日本のコンドームメーカー・ジェクス社が行った【ジャパン・セックス・サーベイ2020】の調査によると、婚姻関係にあるカップルのセックスレスは51.9%にもなるということが明らかになりました。つまり、2組に1組以上がセックスレスであるということになります。筆者がカウンセリングを行う中で、あるいは友人・知人の話を聞いていても、公にしていないだけで、実はセックスレス状態、そしてそのことに1人で悶々と悩んでいる人が多い印象を受けます。デリケートな問題ゆえに、誰かに相談するのもハードルが高いですよね。この記事では、セックスレスの背景にある問題と、その対処法について心理学的な視点から触れていきます。

セックスレスの背景にあるものとは?

sad woman sitting on bed with partner in background
zoranm//Getty Images

そもそも、セックスレスになるのはなぜなのでしょうか? これには様々な背景や理由が考えられると思いますが、その中でも心理学的に考えられるものをご紹介します。

① セックスに対する考え方の違いとそれに対する理解の不足

    【ジャパン・セックス・サーベイ2020】によると、セックスの目的について、女性は『愛情を表現するため』、男性は『性的快楽のため』がそれぞれ1位になっています。もちろん、セックスの目的を何とするかは人それぞれですし、同性の間でも意見が分かれるところだと思います。まして、異性間ではなおのこと。セックスに関する価値観が相手と必ずしも一致しているとは限らないということなのです。そういった価値観の違いを理解することができていないと、いつまでもパートナーとの間にすれ違いが起きたままになってしまいます。

    ② 実はセックス以外のところに問題がある

      セックスレスと聞くと、セックスの問題だけに目がむきがち。ところが、セックスそのものよりも、実はもっと違うところに原因があったりします。例えば、家事や育児、仕事に追われていて大変なのに、パートナーは手伝ってもくれない、感謝の言葉のひとつもないとか、その他にも、自分の意見を常に否定したり、論破したりして、受け止めてもらえていないなど、関係性の問題がセックスレスを引き起こしている場合が多くあります。こういった傷つきや怒りの体験が積み重なることによって、相手への不信感が増していき、安心安全を感じることが難しくなります。人は安心安全を感じられない人に自分をさらけ出すことはできません。セックスとは、自分のすべてを見せる行為。不信感を抱いている相手に、自分の大切な部分を見せたり、委ねたりすることはできませんよね。

      ③ 『傷つきたくない』『傷つけてはいけない』という思いへの執着

        『セックスに誘って断られたら……』と思うと、誘うことを避けたくなると思います。相手が断る理由は『あなたとセックスするのが嫌だから』だと思っていませんか? 実際はそうとも限りません。仕事などで疲れていてセックスする気分ではないのかもしれないし、他にも理由があるのかもしれません。また、セックスをする際に『本当はこうして欲しいけど、言ったら傷つけてしまう……』と、我慢や無理が続くと、セックスをするのが億劫になってしまいます。『セックスを断るのは私のことが嫌いだからに違いない』とか『セックスは断るべきではない』といった思いは【自動思考】と呼ばれ、こういった思考が頭の中にあると、自分の言動や行動をがんじがらめにしたり、真実を見えづらくしてしまいます。

        セックスレスへの対応……どうしたらいい?

        problem in bed
        bymuratdeniz//Getty Images

        ① 解決することに執着しすぎない

          『夫婦とはセックスをするもの』とか『セックスしていない私たちはおかしいのではないか』もしそんな思いを抱いているのであれば、その価値観を見直してみる必要があるかも。これらは『周囲と比べて自分たちカップルがどうなのか』という他者視点による価値観です。周囲の視点を抜きにして、自分の気持ちはどうでしょうか? セックスをしなくても『この関係が幸せ』とか『パートナーのことが好き』と感じられるのであれば、無理に解決をしなくても良いのかもしれません。

          ② セックスに対する相手の価値観を認めるところから

            ジェクス社の調査を見ても分かるとおり、セックスに関する価値観は人によって違います。まずは相手の考えを受け止め、認めることも大切なこと。パートナーとはいえ、セックスにまつわることは、とてもセンシティブな問題です。そのことを否定されてしまうと傷つきますよね。『そういう考えもあるんだね』『あなたの考えが知れてよかった』といったように、まずは話してくれたことへの感謝の気持ち、肯定していることをメッセージとして伝えた上で、『でも私はこう思う、こうしてほしい』と伝えると、相手も受け止めやすくなりますし、感情的にならずに話をすることができます。

            ③ セックス以前に二人の関係を見直しと自分の気持ち、行動の整理を

              セックスそのものをどうにかする前に、2人の関係のあり方について見直してみましょう。というのも、セックスレスを引き起こす原因は、セックスに関することではなく、日常生活の出来事をきっかけに起きている場合の方が多いからです。例えば、相手から受けたひどい言動や行動は、体験として自分の中に深く刻まれます。そういった体験による怒りや悲しみの感情が、セックスをすることにストッパーをかけていることが。もし自分がセックスを拒む側にいるのだとしたら、まずはそういった自分の感情に気づき、『こういうことに傷ついていたんだ』と受け止める必要があります。この受け止めると言うプロセスを踏まないと、感情の行き先がどこにもなく、【相手を責める=セックスを拒む】ということでしか発散できなくなってしまいます。逆に、相手にセックスを拒まれているのだとしたら、相手に対する言動や行動を振り返り、関わり方を見直していく必要があるでしょう。普段から素っ気ない行動をしていたり、相手を責めるような言い方が多くなっていないか、振り返ってみましょう。

              ④ 話せる関係なら、お互いの希望を話し合ってみる

                普段からざっくばらんに話ができる関係がある程度築けているなら、セックスに関することを具体的に2人で話してみても良いと思います。例えば、行為中に痛みを感じてしまうなら、セクシャルウェルネスグッズなどを使用して、痛みを感じないような対策を取ってみるとか、2人がセックスしたいという気持ちになりやすい場所や時間を工夫してみるなどです。セックスもコミュニケーション。相手のニーズを組み、かつ自分の意見を伝え、キャッチボールできる関係を目指したいものです。

                どうしても難しい……そんな時は専門家の力を

                expecting couple on home counselling meeting
                NoSystem images//Getty Images

                とはいえ、デリケートなことだけに、セックスにまつわる問題を2人で解決するのはなかなか難しいと思います。そんな時はカップル・カウンセリングを受けてみるのもひとつです。カウンセリングと言うとカウンセラーと1対1でセッションするイメージが強いと思うのですが。カップルカウンセリングでは、カウンセラー1名とカップル、あるいはカウンセラー2名とカップルといった形で行います。日本ではまだまだ主流になっていませんが、諸外国では、セックスの問題にカップルで取り組むといったことが浸透してきています。専門家にサポートしてもらい、カウンセリングを行っていくプロセスの中で、『相手ってこんなふうに思っていたんだ』とか『私にもこんなところあったかも』といった思いがけない気づきを得て、二人の関係が改善する、セックスレスが緩和されるといったケースも少なくありません。セックスは行為というよりも、心を通わせたり、安心安全を感じるためのコミュニケーションです。勇気を出して、お話ししてみることで自分の気持ちが少し軽くなるかもしれませんよ。

                Headshot of 南 舞
                南 舞
                ライター

                臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。   公式HP: mai-minami.com Instagram: @maiminami831