「ランニング瞑想」の効果とハウツーとは?
澄み切った心で走る9つのポイント。
「秋にしては暖かい日の朝、私は米フィラデルフィアのケリードライブを駆け下りていた。紫色のスニーカーが地面を柔らかく蹴る。若い男の子が赤いキャップを斜めに被り、スケボーをしている。乾いた木々や、道路脇の芝生を歩く丸々と太ったアヒルの群れ、見晴らしの良い岩の上でキスするカップルを横目に走っていると、小型の競技用のボートがスクールキル川の中心にさざ波を残して離れていった」とライター。瞑想しながら走るとは、こういうこと。今回はランニング瞑想についてご紹介。
瞑想は、雑念(頭の中を駆け巡るTo-Doリスト)を振り払い、不安を減らす目的で注意を一点に傾けること。集中することを学べば、普段から気が散りにくくなる。
瞑想には鎮静作用だけでなく、健康状態を大幅に改善する力もある。これまでの研究により、瞑想はストレスや気分の落ち込み、不安を減らし、疼痛を和らげて、脳の一部の領域を強くすることが分かっている。瞑想とマインドフルネスを身に付ける方法は数多くあるけれど、1日5分の練習で絶大な効果が得られる。
「キャンドルをともして、お香をたいて、座禅を組む必要があるというのは迷信です」と話すのは、瞑想プログラム『Break The Norms』クリエイターのチャンドレシュ・バハードワージ。「何らかのアクティビティに深く没頭しているときは、誰でも瞑想状態に入ります」
サウジアラビア初の女性オリンピックランナー、サラ・アターにとっては、ごくありきたりなランニングが自然のリズムに乗った瞑想になる。
「ランニングを内省、自己探究、マインドフルネスの時間にすることで、周囲の世界とつながるようにしています」
ランニングは日常の課題に取り組み、マイナス思考から脱し、自分の中にある不安や恐れに打ち勝つための手段であり、それが慰めになるという人は多い。これには科学的な裏付けもある。スポーツ医科学専門誌『Medicine and Science in Sports and Exercise』掲載の論文によると、ランニングマシンを30分使うだけで人の気分は改善する。そして、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』、ジェン・A・ミラーの『Running: A Love Story』、ケイレブ・ダニロフの『Running Ransom Road』など、ランニングを自己成長のバロメーターとして用いる回想録はあとを絶たない。
いずれにせよ、ランニングがただのランニングであることはまれ。いや、もしかするとランニングはただのランニングで、その単純さゆえに、ありとあらゆるストレス要因が消えていくのかもしれない。これがメンタルヘルスの観点で見た“ランニング瞑想”の神髄。
ランニングと瞑想を組み合わせると、あなたの走りだけでなく心まで強くなる。精神医学専門誌『Translational Psychiatry』掲載の2016年の研究結果は、ガイド付き瞑想をしながらのランニングまたはウォーキングで、うつ病患者の症状が40%も軽減したことを示している。
ここでのポイントは、瞑想とマインドフルネスの練習が集中力の強化に役立ち、本質的にランニングが集中力を一点(目の前の道、残りの距離、水を飲むか飲まないか、水面を渡る風の冷たさなど)に集めるスポーツであるということ。
でも、ヨガインストラクターでアーユルヴェーダ医学に詳しいサラジーン・ラドマンによると、瞑想の練習には正しい方法も間違った方法もない。
「どの道を進んでも、“私はいま、ここにいる”という同じ結果にたどり着きます」という。
マラソンを走り切るには、フィジカル面の強さと同じだけメンタル面の強さが必要。ギブアップしたりクラッシュしたりするのは、体より心が先。「心を落ち着かせることができれば、体は前に進みます。自分の真の能力を目にすることができますよ」とラドマン。
ヘッドフォンを外して、何にも邪魔されずに走る集中力を養いたいなら、9のポイントを意識して。
1.走る前に3~5分、静かに座る
「走る前に息を深く吸い、数秒間止めてから吐きましょう。これを5分ほど続ければ、かなりリラックスした状態で走りだせます」とバハードワージ。5分もじっとしていられないという人は、できるところ(1分でもいい)から始め、徐々に時間を延ばしていこう。
2.目的を明確にする
「何日も頭から離れない疑問であれ、ストレスの原因になっている問題であれ、このランニングで、それを解決するのだと自分の心に念じてください。どんな解決策になるのかを考える必要はありません。走れば解決策が浮かぶと信じるだけでいいのです」とバハードワージ。
3.マントラを選ぶ
「マントラを唱えながら走るのは、初心者にも簡単です」とラドマン。「レースには特に効果的なツールです」
大事なのは自分にとって意味のあるフレーズを選ぶこと。サンスクリット語の「サタナマ」は、「私は真実」を意味する言葉。英語で「アイ・アム・ストロング(私は強い)」と言ってもいい。どのフレーズを選ぶにせよ、マントラの目的は注意力の散漫を防ぎ、いま、この瞬間に居続けること。「自分の足音に合わせてマントラを唱えましょう。一歩につき、ひと言です」
4.足音を数える
ラドマンは「最初のうちは足音を数えてみましょう。1から8歩まで数えたら、今度は8から1歩まで数を減らしていきます。雑念が入り込んだら、それを認識した上で歩数のカウントに戻りましょう。数字に集中していれば、帰ったら何を食べようとか、パートナーや子供に何を言ったとか、仕事や学校で何がいるとか考えずに走れます。いま、その瞬間に戻り続けてくださいね」という。
5.見た物を全部メンタルリストに書き出す
「視覚や聴覚を使ったり、五感を交互に使ったりして、周囲を鋭く観察しましょう。走りながら、目に入るものや聞こえるものを頭の中でリストにすれば、ヨギが“モンキーマインド”と呼ぶ雑念による脳の疲労を防ぎ、いま起きていることに集中できます。樹木、一時停止の標識、木の葉、歩道、ガムの包み紙が目に入るかもしれませんし、車の音、風の音、赤ちゃんが泣き叫ぶ声、クラクションの音、自分の足音、呼吸音が聞こえるかもしれません。味覚、触覚、嗅覚を含む五感を2つ以上組み合わせるのもいいですよ。『犬が吠えている。肌が冷たい。パンの匂いがする。遠くから音楽が聴こえる。鼓動が速くなっている…』といった感じですね」とラドマン。
6.呼吸と姿勢に意識を向ける
「ランニング中は自分の呼吸と姿勢も意識しましょう」と話すのは、ヨガインストラクターのジュリー・フィリップス=ターナー。「無理のないペースで走り始めたら、吸う回数と吐く回数をカウントしながら『吸って、吸って、吸って、吐いて、吐いて、吐いて』といった感じで徐々に呼吸を整えます。雑念が入ってきたら、それを認識した上で呼吸のカウントに戻りましょう。肩が丸まってはいけません。肩を後ろに引いて胸を開き、できるだけ多くの酸素を体内に取り込みましょう」
7.「やり方が間違っている」と思わない
「通常の瞑想でもランニング瞑想でも、頭が空っぽにならなくて焦る人は多いです。でも、目標は頭を空っぽにすることではなく、その思考が『いま、そこにある』ことを認識して観察すること。頭に何か浮かんでも、覚えておくだけで十分。ページの隅を折る感覚で後回しにしてください。思考を追いかけるとウサギの巣穴に迷い込んでしまいますが、思考を勝手に浮かせておけば、瞑想していることになります」とラドマン。
8.脚以外のことも考える
脚のことは忘れて、腕、おでこ、眼球のことを考えよう。「ランニング中は全身で風を感じてください。脚だけに集中していてはもったいない。全ての感覚と筋肉で、母なる自然と交流しましょう。そうすれば自然とのつながりが深くなり、自分の中の治癒力も、走る能力も高くなります」とバハードワージ。
9.ランニングに感謝する
走れない人が多い中で、自分が元気に走れること自体がラッキー。もう二度と走れないと言われたら、どんな気持ちになるだろう?
「ランニング瞑想中は、ランニングのプロセスと感覚にどっぷりと浸りましょう。『今日も走らなきゃ…』というような思考で自分の心を乱すのではなく、『今日も走れる!』という前向きな気持ちを養ってください」とラドマン。
感謝の気持ちを育みたいなら、アターが言うように、周囲の美しさに目を向けて。
「感謝が第二の天性になれば、ランニングを含む何事に対しても、冷静かつ前向きに対処できるようになります。走る機会と能力があるだけでもありがたいと思えるようになれば、あなたの中に、あらゆる物事と深くつながる余裕が生まれるはずですよ」とアドバイスをくれた。
Text: Gina Tomaine Translation: Ai Igamoto
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