皮脂のバランスをとることは、終わらない課題のようなもの。頭皮が脂っぽくなりやすい人は、毎日シャンプーしないでいいようも、ヘアケアに試行錯誤を重ねたり。頭皮がカサつきやすい人は、保湿シャンプーに投資するもの、余計に乾燥がひどくなってしまったり……。

あなたの髪の毛の状態がどうであれ、この解決策を見つける鍵は「頭皮の皮脂」または「母なる自然のコンディショナー」にあると話すのは、ヘアケア製品ブランド「フィリップ・ビー・ボタニカルズ」の創設者で頭皮の専門家、フィリップ B。

そもそも皮脂の役割ってなんだろう? なにが皮脂分泌に影響を及ぼしている?  皮脂のバランスを正常に取り戻す方法は? そこで今回は、頭皮の専門家たちが頭皮の皮脂について知っておくべきことをすべて解説してくれた。フィリップ Bいわく、「皮脂は多すぎても少なすぎてもよくない」そう。アメリカ版ウィメンズへルスからみていこう。

頭皮の皮脂とは?

皮膚科医のリンジー・ズブリツキー医学博士によると、「「頭皮の皮脂は、毛包を取り囲む結合組織鞘の中にある皮脂腺によって産生される自然な油分」で、髪に保湿、保護、栄養を与えることが皮脂のシンプルな役割。一見分かりにくいが、頭皮を掻くと髪の分け目にフケのようなものが出たり、爪の間に白くて脂っぽい物質が付くことがある。これは、高濃度な頭皮の皮脂に加え、ヘアケア製品の残留物や汗、古い角質が混在したものだという。

では、皮脂はなにからできているの? 『The Journal of Dermoendocronology』誌に掲載された研究によると、人間の皮脂は57%がトリグリセリドと脂肪酸、26%がワックスエステル、12%がスクアレン、そして4.5%がコレステロールで構成されている。髪がベタついたりパサついたりするのは、これらの脂質の過不足が原因かもしれない。

皮脂は、髪の毛に備わっている天然の保湿剤でもあるけれど、フィリップ Bいわく、皮脂のほとんどが髪の毛の根本付近に付着しており、髪の毛の中間から下はほぼない状態。つまり、毛先に枝毛ができやすい理由はまさしくこれ。「髪の毛の長さが長いほど、頭皮で産生される皮脂が毛先に行き届きにくくなります」とフィリップ B。

頭皮に皮脂が溜まる原因とは?

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SEBASTIAN KAULITZKI/SCIENCE PHOTO LIBRARY//Getty Images

頭皮の皮脂分泌に影響を与えるのは、ホルモンバランスの乱れや食生活、年齢、髪の衛生状態など、いくつかの要因がある。頭皮の皮脂の分泌量が増えた場合(別名:脂漏症)に考えられる原因は以下の通り。

ホルモンバランスの乱れ

ヘアケアブランド「Ouai(ウェイ)」で教育ディレクターを務めるディアナ・プラタシェヴィッツによると、副腎と卵巣から分泌される性ホルモンのアンドロゲンは、陰毛や脇毛の成長や性欲、骨密度の維持や全体的なウェルビーイング、第二次性徴の発達において大きな役割を担っている。これが、皮脂の分泌にも影響を与えているんだそう。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)やホルモン療法、副腎疾患、思春期などが原因でアンドロゲンが急増すると、皮脂の分泌量も急増する。これに加え、ストレスはホルモン反応を引き起こすため、ストレスを抱えると皮脂の産生はさらに増加する。「このため、多くのストレスを抱える時期にオイリー肌を経験する人は少なくありません」とプラタシェヴィッツ 。結論を言うと、ホルモンとストレスは密接に結びついており、頭皮の皮脂の分泌量に影響を及ぼす。

清潔にしていない

多くの人は「頻繁な洗髪は頭皮を乾燥させ、髪の毛の自然な油分が奪われる」という迷信を信じている一方で、ズブリツキー医学博士はこれを否定し、髪を洗う頻度が少なければ皮脂が頭皮に溜まりやすくなると主張している。「洗髪をサボることで皮脂が頭皮に蓄積し、これが自然な髪の成長プロセスを遅らせます」とズブリツキー医学博士。

一方で、プラタシェヴィッツいわく、刺激が強すぎる製品を使ったり髪を洗いすぎたりすると、頭皮の自然な油分が奪われてしまうとか。これを補うために、皮膚はもっと皮脂を産生するようになるといった反跳作用が生じることに。

フィリップ Bいわく、皮脂の増加は命にかかわる問題ではないけれど、髪の毛がくすんだり、ツヤがなくなるなどの変化が現れる。問題なのは、皮脂が髪の毛の毛穴を詰まらせてしまうこと。「これが時間とともに炎症を引き起こし、髪の毛の成長を妨げるのです」とフィリップ B。

環境要因

プラタシェヴィッツいわく、中でも私たちがもっとも避けられない湿気と温暖な気候は、皮脂腺を刺激し、皮脂分泌を増やす要因に。なぜなら、温かい気温は毛穴を広げるため、これが油分の過剰な産生を引き起こすからだとフィリップ Bは付け加えた。

気候だけでなく、食生活も関係している。「なにを食べるか、これこそ皮脂の分泌量に大きく影響しています」とフィリップ B。ある研究では、特定の食品(乳製品、砂糖、精製された炭水化物、揚げものなど)と皮脂の過剰分泌の関連性が示唆されている。完全に明らかではないが、これに対してはプラタシエヴィッツも同意見。

皮脂の分泌量が減る原因とは?

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bymuratdeniz//Getty Images

皮脂の分泌が少ない場合に考えられる原因は以下の通り。

避妊薬

フィリップ Bいわく、特定の避妊薬は体内で産生される皮脂の量を減少させる。『International Journal of Women's Health』誌に発表された2010年の研究によると、通常避妊ピルは、皮脂を産生するアンドロゲンに属するホルモンに対抗するエストロゲンを含んでおり、これが皮脂の産生を抑制するとのこと。

年齢

「人は加齢とともに、皮脂の分泌量が減少していくのは自然なことです」とフィリップ B。なぜなら、時間とともに皮脂腺や毛包が収縮するため、頭皮が急速に老化してしまうとか。だからこそ、若いうちから頭皮のニーズに対処する習慣を身に付けておくことが大切なんだそう。

頭皮の皮脂の過剰分泌にはどう対処するといいの?

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Tetra Images//Getty Images

髪を洗う習慣を変えよう!

「皮脂が多く、髪の毛がべたつきやすい場合は、自分の髪質に合った製品を使用し、今までのヘアケアの仕方を変える必要があります」と話すのは、統合美容医のラヒ・サルバジャ医学博士。

でも、なにから変えるといいの? 「シャンプーをする前に、天然の猪毛ヘアブラシで髪と頭皮を1〜2分ほどブラッシングするようにしてください」とフィリップ B。「ナイロン製の毛とは異なり、イノシシの毛には吸収性があるため、頭皮や毛根から余分なものを取り除き、皮脂が必要な毛先へ皮脂を分散させることができます。つまり、ブラッシングをする目的は、頭皮が呼吸できるようにしながら、髪の毛の中間や先端部分に栄養を送ることです」

シャンプーは、1〜3日おきに定期的に行うのが理想的。「指の腹を使って円を描くように、頭皮をやさしくマッサージしましょう。皮脂が泡に吸着しやすくなります」とフィリップ B。

シャンプーは、ベタつく頭皮のバランスを整えてくれるものを選ぼう。オススメは、サリチル酸やリンゴ酢、ローズマリー油、ラベンダー油、ペパーミントなどの成分が使われたシャンプー。サルバジーハ医学博士いわく、これらの成分は皮脂の蓄積を除去したり洗浄するのに優れている。

コンディショナーは賢く使う

フィリップ Bいわく、コンディショナーは濡れた髪にのみ使用すること。「シャンプーとコンディショナーの間で髪の毛の水分を拭き取らないように。髪が濡れた状態で使用することでコンディショナーが乳白色に変わり、髪が重たく感じることなく、微細で非常に薄いコーティングを残すことができます」とフィリップ B。

それから、コンディショナーは毛先だけに付けるように。「頭皮に直接付けるとベタつきやすくなります」とプラタシエヴィッツ。

避妊ピルを試してみる

前述の通り、避妊薬は頭皮の乾燥の原因にもなるけれど、皮脂の産生を遅らせることで皮脂の過剰分泌を抑えるのに役立つ可能性がある。頭皮のベタつきに悩んでいる人は、避妊薬の選択について医師に相談してみるといいかも。フィリップ Bいわく、アンドロゲンを抑えるうえで効果的なのは、エストロゲンとプロゲステロンを組み合わせた混合型の避妊薬。

食事のバランスを整える

プラタシェヴィッツいわく、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質を豊富に含むバランスのとれた食事をとることが大切。皮脂の分泌量を抑えたい場合はとくに、オメガ3脂肪酸を食事に取り入れるのが有効だとか。「オメガ3脂肪酸は、魚や亜麻仁、クルミなどの食材に含まれています」とプラタシェヴィッツ。

『The Journal of Dermoendocronology』誌に掲載された2009年の研究では、魚や魚介類が豊富な食事からオメガ3脂肪酸を多く摂取すると、頭皮の皮脂分泌の増加に関連する炎症を減らすことにつながることがわかった。

皮脂の分泌を増やすには?

close up of a woman's hand filling a glass of filtered water right from the tap in the kitchen sink at home
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潤いを取り戻そう!

フィリップ Bによると、皮脂が少なすぎる(つまり、頭皮が乾燥している)人は、頭皮を労る髪にやさしいボタニカルシャンプーを使用することでメリットが得られる。オススメは、フィリップ B自身が手がけるジェントルコンディショニングシャンプー。トリグリセリドが豊富なアフリカ産シアバターを使用しており、保湿効果が高く頭皮にやさしいシャンプーなんだそう。

また、水分補給も忘れないこと。「十分に水を飲むことは、頭皮を含め、肌全体の健康維持に役立ちます」とプラタシェヴィッツ。

頭皮をやさしく扱う

「頭皮をやさしく扱うことがなによりも重要です。頭皮が極端にカサカサしたりフケが出ている場合はとくにです」とズブリツキー医学博士。頭皮をマッサージするときは、とにかく優しく頭皮に触れること。「正しく行えば、血行がよくなり、毛包の周りに皮脂が溜まるのを防ぐことができます」とプラタシェヴィッツ。

また、アルコールや酸、合成香料などの髪を傷つける成分は、皮膚の炎症を引き起こす可能性があるため使用を避けることが必須に。代わりに、敏感肌の人向けに作られた成分やティーツリーなどエッセンシャルオイルが使われた製品を選ぶようにしよう。

シャワーはぬるま湯で

頭皮の乾燥に悩んでいる人は、ぬるま湯で髪を洗うように。「熱は皮脂腺を開かせるので、皮脂分泌をさらに促すことになります」とフィリップ B。どうしても熱いシャワーがいい人は、髪を洗わない日にシャワーキャップを被ってシャワーを浴びるようにしてみて。

医師の診察を受ける必要がある場合とは?

生活習慣を改善し、市販のシャンプーやトリートメント治療を試しても皮脂の問題が解決しなければ、認定皮膚科医の診察を受けるようにズブリツキー医学博士は勧めている。「ただ頭皮が乾燥しているのではなく、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、頭皮乾癬などの身体疾患による症状の可能性もあります」。これらの疾患には、処方箋治療が必要な場合もある。また、髪の毛が脆くなったり、頭皮の赤みや痛み、かゆみ、抜け毛など、異常な症状に気付いた場合にも、医療機関を受診するように。
 
※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: LILY WOHLNER Translation : Yukie Kawabata

Headshot of 川畑 幸絵
川畑 幸絵
翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。