コロナ禍になってから約1年半。私たちは未だ、マスクを着用する日常から開放されていない。外出時はもちろん、運動時もマスクを外せない状況のなか、実はそれが私たちの呼吸や健康に多大な影響を及ぼしていることがわかってきている。そこで今回は、マスク着用が体へ及ぼす影響と、深い呼吸がしやすくなる呼吸法を、自力整体ナビゲーターの矢上真理恵さんが教えてくれた。

鼻呼吸から口呼吸への変化

woman wearing mask touching chest while standing on footbridge
Narin Sapaisarn / EyeEm//Getty Images

まずはじめに、マスク着用が日常化してからの私たちの呼吸法の変化について解説します。マスクをすることで口呼吸が増加し、現在日本人の約半数が口で呼吸をしているといわれています。口と鼻を覆うと息苦しくなるので、てっとり早く呼吸をするには口で浅く、速く呼吸をするようになるからです。しかし、この口呼吸こそ、体の不調のおもな原因となります。

私たちは鼻呼吸をするとき、鼻の穴の粘膜や毛をフィルターとして使い、外の空気の温度、湿度を調整して、体内に不必要な微生物が入らないようにしています。それにより、体に害をもたらす細菌や刺激的な温度や湿度の混入を避けているのです。また、鼻の穴は口に比べて小さいので、空気を吸い込むとき、比較的ゆっくりと深く呼吸をすることができます。

いっぽう、口呼吸は鼻の穴のようなフィルターがないので、温度や湿度が調整されず、体に害をもたらす細菌も一緒に肺へ送られてしまいます。また、穴が大きいので速く、浅い呼吸になってしまいます。浅い呼吸になることで肺に酸素を充分行き渡らせることができないだけでなく、息を吐くときにも肺の底や背中部分に残る老廃物を排出することができなくなるのです。

口呼吸の弊害とは?

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JGI/Jamie Grill//Getty Images

口で呼吸をすると、浅い呼吸になる。それは風船を膨らませてみると一目瞭然である。口から息を吸って風船を膨らますのと鼻で息を吸って膨らませるのとでは、鼻呼吸の風船の方が大きく膨らむ。それを理解した上で、浅い呼吸への影響をさらに詳しく見ていこう。

浅い呼吸が引き起こす3つの悪影響

浅い呼吸が体へ及ぼす悪影響をいくつか例に出してみましょう。

  1. 脳と筋肉に酸素が充分届かず、酸欠になる
  2. ホルモンバランスが崩れ、自律神経が乱れる
  3. 血液の巡りが悪くなり、代謝が落ちて太りやすくなる

成人の大人は1日2万回以上、無意識に呼吸をしています。呼吸が浅いと脳や筋肉が必要とする酸素が行き届かず、 頭痛や筋肉の緊張を引き起こします。ホルモンバランスは崩れ、自律神経も乱れるので体に不調が表れ、肌が荒れたり精神的に不安定になります。また、充分な酸素が運ばれないと体内の血液循環が悪くなり、体が冷えてむくみ、太りやすくなります。そのうえ、呼吸が浅いと気道が収縮するため、姿勢も自然と悪化します。

マスクを着用しながら深い呼吸をする方法

口呼吸がどれだけ体に悪影響を及ぼすかご理解いただけたでしょうか。では次に、マスク生活を継続しながらこの状態を改善し、呼吸を深めて体調を整えていく方法をご紹介します。

①呼吸の観察瞑想

ますは、自分がどのように呼吸をしているか静かに見つめ直し、呼吸のプロセスを観察しましょう。

あぐらをかいたり椅子に腰掛けたりして、無理のない状態で座ります。肩の力を抜き、目を閉じてゆっくりと意識を内側へ向けていきます。無理にコントロールしようとせず、自然に呼吸をしましょう。呼吸を繰り返しながら、どこから空気が入り、どこを通って、どのように肺に届いてどこから出ていくのか、一つ一つの呼吸の深さ、リズム、通り道を丁寧に感じていきます。普段、無意識に行っている動きに気づいていくことが大切です。

呼吸筋を鍛える

深い呼吸をするうえで重要になってくる筋肉グループが、横隔膜などの呼吸筋。これらを鍛えることで肺活量が高まり、身体機能も向上します。浅い呼吸では空気が横隔膜まで届かないので筋肉が衰え、肺活量も低下させてしまいます。

競泳選手とアーティスティックスイミング選手の肺活量を比べてみると、アーティスティックスイミング選手が圧倒的に高いという結果があります。それは、彼らが大きく息を吸う時間、水面下で息を止めている時間が長いから。呼吸筋を使い、肺を膨らませたり萎ませたりすることで、肺活量を高めているのです。

では、一般的にはどのようにして呼吸筋を鍛えればよいのでしょうか? ここでは、普段の生活でもその原理を利用して鍛える呼吸法、4・4・8呼吸をご紹介します。

最初に、呼吸観察のときと同様に座ります。このとき、背筋を無理に伸ばす必要はありません。少し背中を丸めてアゴを出し、体に力が入っていない状態を作ることで、空気を背中まで送ることができます。鼻からゆっくり、4秒かけて息を吸います。肺が空気でいっぱいになったところで4秒間呼吸を止めます。ただ止めるのではなく、背中と横隔膜のほうへ空気を押しやるように膨らませて、肺まわりの筋肉を使います。4秒ホールドしたら、口から8秒かけて長い息を吐ききりましょう。これを4、5回繰り返します。

肺のスペースを作る自力整体

3d illustration of lungs, medical concept
yodiyim//Getty Images


姿勢が悪いと気道が狭まり、骨盤と肋骨の隙間が縮んで空気を出し入れする肺が窮屈になるため、呼吸がしにくくなります。そこで今回は、肺を覆っている筋肉をほぐしたり、骨の隙間を広げたり、楽に呼吸ができるスペースを作る自力整体にトライしてみましょう。

自力整体メソッド①四つん這い体回し

    自力整体
    Masaya Yoneda

    まず始めに四つん這いになり、体をさまざまな方向へ動かして、筋肉や関節の詰まりをほぐしていきます。

    自力整体メソッド②脇伸ばし

      自力整体
      Masaya Yoneda

      息を吐きながらヒジを床につけ、両手を合わせて後頭部に寄せて、脇の隙間を広げていきます。深い呼吸を心がけ、息を吐きながら背中をしならせて胸を床へ近づけます。軽く体を上下左右に揺らしましょう。4〜5呼吸程度行います。

      自力整体メソッド小指〜骨盤までの隙間広げ

      自力整体
      Masaya Yoneda

      ②の状態から体を軽く起こし、右手の小指を真っ直ぐに伸ばして、左側の足を真横に伸ばします。できれば左のかかとを浮かせて、その爪先を使って床を軽く蹴るようにしながら体全体を揺すってください。右手の小指から骨盤までを気持ちよく伸ばして緩め、ほぐしていきましょう。20秒程度を両サイド行います。

      自力整体メソッド④胸広げ

      自力整体
      Masaya Yoneda

      ③で充分脇をほぐしてから、胸を広げていきます。四つん這いに一度戻り、両手両ヒザを大きく広げて、指を内側に向けましょう。アゴを床へつけてから、約1cmほど上下にバウンドさせてください。このとき、大きく動くと腕立て伏せになってしまいます。目的は胸を広げることなので、軽く微細なバウンドを意識しましょう。30回ほど繰り返します。

      自力整体メソッド⑤肩関節の隙間広げ

      自力整体
      Masaya Yoneda

      ④が終わったら、うつ伏せになって両ヒザを揃えます。右ひじを90度に曲げて床に下ろし左手で床を押して両足を右側に倒しましょう。左手を軽く押し続けながら体全体を揺すり右肩周り、胸周りを自重でほぐして行きましょう。両サイドを20秒ほど行います。硬いと感じる側を長めにしてバランスを整えても良いでしょう。

      まとめ

      今回はマスクの常時着用による呼吸の変化と体への影響、そして呼吸を観察する瞑想やトレーニング法、上半身をほぐして肺に充分なスペースを作る自力整体を紹介しました。コロナが収束し、マスクをはずして生活ができる日常になる見通しはつきません。だからこそ、無意識に行っている呼吸に意識を向け、できる限り心穏やかに健康を維持していきましょう。

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      矢上 真理恵
      自力整体ナビゲーター

      父である矢上裕が開発した自己治療メソッド自力整体®︎と予防医学を普及する矢上予防医学研究所のディレクター。米国、英国の芸術大学で衣装デザインとパフォーマンスデザインの学士、修士課程を終了後にアート、ダンス、ムーブメントセラピーに興味を持ち英国でRYTヨガ認定資格終了。後に自力整体ワークショップをヨーロッパ各地、カナダやイスラエル等で開催。2019年より日本に完全帰国。

      インスタグラム: @marieyagami_move 

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      Kaoru Sawa
      ウィメンズヘルス・エディター

      美容・ダイエットを中心とした記事を担当。自他共に認める美容マニアで、ハマり症。その気質から、自分が挑戦する取材企画には必ず結果へのコミットにこだわる。男性ライフスタイル誌、女性向けアプリメディアなどを経て、2021年までウィメンズヘルス編集部に在籍。