春は、ランニングマシンより外を走るほうが気持ちいい。でも、夏になって気温がグングン上がってくると、屋外でのワークアウトに危険が伴うようになる。

米国疾病管理予防センターによると、アメリカでは、極端な暑さによる合併症(熱疲労や熱射病)で毎年約618名が命を落とすそう。

熱疲労と熱射病には、それぞれ特徴的な違いがある。まず、熱疲労は、不快な高温に数日間さらされて、体内の水分が不足することで生じる。米国立医学図書館によれば、これが多量の発汗、過呼吸、頻脈・弱脈を引き起こす。

この熱疲労を放置して、症状が悪化したのが熱射病。体温を急速に上昇させて、熱疲労より不快な症状の連鎖を引き起こす熱射病は、人の命を奪いかねない健康障害。ポカリスエットで知られる大塚製薬によると、日本では、この熱疲労や熱射病を含む「暑さが原因の健康障害」をまとめて「熱中症」と呼ぶ。夏を安全に楽しむために、熱中症に関する基礎知識、症状の見分け方、予防策を学んでおこう。

参考記事:大塚製薬 熱中症の種類

熱中症とは?

米セントラル・カリフォルニア・スポーツ科学研究所のエリートアスリート・パフォーマンス・ディレクターとして、アスリートの安全とパフォーマンスに暑さが与える影響を調査するルーク・プライヤー博士によると、熱射病には2種類ある。

非労作性(古典的)熱中症

非労作性熱中症は徐々に進行し、体幹温度を上手く保てない子供や高齢者に現れる。体を冷やす手段がない人(エアコンのない建物の中で暮らす人など)も、このタイプの熱射病のリスクが高い。体温が数時間または数日かけて上がるため、本人は体の熱さに気付かないこともある。

労作性熱中症

労作性熱中症は急性で、高温の環境で活動する人に現れる。気温や湿度が特に高い日は、暑さ関連の健康障害が数時間で生じることも。暑さの中で活動している人には誰にでも起こり得るけれど、リスクがもっとも高いのはハードな運動をしている人。具体的には、ランナーやサッカー選手を始めとする耐久系のアスリート、息苦しい防具の中で汗をかくアメフト選手、建設現場で働く労働者など。

プライヤー博士によると、運動中の人間は、信じ難い量の汗をかく。通常、汗は体を冷やすけれど、労作性熱中症ではこれが起きない。屋外でのワークアウトや猛烈な暑さで臓器が熱くなりすぎると、体の体温調節中枢が機能しなくなってしまう。

その結果、体幹温度が上昇して40度を超えてしまうと、いよいよ危険な状態に。ここまで体が高温になると、腸の細胞がダメージを受けるので、有害な物質が血中に浸出し、複数の臓器不全を引き起こす。

熱中症の症状

1.体温が高い

米国疾病管理予防センターによれば、体温が39度以上に達したら熱中症の可能性がある。プライヤー博士によると、体温は39度未満でも、それ以外の熱中症の症状がある人や、何かおかしいと感じている人が目の前にいるときは、その人の体を冷やし、医療機関に連絡するべき。

なぜかというと、体温計が必ずしも正常とは限らないから。「体温が41度でも、口の中に体温計を差し込むと37度しかないこともありえます」とプライヤー博士。「ちょっと熱いだけ、と思いきや、実際は危険なほど熱いこともあるのです」

2.筋けいれん

熱けいれんとしても知られる筋けいれんは、運動中にもっとも早く現れる熱中症の症状。高温の環境で汗をかくと、特に脚、腕、腹部の筋肉がけいれんして痛み出す。多くの場合、その原因は暑さだけではないけれど、筋けいれんは体が暑さに慣れていないと起こりやすい。筋肉の使いすぎや脱水症も筋けいれんの主な要因。でも、筋けいれんに付随して熱中症の他の症状が出ているときは、無視しちゃダメ。

3.汗が出ない、もしくは出すぎる

極端な暑さの中で長い時間を過ごしていると、体が正常な体幹温度を維持しようとしなくなる。だから、段階的に起こる非労作性熱中症では、汗が止まるかもしれない。

でも、労作性熱中症では、異常なくらい汗が出るはず。「『まだ汗をかいているので、熱中症ではありません』と言う人がいますが、これは間違った理解です」とプライヤー博士。「労作性熱中症では、ダウンするずっと前から、体が体温調節(体幹温度の維持)をしようとして、汗が噴き出すケースもあります」

4.意識の混乱、または歩行困難

労作性熱中症は、中枢神経系を狂わせる。プライヤー博士によると、体の整合が取れなくなったり、頭が混乱したり、攻撃的になったり、まともに歩けなくなったりするのは深刻な警告サイン。「一種の脳震とうみたいなもので、電気は付いているのに家に誰もいないときのような感覚です。質問にちゃんと答えられないのは、最初に現れるサインですね」

5.ガンガンという頭痛

頭がガンガンするのも、熱中症のよくあるサイン。通常は脱水症か、熱中症が中枢神経系に与えた影響のせい。

6.めまい、吐き気、嘔吐

発汗が続くにつれて、体は脱水状態に。さまざまな臓器が暑さにやられ、このリストにある熱中症の症状が悪化して、めまい、失神、吐き気、嘔吐が起こることもある。

7.皮膚の発赤

非労作性熱中症でも労作性熱中症でも、体が自分を冷やす目的で血流を皮膚に向かわせるため、皮膚が赤くなる。熱中症の種類によって、肌が異常にベタベタしたり、乾いたりすることも。

8.心拍数の上昇、または呼吸困難

体がオーバーヒートを起こすと、心臓に多大なストレスがかかる。なぜ? 体の冷却機能を働かせ、体温を正常に保つため、鼓動を強く、速くする必要があるから。これが呼吸困難や過呼吸を引き起こす。

目の前の人が熱中症かもしれないー何をするべき?

※熱中症が疑われる場合には救急車を。放っておくと、命に関わるかもしれない。

救急車の到着を待つ間、その人の体を急速にガンガン冷やして。プライヤー博士は、以下の応急処置を勧める。

患者を涼しい場所に移す。直射日光の当たらない日陰や屋内の涼しい部屋へ。

バスタブに氷水を入れ、患者を15~20分冷やす。

バスタブがないときは、体にホースで水をかけたり、ペットボトルの水をかけたりして冷やす。もしくは、冷たい水がある近くの池や川へ患者を運ぶ。

患者に水かスポーツドリンクを飲ませる。患者の意識がもうろうとしていたり、頭が混乱していたり、気が立っていたりするときは難しいかもしれないので、体が冷えるのを待ってから飲ませる必要があるかもしれない。

熱中症を防ぐには?

熱中症のリスクは、いくつかの対策で最小限に抑えられる。まず、辛辣な暑さの中で運動するなら、水分補給で喉の渇きを潤すこと。現在のガイドラインでは、男性で1日2~3リットル、女性で1日1.6~2.2リットルが摂取の目安※。プライヤー博士によると、ほとんどの人はこれで十分。

でも、アスリートとして強度の高い運動をするときは、発汗量に見合うだけの水分を補給するべき。その量を算出するには? まず、裸で体重を測ってから運動をする。終わったら汗を拭き、もう一度、裸で体重を測る。プライヤー博士の話では、その体重の差が汗によって失われる水分の量(途中で何かを食べたり、トイレに行ったりしない限り)。

キロをリットルに換算したら、それが飲むべき水の量。体重が0.5kg減っていたら、次のワークアウトで500ml弱の水を飲んで。

外気温が上がり始めたら、焦らず徐々に体を慣らすのも大事なポイント。フィットな人でも、太陽の下でワークアウトができるようになるまでには時間がかかる。プライヤー博士が言うように、最初の数週間はワークアウトの時間と強度を減らし、徐々に通常の時間と強度に戻せばいい。そうすれば、体が暑さに慣れて、夏のワークアウトを安全に楽しめる。

※欧州食品安全機関 では、女性1日2リットル、男性1日2.5リットル、英国栄養士会では女性1日1.6リットル、男性1日2リットルを推奨しているそう。日本の厚生労働省では性別別のガイドラインはなく提示しておらず、1日2.5リットルの摂取を推奨している。

※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Alisa Hrustic Translation: Ai Igamoto

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