サイクリストを対象に行った調査の結果、エネルギー源としてのケトン体は、炭水化物ほど有効ではない可能性があることが明らかになった。タイムトライアル前の栄養補給のために糖質ではなくケトン体に頼れば、必要なエネルギーが不足することになるのかもしれない。

すでに広く知られているとおり、ケトジェニック・ダイエット(ケトダイエット)は、炭水化物の摂取量を減らすと同時に脂肪の摂取を増やし、体内のケトン体(肝臓が脂肪を分解するときに生成する化学物質)を増やす食事療法。摂取した糖質ではなく体内のケトン体をエネルギーとして利用することから、持久系スポーツのアスリートたちから関心を集めてきた。

また、ケトダイエットは同じ理由(活動に必要なエネルギーを得るために脂肪を燃焼させること)から、トップレベルのアスリート以外の人たち(例えば、キム・カーダシアンやアン・ハサウェイなど)にも、もてはやされてきた。

ただ、この食事療法を続けると、口臭に影響が出ることも知られている(ネイルリムーバーと同じ化学物質が含まれ、似たようなにおいがする)。その後は倦怠感やめまい、高脂肪の食事による腸への影響などが現れ始める。

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『バイサイクリング』誌に掲載された記事には、ジャーナル『International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism』に発表されたカナダ・オンタリオ州にあるマクマスター大学の研究チームによる調査結果が紹介されている。

それによると、「ケトンを栄養補充の形で摂取する方が、ケトダイエットの実践より簡単にパフォーマンスを向上させられるのではないか」との仮説をサポートする結果は得られなかったという。

この研究では、週5時間以上サイクリングのトレーニングを行っているアスリート23人を対象に実験を行い、それぞれの酸素消費量、心拍数、持続速度などについて調査した。

また、7日の間隔をあけて、20分間のタイムトライアルを2回実施。その際、参加者を2つのグループにわけ、一方には運動前の補食として調合されたケトンを含むドリンク、もう一方にはプラセボ(偽薬)を含むドリンクを飲んでもらった。

研究チームのメンバーにも、アスリートたちにもグループ分けの状態がわからない「ダブル・ブラインド・テスト」を行ったところ、その結果に示されたのは、ケトンを含むドリンクを摂取した人たちの方が、出力のパワーが2.4%下回っていたことだった。それほど大きな違いではないものの、ケトンの補給とその効果に疑問を投げかけるものといえる。

この結果を発表した論文の筆頭著者、マクマスター大学で運動学を研究するデヴィン・マッカーシー氏は、過去の研究でも、ケトン体の補給が心肺にストレスを与えることを示すマーカーの数値の上昇を報告している。そのほか、ケトン体の補給によって脂肪の酸化が促進することを指摘した別の研究結果もある。

こうした結果は、ケトン体が運動のパフォーマンスを低下させる可能性があることを示唆していると言える。

From Women’s Health UK

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Rebecca Gillam

Bex is a wellbeing writer, brand consultant and qualified yoga and meditation teacher who likes baths, crystals, running with her pup Gustav and making unboring vegan-ish food. 

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翻訳者。学業・仕事のため、5カ国の7都市でおよそ10年を過ごす。帰国後は経済・ビジネス関連の文書やニュース記事の翻訳を中心に、ウェルネス系の専門誌やアート関連の書籍、映像翻訳も手掛けるなど、長年にわたってフリーランスで活動。常に新たな情報に触れる仕事柄、心がけているのは、「浅くても、 何でも広く知ろうとすること」。