硬直したり、緊張したり。文句を言ったり、怒ってみたり。

思い通りにいかない現実に直面した時、みなさんはどんなリアクションを取りますか?

2020年、世界が突如コロナ禍に陥った時。それは、ただ「思い通りにいかない」だけでなく、ウイルスに対する恐れや先の見えない未来に対する不安が溢れることでした。

「目の前にある現実と戦わない」とは、ヨガや瞑想の練習を通して触れるようになった考え方です。しかし、これほどまで急に、大きく生活様式を変えてしまうことに対峙したら、それは多くの人にとって受け入れ難いことであって当たり前です。

最初の頃は「早く以前の生活に戻りたい」とか「マスクを外したい」と思った人がほとんどだったでしょう。しかし、事態が長引けば長引くほど、「以前に戻る」ことはまずできないだろうという認識と共に、じわじわと事の重大さを受け入れるようになったと思います。次第に、「ウィズコロナ」というフレーズも生まれ、私たちは「元に戻ること」ではなく、「思い通りにいかない現実と共に歩むこと」を学び、身につけざるを得ないと受け入れるようになったのではないでしょうか。

それでも、受け入れ方やペースは人によって様々。突然の変化がどうしても受け入れ難くて、精神的にも身体的にも固まってしまった人もいれば、自宅勤務にシフトした生活を楽しみ始める人もいました。行動範囲が変わった中で運動や食事法を変え、さらなるライフスタイルの変化を作り出す人もいました。

人にはそれぞれのタイミングでそれぞれの学びや気づきがあります。それには正解、不正解はないけれど、変えられない現実を前に、自分自身のレスポンスを選んでみよう!  といった意識が少しでも持てる瞬間があったなら。逆説的かもしれませんが、思い通りでなくとも、与られた境遇の中でそれをできる限り楽しんでみることや前向きに捉えるマインドセットに切り替えるという選択は、セルフエンパワメントにつながるものだと思います。

「切り替えの術」は私自身のライフスタイルでも、子育てでもとても大切にしていることです。思い通りばかりの人生を歩む人って、一人もいないと思うのです。ならば、思い通りではない事の中から、自分の見方を変えること。せっかくなら、少しでも自分のためになる方向で考えてみよう! といった発想は、レジリエンス(逆境力)につながることだと感じるようになりました。

逆境の中から新たな展開を生み出したり、以前はなかった力を発揮するようになるには、クリエイティビティが鍵を握っています。いかに素早くそれまでの考え方やものの見方から離れ、以前は考えたこともなかった発想を手に入れ、実行に移せるか。

そんなことを考えていた頃、昨年の年明けぐらいだったのですが、私が大尊敬するアメリカの著者であり、ライフコーチのマーサ・ベックさんが、自身のポッドキャスト「The Gathering Pod」を通して斬新な切り口で「思い通りにいかない現実を前にした時のアプローチ」を紹介していました。

なんとそれは、「即興コメディの4つのルールを使う」というものなのですが、このルールを、目の前の人生に応用すれば、思い通りにいかない時でもなんとか次の展開を拓ける! というものなのです。愉快な中にも、実際に使えるヒントが詰まっているので、今回は私なりに要約し、皆さんとシェアさせていただきたいと思います。

ルール1)まずは YESと言ってみよう

即興コメディが始まろうとするステージに、二人の役者が立っていたとしましょう。一人が空想のストーリーを演じ始め、「わあ! ソファの下にピンクのヒョウがいる!」と叫んだとします。

もしもそこで、もう一方の役者が「そんなことない。ヒョウなんていないよ」と、前者を否定してしまうと、そこでコメディは一挙に潰れてしまいます。即興コメディの第一のルールは「ステージ上に既にあること、起こったこと」にYESと言うこと、から始まるのです。

これを人生に置き換えると、思い通りではないことでも、既に起こったならそれを受け入れ、否定せず、「YESの態度をとってみる」ということを指しています。

私にとってこれは、前述の通り「目の前にある現実と戦わない」といったヨガや瞑想の心得と同じだな、と思うのです。起こったことと戦っても仕方がない。想いにそぐわないことであったとしても、まずはそのままの現実を受容することから始まる。受け入れることができて初めて、その事態について舵を握ることができるのではないでしょうか。

舵を握ったところで、次にどうしたいかを選ぶことが「切り替え術」と言えるでしょう。即興コメディでは、このネクストステップについて、遊び心が満載です。

ルール2)YESと言った次に、さらに上乗せする 

先の例の続きで言うと、一人目の役者が「ソファの下にピンクのヒョウがいる!」と言ったなら、それを受けた二人目の役者は、それに対して「本当だ! ヒョウがいる!」と、肯定的に応えるだけでなく、さらに上乗せするように「よく見ると、このヒョウ雌だよ。発情している!」といった具合に、流れに乗った上でさらなるポイントを追加することでコメディに貢献します。

コロナの事態に置き換えてみると、それを受け入れるのみならず、STAY HOMEならSTAY HOMEで家中を片付けて模様替えしてみる。自宅からできる趣味や内職を始めてみる。ズームなど、これまでは使ったことのなかった手段をトライしてみる、など。機転を利かせて、むしろ以前はできなかったことや考えたことのなかった新たなステップを取り入れてみる、といった切り替えを指しています。

ルール3)曖昧な質問を避け、一旦明確なステートメントを発現してみる

「どうしようかなぁ? これでいいかなぁ?」など、曖昧な発言はコメディにおいては絶対NG。ふんわり発言には何も効力がなく、ルール1でその場のシーンに「NO」と言ってしまうのと同じぐらい場面に貢献しないから、とベックさんは説明します。

思い通りにいかなくて、先が見えない時こそ決め事をするのは難しかったり、怖かったりもします。まずは一旦でいいので、クリアなステートメントという形で次のステップを明確にしてみるのです。

「私にできるかわからないけど、とりあえずズームを使ってお友達とつながってみよう!」。やってみないとわからないことはたくさんありますが、目の前の現実が大きく変わろうとしている中で、”とりあえず今”の気持ちをはっきりさせてみること。すると、たとえそれが後に「違った」と感じることであったとしても、一度明確にしたおかげで、結論が見えることも早くなります。

ルール4)先々の計画を立てつつも、しがみつかずやんわり構える

即興コメディのファイナルルールは、やはりこれもヨガや瞑想の心とドンピシャでした。

ピンクのヒョウの例のように、シーンが進んでくると、じわじわと自分の頭の中に「このコメディをどう持っていきたいか」というアイディアが浮かんできます。しかし、その案にこだわり過ぎてしまうと、相手がどう出るか、場面がどう変わるか、といったことに柔軟に対応できなくなってしまいます。いいアイディアが出れば出るほど、それにしがみつきたくなるのも人の心理ですが、人生でもコメディでも、程よく緩い握り方がおすすめです。これは、ヨガや仏教で言う「固執しない」心につながるのではないでしょうか。

しかし、人生のハードな曲がり角でも、あまりシリアスになり過ぎずに、即興コメディのルールを覚えていたいなと思わせていただきました。そうしたらきっと、重要な変化の側面においても、ちょっと笑いが増えたり。笑いが増えたなら、腹の奥の力が緩み、いつの間にか最も自分らしいフローに戻れるものなのかもしれないですね。

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吉川めい
ヨガマスター

MAE Y主宰、ウェルネスメンター。日本で生まれ育ちながら、幼少期より英語圏の文化にも精通する。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児などを経験する中で、13年間インドに通い続けて得た伝統的な学びを日々の生活で活かせるメソッドに落とし込み、自分の中で成熟させた。ヨガ歴22年、日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格者であり『Yoga People Award 2016』ベスト・オブ・ヨギーニ受賞。adidasグローバル・ヨガアンバサダー。2024年4月より、本心から自分を生きることを実現する人のための会員制コミュニティ「 MAE Y」をスタート。https://mae-y.com/