アーノルド・シュワルツェネッガーの元妻のマリア・シュライバー。彼女はジャーナリストを40年以上続けてきた。彼女にとって、人と向き合って話すのは、生きがい。好奇心が旺盛なのは昔からで、子供の頃は事あるごとに「なぜ?」と聞き、兄弟を困らせていたそう。でも、この「物事の本質に迫りたい」という衝動のおかげで、彼女はやりがいと驚きに満ちたキャリアを手に入れた。この衝動は、尊敬すべき専門家から貴重な話を聞く機会もくれた。

最近は、“老いること”について考える時間が増えてきた。66歳になったいまも健康でいられることを感謝する一方で、時間の儚さを感じずにはいられない。自分が年寄りと思ったことはないけれど、それは間違いであることにも気づき始めたそう。自分の年齢を認識すると、物事の見方が変わる。そのおかげで、いまの彼女に与えられる機会は、20代で与えられた機会よりもはるかにステキであることが分かってきた。年齢は単なる数字かもしれないけれど、もう無駄にする時間はない。それを認識したことで、彼女に喜びや知識を与え、好奇心をあおってくれる人や仕事を優先するようにもなった。

マリア・シュライバーが老いることの喜びを認識するのに66年もかかったのは、老いることに対する世のなかの考え方を根本的に変えるべきサインなのではないかと思う。だから彼女は特技を生かして、アメリカを牽引するエイジング・エキスパートと、老いることを楽しんでいて今後の彼女の手本にしたい友人に電話をかけた。そのなかで学んだのは、誰にでも「人生はこれからだ」と思う権利があり、「年を取るのは恐るべきこと」という古臭い通念を書き換える力があるということ。

ここからは、その人たちがシェアしてくれた「幸せに老いるためのアドバイス」を厳選して紹介したい。マリア自身も日常のなかで実践している。

1.“アンチエイジング”という言葉はもう使わない

young woman holding picture of elderly woman
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“アンチエイジング”なんていうのはバカげた言葉。まだ20代の子がアンチエイジングクリームの宣伝をするのとか、本当に信じられない。年を取るのは紛れもない事実であって、贈りもの。年を取れればラッキーだし、健康なまま年を取れればもっとラッキー。避けたいことや恐るべきこととして話すのは、もうやめない?

女優のジェイミー・リー・カーティスは、老いることに前向きな女性の1人(本来の美しさを奪う美容整形手術にも反対している)。「私は知性と気品、情熱と活力を持って老いたい」とジェイミーはいう。「老いることを悪いことのように扱って、見ないフリをしたくない」

気分や見た目をよくするためになにかするのは、もちろんいい。娘に新しい保湿液やアイクリームを勧められれば、すぐ買っちゃう。気分も見た目もキラキラでいたいから。でも、最終的に求めているのは、世のなかのアンチエイジングの気運に乗って、自分を若く見せることじゃない。老化の過程に興味を持って、ワクワクしながら老いること、とマリア。

2.怖いことにもトライする

俳優のウィリアム・シャトナーは90歳で宇宙に行った。その数週間後「怖かった?」と聞いてみると、「そりゃあ、もちろん怖かったよ! それでも行くといったけど」。この言葉には励まされた。

マリア・シュライバーは最初、“おばあちゃん”になることが怖かった。おばあちゃんとはこういうもので、こういう見た目という既成概念が自分のなかにあったから。“おばあちゃん”なんていけ好かない=おばあちゃんになった“自分”はいけ好かないと思っていたから。でも、おばあちゃんであることを受け入れた途端、その役割が何倍も楽しくなった。いたずらやゲームや歌が再び人生の一部になった。いまは、2人(もうすぐ3人)の孫のおばあちゃんでいられることが本当にうれしいそう。

子供たちには、彼女が新しい考え方、アイデンティティ、マインドセットを身につけるのを見てほしい。新しいことに挑戦するのを見てほしい。ちょっと腰が引けるときは、なにが怖いのか自分自身に聞いてみる。そして、怖がることが合理的かそうでないかを考える。新しいことに「YES」といえば自信がつくし、初心に帰って学び続けられるから。年を取ってくると、こういうことが大切になる。

マリア・シュライバーは去年、息子のパトリックと食品会社『Mosh』を設立した。「65歳で起業家になるなんてどうかしている」と何人にいわれたことか。自分でもそう思うことはあったけれど、彼女は「YES」を突き通した。刺激的で素晴らしい道のりだった。なにか有意義なものを生み出している感覚があった。やっぱりシャトナーがいうように「新しいことにビクビクしながら高齢期を生きているなら『YES』といわなきゃダメだ。座ってテレビを観ていたくても、やらなきゃダメだ」

3.深い悲しみを受け入れる

portrait of serious young woman behind glass pane
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年を取れば、大切な人を失って、深い悲しみに包まれることもある。去年は親しかった人を数人亡くした。それはマリアだけじゃない。悲しみの波を乗り越えるのは大変だけれど、その経験は、それでも人は生きられることを教えてくれる。

メンタルヘルスジム『Coa』の共同設立者で臨床心理士のエミリー・アンハルトによると、大きな喪失体験(大切な人との死別など)と日常の小さな喪失体験(過去の自分や見逃してしまった機会など)の両方に対する悼み方を知っておくことが大切。「去ってゆく人や物事を受け入れて、それに対する自分の気持ちも受け入れる。そうすれば、するべき決断をして、なにがあっても生き抜いていくことができます」

悲しくなるのは、その人や物事が大好きだったという証拠。どんな喪失体験も、彼女にとって大切だった人や物事を広い視野で考えるチャンスになる。目を逸らさずに、勇気を出して悲しみと向き合えば、全体がハッキリ見えて決断が楽になるし、将来に対する不安が軽くなる。

そして、老いれば当然、死について考えざるを得なくなる。死から逃れられる人はいない。人々の死に対する考え方には魅了されるし、そこから多くのことが学べる。マリアは、両親と親友のシャーロットがこの世を旅立ち、次の冒険を始める瞬間に立ち会うことができた。誰かが亡くなる瞬間を見るのは怖いと同時に光栄なことでもある。人生の終わりが近い人は、勇気と気品に溢れた平穏な死に方だけでなく、生き方も教えてくれる。

4.喜びや生きがいが感じられることをする

両親に“リタイア”というコンセプトがなかったせいか、マリアは「何歳で仕事をやめる」という目標を持ってこなかった。作家のマーサ・ベックによると、多くの人は人生の大半をやりたくないことに費やし、老後を偏屈な態度で過ごす。ただなんとなく生きているという感覚は寿命も縮める。著書に『The Blue Zones: Lessons for Living Longer From the People Who’ve Lived the Longest』を持つダン・ビュイトナーによると、生きがいは人の寿命を最大8年も延ばすというエビデンスがある。

彼女の両親は大義名分の下、休むことなく働いた。マリアも2人を見習って、アルツハイマー病に対する関心を高め、この病気が男性より女性に多い理由を調べるために『Women's Alzheimer's Movement』という団体を設立した。よりよい世のなかに必要な情報を伝え、人々を行動に駆り立てるドキュメンタリーや映画を制作するべく『Shriver Media』を立ち上げた。みんなに今週の出来事を理解して、来週を楽しみにしてほしいから、週に1度は『The Sunday Paper』というニュースレターも書いているし、小さくても人のためになるような声を本にする『The Open Field』という出版社も運営している。

どの仕事も彼女の想像力と好奇心を掻き立てて、自分が生きていることを感じさせてくれる(自分の子供や、自分の子供でもおかしくない年齢の若者たちと仕事をしているというのもあるけれど)。自分なりに思いやりや慈悲を届けられている気がするし、楽しすぎて、忙しすぎて偏屈になる暇もない。

5.毎日瞑想をする

young woman meditating while sitting on floor by plant at home
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人生は忙しい。驚いたり、畏敬の念を抱いたり、落ち込んだり、悲しんだりで忙しい。しかも、最近は世界中が混乱している。だからこそ少し休んで、慌ただしい脳を落ち着かせることが大切。

ひとりで座り、呼吸に集中したことがある人は、それで気分が劇的に変わることを知っているはず。過ぎたことを悔んだり、先のことを心配したりするよりも、いまを大切にしようと思える。それが瞑想の力。ディーパック・チョプラ医学博士によると、瞑想は生活の質を瞬時に改善してくれる。数年間、毎日瞑想を続けてきたマリア自身もそう思う。自分の思考を自分から切り離し、自分の魂と繋がって、よいことがあっても、悪いことがあっても、分からないことがあっても大丈夫と感じるためには、瞑想が一番確実。

マリアの場合、足を組んでマントラを唱えるときもあれば、会議の合間に5分間のブレスワークをするときもある。近所を静かに散歩するときもあれば、孫娘と一緒に歌ったり踊ったりするのが一番パワフルな瞑想なんじゃないかと思うときもある。形式がどうであれ、瞑想は脳の一時停止ボタンを押して、自分や人に対する向き合い方を真剣に考える機会をくれる。

今回、多くの人と話すなかで彼女が学んだ一番大切なことは、人の手本になるくらい幸せに老いるのは一部の人の特権じゃないということ。ビクビクではなくワクワクしながら老年を過ごせるように、考え方を変えるのは誰にでもできること。老いてこそ、子供や孫の手本になれる。老いてこそ、目の前には何歳になっても可能性に満ちた世界が広がっていることを教えられる。一緒に、それを余生の楽しみにしてほしい。

※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Maria Shriver Translation: Ai Igamoto