないでしょうか」とリサ。「薬剤師は、リフィル処方の受付だけでなく、薬の飲み方やタイミングのアドバイスも行っています」
以下の6つのアクションも薬品ロスの削減に効果的。
①飲むのをやめた薬があるときは、医師や薬剤師に伝える。
②自宅の薬の在庫を調べてから、薬をもらうようにする。
③服用する薬について、医師や薬剤師と頻繁に話し合う。
④以前と同じ薬が処方されたら、よく考えて、本当に必要な分だけもらう。
⑤要らない薬はもらわない。今後のためにももらわない。必要になった時点で、必要な分だけもらう。
⑥病院へ行くときは、自分の薬を全て持参する。
なお、処方された薬は“あなたのためだけ”に出された薬なので、ほかの人とシェアするのは危険。
リフィル処方について
同じ薬が繰り返し処方されたり、途中で処方される薬の種類が変わったりするのは、使用期限切れの薬や要らない薬がたまってしまう理由の1つ。
2010年、イギリスのヨーク大学が所有する医療経済コンサルタント会社『The York Health Economics Consortium』とUCLスクール・オブ・ファーマシーは、薬品ロスの根本的な原因の1つがリフィル処方箋(一定期間内に1つの処方箋を繰り返し利用できる)にあるというレポートを発表した。
「リフィル処方箋をもらった患者さんは、本当に必要な薬だけ再注文してください」とリタ。「使用感について、かかりつけの薬剤師と頻繁に話し合うのもいいでしょう。薬剤師には、普段の薬の飲み方や懸念事項を伝えてください」
イギリスでは、この問題に対して、どのような動きがあるのだろうか。
NHSに所属する一般開業医は、市販で購入できる薬を無料で処方することが可能。でも『GP』誌が行ったアンケート調査の結果、開業医の3分の2は、このNHSの方針に反対していることが分かった。自主的に無料処方を中止した医師もいる。
イギリスのCCG(NHSから医療サービスを委託された開業医で形成された団体)は、コストを削減するために、薬局が薬剤師の裁量で、患者の代わりにリフィル処方薬を注文することがないようにしている。また、イングランド北西部と東部にある3つのCCGは、年間約1000ポンドの薬品ロスを防ぐため、薬局によるリフィル処方の受付をやめさせる制度を導入した。
でも、薬事学専門誌『The Chemist and Druggist』によると、イギリスの薬事委員会のチェアマン、グラエム・バッテンは、この制度で薬品ロスの問題が解決されるか否かについて懐疑的な見方を示し、その地域の薬局と患者に大きな影響が及ぶ可能性を懸念している。
※この記事は、『Netdoctor』から翻訳されました。
Text: Karen Gordon Translation: Ai Igamoto