毎年6月2日は世界摂食障害デー。オーストラリア版ウィメンズヘルスは、命取りにもなりかねないこの心の病と、摂食障害に悩む身近な人々を助ける方法に関する理解を深めるべく、シドニーのウェスリー病院付属摂食障害センターのディレクター、フィリッパ・ヘイ博士に話を聞いた。
1.摂食障害患者の死亡率は約2倍
ヘイ博士によると、「摂食障害は主に食べ物や体重に体形、そして食事に執着し、飢餓などの極端な行動で個人を追いやる精神的な疾患。自分を追い詰めることで身体的な問題が起きて、心臓や循環器系を危険にさらすこともある」
「同時に、摂食障害を患う人は非常に心を悩ませており、社会的に不名誉であるという認識が強すぎて、助けを求められないことも多い」。これもまた、摂食障害を乗り越える人が少ないとヘイ博士が語る理由の一つ。
2.オーストラリアの人口の10パーセントが摂食障害?
ヘイ博士は「摂食障害は非常に一般的で、オーストラリア人口の約10パーセントに影響を与える病だ」と話す。
「オーストラリア人の10人に1人は生涯に一度は摂食障害を経験し、その確率は女性をはじめとする特定のグループで一段と高くなる傾向にあります」
しかし摂食障害は全ての性別、年齢層、社会経済的集団に属する人々に悪影響を及ぼす可能性があるのだそう。
「摂食障害は、あらゆる職業および社会的地位の人々に起こり得る病気。摂食障害は地域や社会の全領域に広まっている。自分ではないかもしれないが、摂食障害を患ったことのある身近な人が誰にでもいるはずです」
3.食べ過ぎは過食とは違う
ヘイ博士によると、「過食の決定的な特徴は食べるのを止められず、結果的にコントロール不能な状態に陥ること」
「これは、好ましくない思考を反射的に避けようとする心理学的な食べ方です。非常にストレスがかかり、まったく楽しくない行為。ラマダン明けやクリスマスに人々が食べすぎたり、自分を甘やかしたりするのとは全然違います」
4.食べ物に対する不安、特定の匂い、光景、味に対する過敏さが原因で食べられないのも摂食障害
ボディーイメージに対する不安が原因の一般的な摂食障害とは異なるのが、回避性・制限性食物摂取症。特定の食べ物を消化するのが難しい、特定の色や食感を避ける、食べ物を喉に詰まらせたり吐いたりといった恐ろしい経験をしてからは食べるのが怖い、といった問題に起因することが多い。この障害を抱えるオーストラリア人は、現在820,000人いるといわれる。
「回避性・制限性食物摂取症の患者は、拒食症や過食症の患者がよく悩んでいる体重や体形、ボディーイメージに対しては、それほど執着していない。でも食事を厳しく制限する、特定の食べ物を避ける、食事に関する重度の不安や苦悩を抱えるなど、食べ物や食事のことになると拒食症や過食症に類似した極端な行動を取る」
5.摂食障害のサインを見つけるためには……
「最も一般的な特徴は、今までとは違う方法で食べ始めること」。食べることや、食べ物が出される社交的な場を避けるのは、その人が苦しんでいるサインかもしれない。食事を抜く、家族と一緒に食べるのを避ける、体重が急激に変動するといったより分かりやすいサインも、何かがおかしいことを示している可能性がある。
心身の苦悩や不快感、不安、気分の落ち込み、執着心も摂食障害が個人の思考と感情を乗っ取り、その人の人生における主要な問題になりつつあることを示すサイン。
6.治療=入院とは限らない
ヘイ博士いわく、「通常の初期治療は、摂食障害の分野でトレーニングを受けた専門家による心理療法」。同時に管理栄養士による食事療法、医師による体のケア、そして週1~2回セラピストによる治療を受けることもある。
病院などの施設で行われる入院療法では、栄養や食習慣に関する充実したサポートと集中的な治療が受けられる。ヘイ博士によると、「6カ月以上になることもある治療期間のうち、4~8週間を病院で過ごす人もいる」
7.摂食障害の人を助けるには話を聞くだけでいいことも
「耳を傾けること以上に大事なことはないと思う」 とヘイ博士。「“悩みも話せば楽になる” という古いことわざがあるように、彼らには悩みを打ち明けられる人、心から信頼できる人、話を聞いてくれる人が必要。話してごらんと促し、ただそこで耳を傾けてくれる人がね。摂食障害を抱える人にとっては、信頼できる相談相手と話すことが大切」
食事の時間を共にすることでも、摂食障害と闘う人を支えられる。
「人間の生活の大部分は食事が中心なので、彼らが食べているときは傍にいて、『社交的な場に出ておいで、家族と一緒に食べてごらん』と励ましてあげるべき」
批判したり、軽蔑したりせずに彼らを励ますことも同じくらい重要。
「また、協力的であることも大切です。彼らが食べていないことに気付いたとき、あるいは食事中に姿を消して吐きに行ったのではと思えるときは、彼らが動揺した様子で戻ってきた段階で手を差し伸べ、やさしくいたわって話を聞いてあげればいい」
「友達が摂食障害かもしれないと心配しているなら、ネット上のサポートグループに相談してみても。その友達にアプローチする前に知っておくべき具体的な情報を提供してくれる」と、ヘイ博士。
摂食障害に悩んでいる人は羞恥心と罪悪感でいっぱいかもしれないので、ヘイ博士は率直にアプローチすることを勧めている。
「摂食障害を打ち明ける際には大きな恥辱感、不安感、恐怖感が伴うこともある。いざ打ち明けると、相手からネガティブなリアクションを受けることもあるので、確実に支えになってあげてほしい。一緒に病院へ行き、呼ばれるまで一緒に待って、その人が診察室から出てきたら、事前に得た情報に沿ってサポートする。これが、誰かを助けるためにできる、唯一にして最も有益なことだと思う。相手を受け入れるのと同様にね」
さまざまな医療システムや異なるセラピストを長期間渡り歩くことになる場合もあるので、この点でもその友達を励ましてあげられるといいそう。
「摂食障害には治療法があるので、手を貸してくれる専門家を探すよう勧めるのは妥当なアクション」
8.国際摂食障害デー
ヘイ博士によると、人々に手を差し伸べたければ、国際摂食障害デーがいいチャンス。
「あなたの知っている人が摂食障害で苦しんでいるのなら、その人にコンタクトして、“調子はどう?” と聞いてみる。すでに回復期の人がいるなら、回復したことや長旅を終えたことを祝福してあげましょう」
バランスよく食べ、家族と時間を過ごしたり、健康的な食習慣を促すための一日にしてもいい。
※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。
Text: Frances Magiera Translation: Ai Igamoto Photo:Getty Images