そもそも、有森さんはスポーツについて、「あくまでも心と体が健全であるための手段のひとつ」だと考えているそう。
「心と体を健全にする方法は、音楽やアートでもいいかもしれません。みんながわかりやすい方法のひとつが、体を動かすこと。歩くだけでもいいんです」
運動というとストイックなイメージが強すぎて、それで運動に一歩を踏み出せない人が多い。でも有森さんの考えでは、心と体を健やかにするために、朝起きて寝るまでの生活の中でエスカレーターの代わりに階段を使ったり、時には全身鏡で自分の姿をチェックしたりといった習慣だけでもいいと考えている。
「運動するか、しないか、の二択にしないほうがいいと思うんです。メンタルも含めて健康でいるためにできる、毎日のささやかな習慣なら、どんな人でも取り入れられますよね」
スポーツすることを目的にするのではなく、健やかであるための方法として、スポーツをしてみてもいい。有森さんの考えるスポーツは、とてもハードルが低い。
「例えば最近増えている大規模都市マラソンは、それまでのマラソン大会がエリートランナーのためだったのに対して、抽選だからと走ったことがない人も興味本位でエントリーしてしまう、間口の広さが魅力だと思います。走る目的は、美味しいものを食べたいとか、自分自身のチャレンジとか、なんでもいいんです」
「スポーツをしなきゃと気負わずに、もっと気軽な気持ちでいつもよりちょっと多く歩いたり、身体を動かすことを意識すればいいと思います。何よりも大切なのは、継続すること」
「これまでのスポーツは、専門性を見せすぎてきたと思うんです。関わりがない人は入って行きにくい世界だった。東京マラソンのように、アスリートじゃない人でも楽しめる機会を通じて、“これなら自分でもできそう”という幅を見せられたらいいのかなと思います。そういうハードルの低さがないと、いきなりスポーツには入っていけないと思うんです。ジムに行かなくても駅の階段でいいんですよ、と。そういう気づきを生むことで、より多くの人に健やかな心と身体を手に入れてほしいと思いますね」
各地のマラソン大会で市民ランナーたちに声援を送り、国際スポーツ戦略会議などの場ではスポーツを通じた国際社会への貢献や協力について考えながらも、有森さんが届けようとしているメッセージは、とてもシンプル。彼女の発信は、心身の健康を手に入れる人を増やしていくに違いない。