体の悩みは解決方法が分かりやすいものの、『心の悩みってどうしたらいいんだろう……』そう感じる人は多いのではないでしょうか。人の目が気になったり、過去の恋愛に囚われたり、コミュ症かもしれないと不安になったり。そこで心の専門家・臨床心理士である南舞さんに、読者のみなさんが抱える人生の悩みについて聞いてみました。

CASE1 人の目が気になる……

depressed woman at home
valentinrussanov//Getty Images

Q:小さい頃から『人にどう思われているか』が気になります。例えば、いろんなことに対してきちんとできている人が近くにいると、その人と自分を比較されてどう思われているのか考えます。また、SNSなどの投稿を見て、周りの人と自分を比べて劣等感を覚えたり……そういう話を周囲にすると『そんなの考えすぎよ』『自分が思っているほど周りはあなたのこと見てない』なんて言われてしまって、さらに落ち込むことも。今の自分を受け入れつつ、自分に自信を持つ方法ってあるんでしょうか?

A:南舞さん(以下、南):自分自身は気にしているのに、周りから『考えすぎ』と言われてしまうと落ち込んでしまいますよね。今はSNSやインターネットのなど気軽に繋がれるツールが多いので、その分他人のプライベートと近くなりやすく、自分と比較する機会が増えてしまうのはある意味自然なことなのではないでしょうか。人と比べることは悪いことであると捉えられることが多いですが、見方を変えればいい面も。例えば、他人と自分を比べるからこそ見えてくる、自分の持ち味やセールスポイントってありますよね。なので、これを機に、『人と比べてしまうのは悪いこと』という考え方自体を見直したり、『〇〇さんに比べて、私はこういうところが得意、できている!』という視点で考えてみるのはどうでしょうか。

CASE2 過去の恋愛での傷つきが消えない……

close up of hand holding jigsaw pieces
Christian Horz / EyeEm//Getty Images

Q.過去の男女関係の経験がトラウマになって、男性に対しての距離感がうまく取れません。今は幸せと思っていても、ふと過去のことが頭に浮かび、囚われてしまう感じがします。こういった過去の恋愛での嫌なことを思い出さない、忘れられるいい方法があったら教えてください。

A.南:恋愛って、あらゆる人間関係の中でも深い関係。だからこそ傷つきも大きく、時折思い出すとつらいものですよね。恋人との別れを心理学の視点で考えると、喪失体験と言えます。そして喪失体験を乗り越えていくためには【モーニングワーク(喪の作業)】をしていく必要があります。精神科医の平山正実氏によると、ショックなことが起きた時に人が回復していくプロセスを以下の4つのように分けています。

1.ショック

     感情が湧いてこないなどの感覚の麻痺、何も考えることができない、食事や睡眠などの日常的な生活を送るのが難しい状態。

    2.怒りの段階

       深い悲しみとともに、相手や自分を責める気持ちになったり、相手との思い出にひたり、現実を認められない状態。

      3.抑うつの段階

       周囲のあらゆるものへの関心を失ったり、外との関わりを持ちたくない状態。

      4.立ち直りの段階

         徐々にエネルギーを取り戻し、周囲との関わりを大切にしようと思えるようになったり、喪失の現実を受け止められるようになる

        1段階から4段階までがスムーズに進む時もありますが、どこかの段階で止まったり、前の段階に戻るということもありえます。

        この時に大切なのは、自分の中に起きている感情を否定しないこと。過去の恋愛の出来事を『思い出さないようにする・忘れるようにする』という対応をするのは、その時感じた怒りや悲しみなどのネガティブな感情を思い出すのが辛いからなのだと思うのですが、そうやって自分の気持ちを否定しフタをすることによって、回復へのプロセスを妨げることになってしまいます。怒りや無力感、悲しみなどの自分の感情を否定せずに『あの時の自分ってこんな気持ちだったな。それは辛かったよね』と受け止めることで、少しずつ気持ちが軽くなっていくかもしれませんよ。

        CASE 予定がストレス……


        colorful pins on calendar
        Isabel Pavia//Getty Images

        Q.予定にものすごくストレスを感じてしまいます。ストレスになりすぎて体調を崩すことも多く、学生時代は大きな行事のたびに体調不良で出席できなかったことも。大人になった今でもそれは変わらずで、友達との予定を直前に断ってしまうこともあり、付き合いが悪いと思われるんじゃないかと罪悪感でいっぱい……この状況、どうしたらよいのでしょうか。

        A.南:予定があるたびに体調を崩すのはつらいですね。予定のどんなところがストレスになるのかもう少し詳しく聞いてみたいところではありますが、予定がストレスになりうる要因を考えた時にキーワードになるのが【~すべき思考】なのではないかと思います。『〇〇しなければいけない』『〇〇すべきである』といった考えが習慣になっていると、気づかないうちに自分自身を縛っていたりします。

        例えば、『待ち合わせの5分前にはついていなくてはいけない』『会話の中で沈黙が生まれてはいけない』『その場を盛り上げなくてはいけない』『勝たなくてはいけない』など、自分の中に様々なルールが存在していませんか?そういったルールが多ければ多いほどストレスとなりやすいです。一度自分の中にそういったルールがないかを振り返ってみてはいかがでしょう。例えば『勝たなくてはいけない』という思考については『勝てるように頑張るけれど、負けてしまうこともあるかもしれない』といったように、修正可能なものがあれば書き換えていくことをオススメします。

        ただし、質問者さんの場合はすでにストレスが身体に現れており、日常生活に影響が出ているようなので、一度心療内科など医療機関への受診を考えてみてもいいと思います。まずは身体の調子を整えながら、カウンセリングを併用して自分の心の習慣に意識を向けていけるといいと思います。

        CASE4 コミュニケーションが苦手……

        confident business partners walking down in office building and talking
        RealPeopleGroup//Getty Images

        Q.人とのコミュニケーションをストレスに感じてしまい、避けてしまうところがあります。特に職場との先輩との関わりが苦手なのですが、ランチの時間や休憩時間中の雑談などに、先輩がコミュニケーションを求めてきます。休憩時間なのでできれば静かに過ごしたいのですが、先輩ということもあってむげにできず……どうしたらいいでしょうか。

        A.南:先輩という断りづらい相手に対してどう対応するか考えてしまいますよね。一番やりやすいのは、ランチタイム時に席を移動したりするなど環境面を変えることで先輩と接触する機会を減らすことですが、それが難しい場合もありますよね。そんな時におすすめしたいのが【アサーション】というコミュニケーションスキルを使って自分の気持ちを伝えること。アサーションとは、へり下りすぎることなく、かといって攻撃的でもなく【自分も相手も大切にする】という基本姿勢を大切にしています。今回の場合で言えば、『この後対応しないといけないことがあって、急いでお昼を食べてしまいたいんです。そのお話、後でまた伺ってもいいですか?』というような伝え方になります。

        アサーションの他に、『なぜ先輩が話しかけてくるのか』という理由を考えてみてはどうでしょうか。自分の話を聞いてほしくて話しかけてくるという可能性もあるかもしれないし、話しかけることで気軽に悩みを相談しやすい雰囲気を作っている、心配しているけど『何か悩んでいることあるの?』と聞くのは気がひけるので話しかけることで様子を知ろうとしている、という可能性もあるかもしれません。そういった違う視点の考えも頭の片隅に置いてみると、先輩が話しかけてくることに対しての印象も少し変わっていくかもしれませんね。



        Headshot of 南 舞
        南 舞
        ライター

        臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。   公式HP: mai-minami.com Instagram: @maiminami831