528gで生まれた赤ちゃん

母親が末期がんの治療のため、早産でわずか528グラムで出生した赤ちゃん・めいちゃん。めいちゃんの母親は、出産後6日目に亡くなった。しかし、医師たちの懸命な治療によって、めいちゃんの命は助かり、現在も元気に育っている。

めいちゃんの命が助かった理由のひとつには、「ドナーミルク」がある。
赤ちゃんの命を守る「ドナーミルク」を知っている? 「よくわからない」と思ったあなた、ぜひこの機会に知ってほしい。なぜなら一人でも多くの人が知ることで、助かる命があるから。

premature baby girl in incubator
Arrow//Getty Images

ドナーミルクとは

早産などで体重1500g未満の極低体重児として生まれた赤ちゃんが、母親から母乳を得られない場合に提供される母乳のこと。自分の子どもに与える以上に母乳がたくさん出る人から「母乳バンク」を通じて提供された母乳を検査し、低温殺菌したものが用いられる。

ドナーミルク
清潔なフラスコに提供された母乳を移し、低温殺菌の容器移す(ピジョン提供)。

日本に1か所しかない「母乳バンク」

ドナーミルクは、医療用の母乳を管理する施設「母乳バンク」から提供される。なんとこの母乳バンクは、現在日本には「日本橋母乳バンク」の1か所のみしかない

母乳バンクに母乳を提供できるのは、指定の検査を受けた登録ドナーのみ。母乳バンクでは国際的な運用基準に基づき、届いた母乳を解凍後に細菌検査を行い、安全が確認されたものだけを使用する。低温殺菌処理をしたのちに無菌となっていることを確認、再び冷凍し、提供依頼のあった医療機関に発送している。

ドナーミルク
日本橋母乳バンクの入り口(ピジョン提供)。

母乳は赤ちゃんにとって”薬”のようなもの

「母乳育児はいいらしい」と、母乳の優れた栄養価についてなんとなくは知っていても、医療用に使われているとは知らない人が多いだろう。母乳バンク協会の代表理事である水野克己医師によれば、「母乳は、極低出生体重児を命にかかわる病気や感染症から守る“薬”のようなもの」だという。

粉ミルクじゃダメなの?

母乳は一般的に、栄養に富み、赤ちゃんの病気を防ぐ免疫力がある、というのは知られているが、極低出生体重児にとっては、命にかかわる問題になる。1500g以下の極低出生体重児は、臓器の発達が未熟なため、さまざまな感染症にかかりやすい。

newborn preemie with bottle
CaseyHillPhoto//Getty Images

水野医師によれば、低体重児の命を守る医療の現場では、母乳を与えられるか、人工乳しか与えられないかはとても大きな差があるという。

「母乳には必要な栄養素がバランスよく消化しやすい形で含まれており、さまざまな感染症や病気にかかるリスクを低減する働きがあります」

例えば、命にかかわる病気である壊死性腸炎(腸の一部が壊死してしまう病気)にかかるリスクが、母乳を与えた場合では、人工乳を与えた場合の約3分の1に低下したという報告もあるという。

しかし、出産すればだれでもすぐに母乳が出るというわけではなく、十分な母乳が出るようになるまで時間がかかるお母さんもいる。薬を飲んでいて母乳が与えられない場合や、出産時に母親が命を落としてしまったケースもある。

母乳バンク
日本母乳バンク協会代表理事の水野先生(ピジョン提供)。

生後6日で母親を亡くした赤ちゃん

冒頭でお伝えした、わずか500gで出生した赤ちゃん・めいちゃんの担当医師である北野病院の水本 洋医師は、めいちゃんの命を守るため、母乳バンクにドナーミルクの提供を希望した。

母乳バンクと北野病院のスピーディーな対応により、わずか4日後に待望のドナーミルクの使用ができた。生後9日目にドナーミルクの使用を開始することができ、1週間後には点滴の栄養が不要となった。

異例の早さのわずか4日後に待望のドナーミルクが到着。生後9日目にドナーミルクの使用を開始することができ、1週間後には点滴が不要となった。

母乳バンク
めいちゃんの担当医師・水本先生(ピジョン提供)。

そしてめいちゃんは生後半年で無事に退院することができた。めいちゃんの父親は、「わずか500gほどで生まれて、今こうして元気にしているのってすごいこと。ドナーミルクを提供してもらったおかげ」と語る。

ドナーミルク
528gで生まれためいちゃんとパパ(ピジョン提供)。

母乳ドナーは足りている?

日本では、極低出生体重児は年間約6,500人生まれており、ドナーミルクが必要な赤ちゃんが年間約3,000人いるとされている。

premature baby girl in incubator
Arrow//Getty Images

ドナー登録者は母乳バンク開設以来のべ200人以上。2020年度は約161人のドナー登録があり、週に計約20ℓの母乳が届いている。ドナー希望者はさらに増えており、現在は登録待機している人がいる状態。ドナーの登録者数と、ドナーミルクの提携病院の数は、ともに増加傾向にあるという。国内の需要に見合うだけの母乳バンクの整備と経済的サポートが必要とされている。

ドナー登録者になるには、献血時と同じように、いくつかの条件がある。応募は日本母乳バンク協会のホームページのこちらをチェックして。

    「ドナーミルク」を飲ませたくない?

    医療現場ではドナーミルクの必要性が認知されてきているのに反して、母親たちからは、わが子にドナーミルクを飲ませることに抵抗があるという声がある。

    母乳バンクをサポートしているピジョンが行った意識調査において、「もし自分の赤ちゃんが1500g未満で生まれ、ドナーミルクを利用することになった場合、どのように思うか?」という質問に対して、「抵抗がある」と回答した人はなんと57.6%もいたという。

    半数以上の回答者がドナーミルクに抵抗を持っていることが浮き彫りになった。この背景には「他人の母乳を飲ませたくない」といった感情面と、仕組みや衛生面への理解不足もありそうだ。    

    まずは「ドナーミルク」を知ることから      

    ピジョンは2020年より日本母乳バンク協会のゴールドスポンサーとなり、さまざまな支援活動を行っている。認知を広げる活動のひとつとして、全国の妊婦や母親に対してアンケート調査を2年連続で実施しているが、2021年に行った調査によると、「母乳バンク」の名称と内容を知っていた人はわずか2割だったという。「ドナーミルク」や「母乳バンク」の認知度はとても低いのが現状だ。

    ドナーミルク
    赤ちゃんに提供したドナーミルクの一部は21年間保存される(ピジョン提供)。

    ピジョンが全国の妊婦や母親に行ったアンケート調査によると、「母乳バンク」の名称と内容を知っていた人はわずか1割だったという。「ドナーミルク」や「母乳バンク」の認知度はとても低いのが現状だ。

    ドナーミルクを必要とする赤ちゃんへすぐに安全な母乳を届けられるようにするには、まだ課題が多いという。まずは一人でも多くの人が母乳バンク、ドナーミルクの存在を知り、正しく理解すること。

    小さな命を助けられる社会を作りたい、そんな思いを込めたサイト「ピジョンちいさな産声サポートプロジェクト」をチェックしてみて。

    Headshot of Kanna Konishi
    Kanna Konishi
    ウィメンズヘルス・副編集長

    編集者として多くのメディアに携わったのち現職。健康オタク歴20年、趣味は"毒出し"で、体と心と部屋を効率よく整え、環境にもいい健康法を探るのがライフワーク。チアリーダー経験あり、勝手に人を応援しがち。仕事では「心から推せるものしか紹介したくない!」と目を血走らせ、常に情熱大陸に上陸中。 

    Instagram: @editor_kanna_purico