『ダイエットしているが、なかなか痩せない……』『ダイエットしたいとは思うが、なかなか続かない』など、ダイエットに関する悩みはつきものだと思います。これまでダイエットがうまくいかないと感じている人は、自分が行っているダイエット方法や、そもそもダイエットについての意識を見直す必要があるかもしれません。この記事では、ダイエットについて、心理学の視点からお話をしていきます。

ダイエット、これまでのやり方では通用しない?


food problematic
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友人たちやヨガの生徒さん、あるいはクライアントさんとの会話の中で、ダイエットにまつわる話をよく聞きます。しかし不思議なことに、『成功した!』という声よりも、『うまくいかない……』という声の方が圧倒的に多いのです。せっかく頑張っているのに、なぜだろう。そう考えていると、ある共通点が見えてきました。それは、ダイエットに関する思考や認知(考え方)にクセや歪みがあり、それがダイエットの足かせになっているということです。

例えば、

『痩せるには〇〇すべき』

『〇〇を食べてしまったから太る』

『私はいつもダイエットに失敗してしまうのは、意志が弱いから』

といった思考や捉え方をしていること、ありませんか? こういった極端な考え方は、心理学の中では不健康な思考と言われています。矢澤氏らの研究の中では、ダイエットにおいて、そうした極端な考え方がネガティブ感情や自分に対する評価に関連することを明らかにしています。考え方が極端である、あるいは偏りすぎることでどんどん視野が狭まり、その狭い視野の中に自分がハマっていないことで、自分に対する自信を低下させたり、自分を受け入れることができなくなっていきます。

ダイエットに必要なのは、心理的アプローチ?


healthy food in heart dish with doctor's stethoscope
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最近では、肥満外来などの治療で心理的なアプローチが注目されるようになっています。これまでは食事療法や運動療法がメインの治療でしたが、短期的には減量できても、長期的に体重維持をするのが難しく、結果、リバウンドしてしまう。それが失敗体験となり、ダイエットへのモチベーションを下げ、自分に対する自信を低下させるという流れが起きてしまっていました。

そこで、現在の治療では、ダイエットに心理的な視点を取り入れ、過去のダイエット経験や、生活習慣、家族や職場など周囲の環境、対人関係の持ち方、思考のクセなど、様々な情報をアセスメントすることにより、どんなダイエット方法が合うのかを個人に合わせて作っていくことが大切だということがわかってきています。

心理的なアプローチを取り入れたことにより、減量とその後の体型維持が可能になったという例も少なくありません。こうしたダイエット目的の心理的アプローチには、『認知行動療法』というセラピーが有効とされています。これは、思考や行動のクセ、歪みを把握し、自分の認知・行動パターンを整えていくことで、生活や仕事上のストレスを減らしていく方法のことです。短期的に効果が見込めると言うことで、うつ病や双極性障害、パニック障害、強迫性障害などの精神科医療で多く使われていますが、肥満の治療にも効果的とされています。

そこで、記事の後半では、一人でも行える簡単な『認知行動療法』のアプローチをお伝えしていきます。

こんなこと考えてない? ダイエットを妨げるN G思考

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認知行動療法では、思考や行動のクセ・歪みに注目していきます。そこで、ダイエットを行う中で陥りがちなN G思考についてお話しします。もしダイエットがうまくいかないと感じているようであれば、まずはこんな思考や行動をとっていないかチェックしてみて。

(1)〜すべき思考
『痩せるには食事制限やカロリー制限を厳しくしなければいけない』『筋トレしているから、痩せるに決まってる!』など、強い思い込みをしてしまう人は要注意です。強すぎる思い込みは時に必要以上に自分を苦しめます。

(2)厳しすぎるルール
『甘いものは絶対食べない』『毎日○キロ走る』といった厳しすぎるルールは挫折の原因に。特に女性は、生理周期などによってホルモンバランスの影響を受けやすいので、あまりに厳しいルールを設定しまうと、心身の不調を引き起こしてしまいます。

(3)ゼロか100か的な思考
『1日だけうまくいかなかったから、もうダイエットは失敗……』といったゼロか100かといった思考は、長続きを妨げる原因です。


臨床心理士がすすめる、認知行動療法で作るダイエットマインドとは?

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(1)自分の行動パターンを知る
 認知行動療法では“セルフモニタリング ”と言いますが、体重や食事の内容、運動した内容などを記入して目に見える形にすることで、ダイエットのモチベーションを維持していく方法です。これらに加えてオススメしたいのが、1日の簡単な出来事や行動、その時感じた気持ちを記入しておくこと。それを書いておくことで、『落ち込んだ時に食べ過ぎてしまう』『調子がいいのはこの行動をした時』といった自分の状況をより詳しく知ることができます。

(2)目標作りのポイントは“達成できそうな小さいことから”
ダイエットに限らず、何かを成功させるには、最終的な目標と共に、段階的かつ小さい目標を立てることが大事です。『スモールステップ法』と言われる方法ですが、ポイントは簡単にクリアできてしまいそうなくらい、小さい目標にすること。例えば、普段全く運動しないのに、『毎日○キロ走る』という目標を立てても、ハードルが高くて実行するのが難しいと思います。スモールスッテップ法に沿って目標を立てるなら、まずは『家の前を何往復か歩いてみる』それがクリアできたら、『近所の公園まで歩く』『小走りしては歩くを繰り返す』など、少しずつ運動量と距離を伸ばしていくと良いでしょう。

(3)目標は具体的に
目標を立てる時、どうしても『○キロ痩せる』といった抽象的になりがち。目標は具体的である方が自分の中で成功した場面をイメージしやすくなります。例えば、『○kg痩せて、この服が似合う体になりたい』『ダイエットに成功したら、これを食べる!』といったことです。これは外発的動機づけと言って、魅力的なご褒美、報酬があることでモチベーションが高まるというもの。こうした外発的動機づけがうまくいき、成功が続くと、内発的動機付け(ご褒美や報酬に依存しないモチベーション)へと変化していきます。内発的動機付けの状態になれば、ダイエットそのものが楽しく、自分の中で不可欠なものになっていくので、結果ダイエットが続きやすくなると言われています。

(4)〜かもしれない思考を取り入れる
思考や考え方などが偏ってしまいがちな時は、『白と黒だけでなく、グレーも作りましょう』といったことをクライアントさんにアドバイスすることがあるのですが、【〜すべき、〜しかない】という考えに、【〜かもしれない】という考えを加えてあげると良いです。例えば、『今日は飲み会だったから、食べすぎちゃった……』と思っても、『まあ、そんな時もあるよね。明日からまた頑張ろう』という言葉をかけてあげることで、自分の中に浮かんでくる罪悪感などのネガティブな気持ちが少し楽になりますよ。

(5)マインドフルネスイーティング
巷で話題のマインドフルネスは、第三の認知行動療法と言われています。マインドフルネス=瞑想、呼吸法というイメージがあるかもしれませんが、実はそれだけではありません。『マインドフルネスイーティング』とは、食べるという行為だけに集中することです。味覚、嗅覚などの五感をフルに使って食事を味わうことで、食べるスピードや量、食べたいという欲求をコントロールすることができ、結果としてリバウンドの防止に役立つと言われています。

《マインドフルネスイーティングを行うために》

① 環境を整える(テレビやスマホなどから離れる、視界に入るところに食事に関係ない物を置かない)

② 『いただきます』のあいさつをして、一呼吸おく。

③ 空腹具合など自分の体の状態を観察する(今どれくらいお腹が減っているかなど)

④ 食べる前に、目の前の食べ物を観察し、その観察によって起きる体の状態を見てみる

    (どんな色、形なのか。お腹の音が鳴っている、唾液が出てきたなど)

    ⑤ いつもより丁寧に味わう(咀嚼回数を多めに、香り、舌触りなどを観察する)

      参考文献:矢澤美香子、金築優、根建金男『女子学生のダイエット行動における完全主義認知,感情,自己評価の特徴』行動療法研究34巻3号

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      南 舞
      ライター

      臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。   公式HP: mai-minami.com Instagram: @maiminami831