健康に関する悩みは尽きないけれど、そのなかでも特に多いのは「自分にとってベストな運動とは何なのか?」というもの。

気分が乗らない日は、無理をせずに自分をやる気にさせるワークアウトを楽しむのも大切だが、もし最大限の効果を求めるなら「筋トレ(筋力トレーニング)」がベスト。筋トレなら、骨の健康を守りながら、身体組成のバランスも維持し、どんな年齢においても役に立つこと間違いなし。

もちろん、年齢とともに食事の好みが変わるように、トレーニング方法も変化させることが望ましい。たとえば30代では筋肉の増強を中心に、50代ではモビリティ(可動性)を重視したトレーニングをするなど、異なるアプローチが推奨される。

いくつになっても健康でいるために、ここでは筋トレのプロに聞いた、年代別のおすすめ筋トレをお届け。

1)10代後半~20代前半の人には?

おすすめ:ファンクショナルトレーニング

「この年齢層では、体のバイオメカニクスは常に変化しています。腰から膝までの角度が広がり、重心が移動し、身体組成が変動します」と説明するのは、女性の健康を専門とする運動生理学者のステイシー・シムズ氏。

そこでおすすめなのが「ファンクショナルトレーニング」。日常の動作をベースとしたトレーニングにフォーカスすることで、ケガのリスクを減らし、変化し続ける体に逆らうことなく、動かすことができるという。

スクワットを例にあげると、「完璧なフォームでできていると思っていても、体は日々変化するため、動きのパターンを定期的に変えていく必要があります」とシムズ氏。

女性の筋力トレーニングの専門家で、理学療法士のクリスティーナ・プリヴェット氏もこれに同意。フォームを固める前に重量を加えて負荷をかけすぎることで、ケガをしてしまうアスリートをよく見ているという。それが理由で、若いアスリートの半数近くが骨盤底に問題を抱えているという研究結果も出ているそう。「ウエイトリフティングを避ける必要はないですが、重量を増やす前に正しいブレーシング(腹部を横方向に膨らませるトレーニング)の方法や、トレーニングのメカニズムを学ぶことが大切です」

young female student in sports clothes doing bench split squats at college stadium
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シムズ氏は「10〜20回のトレーニングを3セット行い、4セット目でも楽に感じられるようになった」段階から、プログレッシブオーバーロード(漸進性過負荷の原則)にならって重量を徐々に増やすことを推奨。

若者の筋力トレーニングについて書かれた『Strength Training For Young Athletes』に掲載された研究によると、プログレッシブオーバーロードによって、ウエイトを使う筋力や技術を向上させられるという。「まずは低重量で回数を多めに設定する、ローウエイト・ハイレップからスタート。可動域をフルに使い、すべての動作パターンに慣れてきたら、2〜4週間ごとに1〜2kgずつ増やしていきましょう」とシムズ氏は解説する。

主に次の7つの動作パターンを習得することがおすすめ:

  • プッシュ:体からウエイトなどを離す動作
  • プル:体にウエイトなどを引き寄せる動作
  • スクワット:両足を肩幅に開いた体勢で、股関節やひざの曲げ伸ばしを行う動作
  • ランジ:足を前後に開いた体勢で、股関節やひざの曲げ伸ばしを行う動作
  • ツイスト:ひねる動作
  • プレス:頭上にウエイトなどを押し上げる動作
  • ゲイト:ウォーキングやランニングなど

このトレーニングの目標は、関節を動かす「コンパウンド・エクササイズ」、筋肉の収縮伸長をすばやく繰り返す「プライオメトリック・トレーニング」、片側ずつ行う「ユニラテラル・トレーニング」を組み合わせて、全身をしっかりと使えるようになること。

1週間のワークアウト例

シムズ氏が提案するのは、上半身と下半身、腹筋、背中の上部・下部といった主要な筋肉を、1日30分・週3日鍛えるトレーニングプラン。なお、トレーニングは連日行わないことを推奨。

  • 上半身のファンクショナルトレーニングを30分/週1回
  • 下半身のファンクショナルトレーニングを30分/週1回
  • 腹筋や背中のファンクショナルトレーニングを30分/週1回

ただし、学術誌『Pediatric Exercise Science』に掲載された研究によると、この年齢層は神経筋が変化するため、休養をはさむとせっかくの効果が損なわれる可能性もあるので、注意が必要。

2)20代後半から30代半ばの人には?

おすすめ:ハイパートロフィー&パワートレーニング

筋肉量と筋力は、30〜35歳でピークを迎えるいっぽうで、30歳を過ぎると、筋肉量は10年ごとに3〜8%減少してしまう。だからこそ、筋肉を肥大化させる「ハイパートロフィー」というトレーニングが大切になってくる。

ハイパートロフィーとは、中〜高程度の負荷で、10〜12回のトレーニングを3〜4セット行い、筋肉の収縮に必要な収縮性タンパク質の数を増やし、筋肉をより大きく、より強くするトレーニングのこと。

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さらにこの年齢層になると、筋肉量だけでなく、短時間でスピードとエネルギーを生み出すパワーも、10年ごとに7〜14%低下していくと推測されている。だからこそ「パワートレーニング」も重要。

「パワートレーニングは、筋力トレーニングにスピードを加えたもので、1セット2〜4回を繰り返すものになります」とシムズ氏。このトレーニングは、脳から筋肉にできるだけ早く信号を送る力を鍛え、筋神経系を強化し、刺激に対して効率的に体が反応できるようにする。

スポーツ・健康科学分野の学術誌『Sports Medicine』に掲載された研究によると、身体組成や骨密度、パワーを向上させ、ケガのリスクも減らしたいのであれば、前述のプログレッシブオーバーロードに、ハイパートロフィーとパワートレーニングを加える方法が良いという。

もちろん、開始してすぐに結果を期待するのはNG。まずは4週間、ハイパートロフィーで筋肉を鍛えてから、2週間のパワートレーニングを加えるように、とシムズ氏は助言する。

その後は、トレーニングを軽くする「ディロード」の週を設けること。回復させる時間を与えることで、筋肉がより強く成長することを促し、ある研究では骨密度も向上させると報告されている。

妊娠を計画している場合についても、プリヴェット氏は「妊娠中の人へのアドバイスは、相反することもありますが、この重量をあげていくトレーニングは安全かつ有益だといえます」と補足する。とはいえ、これまでウエイトリフティングなどをしたことがない人は、妊娠中にいきなり試すのはベストではないという。

いずれにしても、体の声に耳を傾け、不安なことがあればかかりつけ医に確認することが大切。

1週間のワークアウト例

  • ハイパートロフィーを60分/週2回
  • パワートレーニングを30〜45分/週2回

「いずれのトレーニングも筋神経系に負担をかけるので、連続して行わず、1日以上空けて週4回までの実施としましょう」とシムズ氏。「パワートレーニングの力を最大限に発揮させるため、1セット2〜4回、または6〜10秒で行うことを推奨します」

3)30代後半から40代の人には?

おすすめ:ヘビーリフティング&パワートレーニング

この年齢層からは、更年期の症状が出始める人もいる。閉経前の数年間は生殖ホルモンが変動し、不安な気持ちになったり、頭の中にモヤがかかったような状態になるブレインフォグを経験するなど、さまざまな症状が現れる場合も。

そんなときこそ、ハイパートロフィーからヘビーリフティングとパワートレーニングに移行し、適切なトレーニングを行うことが、効果的なアプローチになるかもしれない。

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「(年齢を重ねることで)筋肉の修復に大きな役割を果たすエストロゲンが減少すると、筋肉の強度が低下してしまいます」とシムズ氏。

「回数は少なめにし、6〜8回のトレーニングを3〜5セット行うことを目安にしましょう。回数を減らすことで、重量を上げることができるので、中枢神経系(CNS)により多くの刺激を与えられます」と説明し、「私たちは通常、エストロゲンに頼って筋繊維を増やし、筋力をつけています。中枢神経系に、体のたるみを補完することを教えこむのです」と続けた。

脳と脊髄で構成される中枢神経系は、インパルス(電気信号)を介して筋肉を活性化させる。中枢神経系を鍛えることはパワートレーニングの基本であり、シムズ氏がヘビーリフティングを推奨するのも同じ理由からだ。

ヘビーリフティングは身体組成の管理にも役立つ。学術誌『Journal Of Exercise Rehabilitation』に掲載された研究によると、40歳以上の閉経前の女性が、筋力に抵抗をかける動作を繰り返し行う「レジスタンス運動」を12週間行ったところ、体脂肪が平均3%減少し、筋肉量は2%増加したという。

研究では、参加者の肪細胞から分泌される善玉ホルモン「アディポネクチン」と、放出量が増えることで脂肪を増やす働きをする「レプチン」という2つのホルモンの推移を調査。その結果、定期的な筋トレは、エネルギーの代謝を高めるアディポネクチンを増加させ、食欲の抑制を促すレプチンを減らす効果があることがわかった。

woman training with medicine ball
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また、前述のエストロゲンは、骨密度にも関わっている。「エストロゲンは、骨の生成に必要な骨芽細胞の活性を促し、骨のミネラルを形成します」とシムズ氏は解説。いくつかの研究によると、ウエイトリフティングは骨を形成する細胞を強制的に働かせるため、骨量の減少を遅らせることができることが示されている。

いっぽうで、パワートレーニングはより顕著に刺激を与えられるため、ヘビーリフティングのみよりも更年期の女性の骨密度を改善すると考えられているそう。

1週間のワークアウト例

  • ウエイトリフティング&パワートレーニングを45〜60分/週4回まで

シムズ博士は、45〜60分のトレーニングを週に4回以内、筋肉と神経系の回復期間を設けながらトレーニングするのを推奨。なお、必ず各ワークアウトの動きに最適なウォームアップとクールダウンを行うことを忘れずに。

4)50代の人には?

おすすめ:ヘビーリフティング&モビリティ

10代後半~20代前半の人たちが、変化する体に合わせて動き方を学び直す必要があるのと同様に、更年期を迎える人たちにも同じことが言える。

身体組成の変化だけでなく、エストロゲンのレベルが低下すると痛みを伴う炎症につながるため、関節の動きが鈍くなったように感じられるかもしれない。また、骨のクッションとなり、関節内の摩擦を軽減する関節液の量も減少するため、軟骨のすり減りも進行する。

以前と比較すると、思うように体が動かない可能性も。しかし、シムズ氏は「(この年齢層においても)ヘビーリフティングに重点を置くことに変わりはありません」と説明。更年期および閉経後の女性の症状緩和に、筋トレが有効だという研究結果も出ているとのこと。

なお、段階を踏んでいくことがカギ。振り出しに戻す必要はないが、負荷をかけすぎる前に、各トレーニングに対して自分の体がどう感じるか、確認することが大切。重量を加える前に、自重で1セット行うのもおすすめ。

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さらに、モビリティストレッチの実施が不可欠。シムズ氏は、モビリティ、つまり可動領域を拡大させる動きを少なくとも週に2回、20分間行うことを推奨している。もちろん、ワークアウトに特化したウォームアップ&クールダウンも必須。面倒に感じるかもしれないけれど、この工程をスキップするのは禁物だ。

「40代後半から50代前半の女性が、ワークアウト前や重量を上げる前にウォームアップを行うことが重要なのは、ホルモンの変化により軟部組織や関節を痛めやすいためです」とシムズ氏。

これは筋肉だけでなく、将来の健康のためにも大切。「レジスタンス運動は、認知症やアルツハイマーのリスクを軽減させる、脳の神経成長因子の生成を促進させます」

2020年にシドニー大学が発表した研究によると、筋トレは脳の学習と記憶をつかさどる海馬の小領域を、変性や縮小から守る可能性があるとのこと。なおこの研究では、26週間以上にわたり、参加者は90分のワークアウトを週に3回実施。ワークアウトでは主要な筋肉群を鍛える5〜6種類のトレーニングを8回×3セット行い、それぞれに特化したストレッチも行ったとのこと。

1週間のワークアウト例

  • 下半身のウエイトリフティング&モビリティストレッチを45〜60分/週1回
  • 上半身のウエイトリフティング&モビリティストレッチを45〜60分/週1回
  • 全身のウエイトリフティング&モビリティストレッチを45〜60分/週1回
  • オプション:HIITを15分/週1回

シムズ氏は、時間があればHIIT(High-intensity interval training:高強度インターバルトレーニング)を加えることを推奨。「1回15分のHIITを90%の力で行えば、筋肉量の維持をサポートする成長ホルモンとテストステロンが刺激されます」

5)60代以降の人には?

おすすめ:ハイパートロフィー&パワートレーニング

60歳になっても、ウエイトリフティングはぜひ続けたいもの。研究によると、加齢による筋肉量の減少は70代に入るとさらに加速するそうで、それにより転倒してケガをするリスクが高まる可能性があるとのこと。英国のNHS(国民保健サービス)によると、65歳以上の約3人に1人が少なくとも年に1回転倒しているという。

しかし、筋トレによって防ぐことができる可能性も。年齢を重ねれば重ねるほど、脳から筋肉に指令を送る「神経筋単位」という細胞が、筋トレの刺激に適応しやすくなるそう。その結果、全力を必要としない程度に負荷がかかる重さに、長時間耐えられるようになるとのこと。

woman in plank position on exercise mat
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このような理由から、10〜12回を1セットとするハイパートロフィーが、この年齢層に最も適したスタイル。「それなりにトレーニングをしていれば、50代でかなりの筋力がついているはずです。したがって、今度は脂肪以外の部分の体重(除脂肪体重)を増やす番です」とシムズ氏。

なお、50歳以上の人になると増え始める、中〜重度の骨粗しょう症の女性であっても、1回あたり85%以上の力で重量を持ち上げることができる研究結果もあるとプリヴェット氏は補足する。

また、これまでと同様にパワートレーニングも加えることで、60歳以上の人に重要な骨密度も増やしていきたいところ。ある研究によると、78歳の女性グループにおいて、筋トレは自身の体が空間のどこに位置しているかを認識する感覚(プロプリオセプション)を向上させ、転倒リスクを減少させたと、シムズ氏は解説。

1週間のワークアウト例

  • ハイパートロフィー&パワーセッションを30分/週3〜4回

トレーニングは、連続しないように週3~4回、各セッションは30分以内を目安に実施すること。シムズ氏はこう補足する。「2〜3種類のワークアウトを10〜12回×3セット行い、必要に応じて休息を取ること忘れないようにしましょう」

※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。

From Women's Health UK

Lettermark
Bridie Wilkins

Bridie is Fitness Editor at Women's Health UK. She spends her days sweating over new workouts, fitness launches and the best home gym kit so you have all that you need to get fit done. Her work has been published in Stylist, Glamour, Cosmopolitan and more. She’s also a part-time yoga teacher with a habit of nodding off mid savasana (not when she’s teaching, promise).

Headshot of Ai Ono

 高校生時代にアメリカンカルチャーの影響を受け、大学在学時にアメリカ・シアトルにてホームステイを経験。海外ドラマに関するWEBメディアでライターを務める。海外エンタメ・セレブ、ロイヤルファミリー、ヘルス・ウェルネス記事をメインに、翻訳を担当。手話技能検定3級、世界遺産検定2級、アロマテラピー検定1級を持つ。