女優、映画プロデューサー兼ディレクターの肩書を持つハル・ベリーは、ハリウッド屈指のフィットな女性として知られている。ヘルス・ウェルネスに関する話題や商品を紹介するサイト『rē・spin』を立ち上げ、インスタグラムでは、フィットな体をつくるアドバイスやテクニックをシェアしている。そんな彼女は、今の人生が一番健康でパワフルだと話す。アメリカ版ウィメンズヘルスのインタビューを紹介しよう。

最近彼女のSNSに投稿されたのは、新鮮な空気を味わいながらリラックスするハルの姿。青々とした自然の中でレンガに座り、赤ワインのグラスを片手にメッシュのミニドレスから太ももをのぞかせている。キャプションには「この格好で気にしてなんかいられない」。そう、これが自分と世の中に満足しているときのハル。

決して何も気にしないわけじゃない。ただ、気にする対象を選んでいるだけ。ハルにとって大事なのは、人ではなく自分の意見。「私には自分自身の本質も、この仕事をしている理由も分かっています。自分のことは、いつも大切にしてきました」と語る55歳の彼女は、2児(娘とナーラちゃんと息子のマセオくん)の母でありながら、自分の健康を心から大切にして、仕事に全身全霊を注ぎ続けている。屈辱的な過去を持つ総合格闘家を演じた最新作『ブルーズド~打ちのめされても~』では、監督デビューも果たした。

この総合格闘家の役は当初、25歳の白人女性を想定して書かれていた。でも、ハルはプロデューサーのベイジル・イバニクに「自分のほうが主人公に向いている」と訴えた。「有色人種の中年女性が最後のチャンスをものにする。そのほうがパワフルだと思いました。いちかばちかの勝負でした」。一定の年齢に達したら、女優としてのキャリアは終わるという言い伝えにも逆らいたかった。「女優業を始めたときは、年を取るのが何よりも怖かったです。35歳か40歳でキャリアが終わり、あとはおばあちゃん役が回ってくるのを待つしかないと言われていたので。変わってきてはいますが(ハリウッドは)容赦ない業界です」

ハルベリー
CLIFF WATTS

アカデミー賞最優秀女優賞(2001年の映画『チョコレート』)を獲得した唯一の黒人女性であるハルは、ハリウッドで刺激的な成長を遂げてきた人物の1人。『ブルーズド』への出演が決まると、イバニクから「君のビジョンに命を吹き込む監督を探してほしい」と頼まれたものの手詰まりに。でも、ハルには自分のするべきことが分かっていた。「私のストーリーに共感してくれる監督が見つからなかったことで真実が見えたというか、いまなら自分が行けると思いました」と監督に名乗り出た瞬間を振り返る。「もう自分が主導権を握るしかない。だから『いままで以上に頑張ろう』と思いましたね」

監督兼主演となれば、撮影現場で自分のコンフォートゾーンから出るだけでなく、厳しいトレーニングも受けなければならない。結果的にハルは5種類の総合格闘技(ブラジリアン柔術、柔道、ムエタイ、テコンドー、キックボクシング)を習得し、いつも以上に重いウエイトで体を鍛えた。米総合格闘技団体UFC王者で共演者のワレンチナ・シェフチェンコと戦うシーンでは、肋骨(ろっこつ)を2本折るはめに。総合格闘技で骨を折るのは珍しくないけれど、一流女優がスタントで骨を折るとなれば話が別。それでもハルは撮影をやめなかった。「必死にならなきゃいけない状況や困難な状況では、最高の自分が出せます。(『ブルーズド』の仕事は)私に大きな力をくれました。この歳で自分の体を限界まで追い込んでいるうちに、年齢は単なる数字だということを思い出しました。どんな人間でありたいかは自分自身で決められます。いまの私は人生で一番健康だし、気持ちの面でも一番パワフル。この映画のおかげです」

ハルベリー
CLIFF WATTS

総合格闘技の演習に加えてハルは、週6日のトレーニング(日曜日は休養日)も続けている。トレーナーのピーター・リー=トーマスとは長い付き合い。ウエイトを使ったランジや階段の上り下り、スクワットだけでなく、ウエイトボールを使ったジャンプ、スプロール、ターキッシュ・ゲットアップなどのプライオメトリクス・ワークアウト(有酸素運動と筋力トレーニングのミックス)もハルの定番。体幹のトレーニングでは、逆さまにぶら下がった状態でシットアップとクランチをすることも。「私の腹筋は、かなりハードなことをしないと割れません」とハル。「子供を2人産んだ分おなかの皮膚がたるんでいるので、その部分を筋肉で埋めないと」

決まり切ったルーティンが向かないハルは身体組成を毎日測り、その結果からワークアウトの内容を決めている。腰が痛い日はストレッチ、ピラティスかヨガにフォーカス。“毎日運動”がモットーとはいえ、疲れているときは何かモチベーションになることを探さないと動く気になれないそう。「決して楽ではありませんが、そういうときは自分が体を動かす理由を思い出すようにしています」とハル。「高齢出産だったので、子供たちと1日でも長くいたいし、孫の顔も見たいですから」

ハルにとっては食事管理もヘルシーなライフスタイルの一部。19歳で糖尿病と診断されてからは、もっぱら肉中心で低糖質の食生活。自分の気分をよくするために必要な食べ物も熟知している。朝はアーモンドミルク、ギー、プロテインパウダー、コラーゲンで作ったブレットプルーフコーヒー。昼食は午後2時頃で、ラムチョップかリブアイに芽キャベツ、さやいんげん、ホウレン草、ビーツか自家製のカリフラワーライスを添える。夕食は大抵タンパク源を含むサラダ。インターミッテント・ファスティングのファンなので、夜6時以降は何も食べない。閉経周辺期のホルモンバランスの調節に役立つということで、セルフケアには鍼も取り入れている。ロックダウン中も鍼のおかげで集中力と心の平静が保てたそう。

ハルがセラピー効果のあることをするのは、いまに始まったことじゃない。米国退役軍人病院で精神科の看護師として働いていたハルの母親は、ハルの父親がアルコール依存症であることを懸念して、当時10歳のハルにセラピーを勧めた。「父は私が3歳のときに出て行って、10歳のときに戻ってきました」とオハイオ州出身のハルは言う。「父は家族全員を壊して傷だらけにしたようなものです。母は先見の明で私にセラピーが必要になることを知っていました」。今日のハルは、必要なときにだけセラピーを受けている。その代わり、静かな庭で思考を一時停止させ、落ち着いた心で高次の意識に耳を傾ける瞑想が、自分を見失わず、健康的な心理状態を保つ秘訣になっている。

ハルベリー
CLIFF WATTS

でも、最近は子供のことでセラピストに会う必要性を感じているそう。「父親が違う(元夫はガブリエル・オーブリーとオリヴィエ・マルティネス)から、あの子たちが一緒にいるのは大抵私。この責任は大きいです。だから、ときどき人と話して『どうすれば子供たちにとって最善の決断ができるのか』『私たち(それぞれの父親と私)が与えた人生をうまく渡り歩いてもらうために親として何ができるか』という問題の答えを見つけなければなりません。私は『もっと頑張るべきだった』という罪悪感でいっぱいです。でも、まずは自分のケアをしないと。私がアンハッピーで自分自身を嫌っていたら、子供にとっていい母親にはなれませんから」

恋はとても順調で、2020年9月から付き合っているミュージシャン、ヴァン・ハントとの生活が楽しくて仕方ない様子。話を聞くと「もっと早く出会って、もっと長く愛したかった。とにかく心が満たされます。恋人としても、母親としても、アーティストとしても幸せです」とのろけてみせた。「自分のためにならないような関係や、女性として感じたい気持ちが感じられない関係を続けていたら、いまほどよい母親ではいられなかったと思います」

ハルは自分と同様、子供たちにも意志の強い人間であってほしいと願っている。ナーラちゃんには日頃から「自分の声を使いなさい。あなたには、その声を聴いてもらう権利がある。愛されるためにも、受け入れられるためにも、そのままでいい。あなたがどんな人間かを決めるのは、あなただけ」と伝えているそう。「あの子たちには、自分のドラムのビートに合わせて生きてほしいと思います。自分の心に忠実に、フォロワーではなく、リーダーやイノベイターとして生きていってほしいです」

ハルは、このメッセージを次世代のブラックコミュニティにも届けたいと思っている。「私にできるのは、次世代の人たちに勇気を与え、このバトンを渡すことだけ」と話すハルは、レジーナ・キング、ヴィオラ・デイヴィス、リナ・ウェイス、ゼンデイヤといった有色人種の姉妹たちにエールを送る。「“あなたが〇〇したおかげで〇〇する勇気がわきました”というのは、私にとって最高の褒め言葉。うれしくて胸がはちきれそうになりますね」

キャリア、子育て、恋愛、インナーピースを両立するいう決意のもとハルは、ハリウッドを象徴する女優としてさらなる高みを目指し続ける。でも、これまでの偉業についてはクールに見ている。「いつも全部が手に入るとは限りませんが、大事なことは生きているうちにすべて得られると思っています」。
いまのハルにとって何よりも大切なのは、自分のルールで生きること、そして臆せずに自分らしく振る舞うことで周囲の人や世の中によい影響を与えること。

総合格闘家のワレンチナとの絆

ハルベリー
CLIFF WATTS

『ブルーズド』の共演者が本物のUFCファイターと聞いて驚く人もいるかもしれない。それも、ただのファイターではなく、現UFC女子フライ級王者のワレンチナ・シェフチェンコ。もともとムエタイ選手だった総合格闘家のワレンチナは、短期集中コースでハルに総合格闘技のすべてを教えた。そこでアメリカ版ウィメンズヘルス編集長のリズ・プロッサーは、カリフォルニアで2人と対談。過酷なトレーニング、友情、絆に関する話を聞いた。

WH>ハル:相手役にワレンチナを選んだのはなぜですか? 彼女の何に惹かれましたか?

ハル:私の敵には本物のファイターが必要だと思っていました。総合格闘技の知識や経験がない女優を選んでも、自分が大変な思いをするだけ。だからUFCファイター、それも私と同じ体重の人を選ぶ必要があったんです。私は57kgなので、ライト級。UFCで最高のフライ級ファイターといったら王者以外にいないでしょう? 私の映画に出てもらえる自信がなくて、最初は尻込みしましたよ。でも、うれしいことに引き受けてくれました。

WH>ハル:役作りをサポートするドリームチームがいたということですが、ワレンチナからも教わりましたか?

ハル:ワレンチナが出演を引き受けてくれて、一緒にトレーニングを始めた瞬間、期待が現実のものになりました。スタントウーマンとのトレーニングとはあまりにも違っていて、「そうそう、だから私には本物のファイターが必要だったの」と思いましたね。本物のファイターを相手にすると、すぐにピンとくるんですよね。その場で「違う違う、そうじゃない」と言ってもらえるし。トレーニングの半ばを過ぎて、王者から学んでいるという実感が湧いてきました。これ以上の短期集中コースはないですよ。

WH>ワレンチナ:トレーニングを通して成長するハルの姿を見て、どう思いましたか?

ワレンチナ:一番スゴイと思ったのはハルの忍耐力です。トレーニングは朝7時から午後1時まで。練習中に休憩を挟まないファイターは珍しくありません。それにトレーニングの様子を見ていれば、いろいろなことがわかります。このファイターには休憩が必要だなとか、気晴らしが必要だなとか。でも、ハルは5時間ずっとノンストップ! 私でさえ疲れているのに「よし、もう1回やろう!」という調子です」

ハル:撮影中、ワレンチナの実際の試合で審判を務めたレフリーに「最後のシーンは本当にワレンチナの試合を見ているようだったよ!」と言われたのはうれしかったですね。すべての努力とトレーニングが報われた瞬間でした。撮影前は『本物のファイターを相手にしたらボコボコにされるよ』と周囲から脅されて、「じゃあ頑張るしかないですね」と言っていました。ワレンチナの名誉のために言っておくと、ボコボコにされることはなかったです。彼女は力の抜き方を知っています。映画のファイトシーンでも、初めてのことなのに、スタントウーマン顔負けの演技をしていましたよ。

WH:映画の中の2人には深い絆がありますよね。プライベートでも2人の関係は深まりましたか?

ワレンチナ:持てるすべてを出し尽くして戦った相手とは、心の距離が近くなります。最後には相手に対する尊敬の念しか残りませんから。その経験を共にすれば、とても近しい関係になりますね。

ハル:ワレンチナとは、一緒に戦火を駆け抜けている感じです。最初のうちは、自分の演技に大きなプレッシャーを感じていました。でも、お互いに励まし合って、怖くても絶対に成功させたいという思いを共有すれば、そこに絆が生まれます。ワレンチナとは、これからもずっと親友でしょう。

ハルベリー

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Photographed by Cliff Watts Fashion director: Kristen Saladino Hair: Sara Seward (Halle), Sophia Porter using Bumble and Bumble (Valentina) Makeup: Jorge Monroy (Halle), Tay Rivera (Valentina) Manicure: Shigeko Taylor for Star Touch (Valentina) Prop styling: Wooden Ladder Production: Crawford & Co Productions Text: Jessica Herndon Translation: Ai Igamoto