歯の違和感や痛みをすぐ治るだろうと簡単に考えていない? もし、その症状が歯周病によって引き起こされるものであった場合、脳の認知機能低下につながってしまう可能性もある。

今回は、歯周病と脳の認知機能低下の関係性や健康な歯をキープする方法を、武内博朗先生の著書「50歳から老けない人の歯の習慣」からご紹介。

歯周病の原因

毎日歯磨きをしているはずなのに、なぜ歯周病になってしまうの? その原因は、歯磨きで取り切れなかった歯垢が古くなり、病原性の高いバイオフィルム(微生物が独自に合成したバイキンの巣)に変化するため。特に、歯と歯の間に蓄積した歯垢は、接触している歯の粘膜の炎症を引き起こし、歯肉炎になりやすい。歯肉炎が悪化すると歯を磨く時に当たって痛くなり、ブラッシングがさらにおろそかになると歯周病菌の中で最も良くない作用をもたらす菌種が増加しやすく、歯周組織が急速に破壊される。広告などでもよく聞く歯周ポケットは、歯周組織が急速に破壊され、粘膜に傷がつき、えぐれた状態(潰瘍面)を指しているので、かなり危ない状態。

歯周病は、しっかりとブラシを当てて歯垢を取ることで防げる病気なので、歯磨きの時間を大切にしよう。

「歯周病」危険度チェック

1つでも当てはまった場合、歯周病の可能性が高い。歯医者に行く頻度が低いという人は、一度見てもらうのが◎。

□歯を磨いていると歯ぐきから血が出る
□歯ぐきを押すと血や膿が出る
□起きた時に口の中がネバネバする
□口臭が気になる、口臭があると指摘された
□歯が長くなったように感じる
□歯ぐきの色が赤黒い
□硬いものが噛めない
□歯がグラグラ動く
□歯ぐきが腫れている
□歯に歯石が付いている
□歯ぐきが下がってきたような気がする

口内の出血は体内に毒素を運ぶ?!

歯周病対策で最も大切なのは、歯肉からの出血をすぐに止めることだという。歯肉出血をしていると、転んで擦りむき、出血したヒザの傷の状態に近く、 小さな傷口の潰瘍面から有害微生物やゴミが血管の中に常に入り続けている状態になり、体に良くない。

さらに歯周病の状態を放置すると、首の総頸動脈にこぶができることもある。これは歯周ポケットの傷口から血管内皮細胞に菌が入って、それを食べに来た白血球が血管壁に潜り込み、血管内皮が膨れ上がることで生じるそう。歯が痛んだり、歯ぐきから血が出たり、口がねばつく、歯ぐきが腫れている場合には注意が必要。

残っている歯が少ないほど認知症になる

歯周病による出血だけでなく、口内の健康状態が悪化すると歯と脳の認知機能にも大きな関係がある。

まず、歯周病菌の1種、P.g菌が脳のタンパク質を破壊することが明らかになり、それが原因でアルツハイマー型認知症になるというデータがある。さらに、歯のない人が歯周病で歯を失うまでの期間に歯周病菌の攻撃を受けていたこともアルツハイマー型認知症の発症に関係しているそう。

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主婦の友社

その他にも、ものが「なんでも噛める」高齢者と「あまり噛めない」高齢者を比較した際、認知症のリスクが1.5倍にも増える。これは、噛むことによって生じる歯根膜からの信号で、学習能力に関わる伝達物質であるアセチルコリンが増加するが、歯が少なくよく噛めない人はアセチルコリンの量が減り、アルツハイマー認知症を引き起こすためだ考えられている。

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主婦の友社

残っている歯の本数が少ないほど、脳の萎縮が進み、発病しやすいことも分かっている。

上記の図は、平均して歯が9本ある高齢者(平均年齢70歳後半)は健康である傾向が高く、歯が3本しかない人はアルツハイマー型認知症の傾向が高いことを示している。

歯周病や歯周病の悪化が原因で歯がなくなることは、脳に大きな影響を与える。

歯を健康にキープする食事法

ここからは、歯を健康に保つためにできることを3つご紹介!

①食事は1口20回程度噛む

よく噛むことで、脳が刺激を受けて脳細胞の神経を活性化させ、記憶、認知の領域を高めてくれる。また、よく噛む癖をつけると満腹中枢も刺激され過食防止にもつながり、ダイエット効果もある。

②プロテインスコアの高い食事

タンパク質は、血管や筋肉だけでなく歯や歯周組織を作る材料にもなる。また、脳を活性化させたり、白血球の量を増やし、免疫機能アップにつながる。

タンパク質は、20種類のアミノ酸の組み合わせで構成され、その中の必須アミノ酸と呼ばれる9種類は体内で作成できないため、食事で摂取する必要がある。そんなときにどの食材からタンパク質を取れば効率よく取り込めるかを表した指標「プロテインスコア」が参考になる。

歯の習慣p101 プロテインスコア
主婦の友社

卵、しじみ、サンマ、豚肉、アジなどが上位にあり、植物系食品なら大豆やソラマメといった豆類は、プロテインスコアが高い。

アルツハイマー型認知症の原因の一つに脳のタンパク質の破壊があることを考えると、タンパク質を毎日取り入れることはとても大切である。

③コラーゲンを摂り入れよう

コラーゲンがタンパク質の一種ということはご存じだろうか。体内を構成するタンパク質(約30%)のうち3分の1がコラーゲンというから驚き。コラーゲンというと美肌キープのために摂るものというイメージがあるが、健康な口内を維持するうえでもコラーゲンはとても大切。歯の根の周りを覆い、噛む時に歯にかかる力を吸収・緩和するクッションの働きをしている歯根膜には、コラーゲン繊維が含まれている。

コラーゲン豊富な食材として牛すじ、鳥の手羽先や豚足が挙げられるが、直接歯肉になることはない。コラーゲンを作るには、良質なタンパク質を日々の食事に取り入れよう。

プロテインスコアを参考に十分なタンパク質を摂り入れ、コラーゲン合成に必要なビタミンC、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸を含む食事やサプリメントで摂るようにしよう。

「50歳から老けない人の歯の習慣」

歯の健康を維持するとアルツハイマー認知症だけでなく、がん、心臓病や糖尿病のリスクを軽減させることができる。歯と口を守って、長く元気にいられるにはどうすればよいかが詰まった一冊、ぜひチェックしてみて。

主婦の友社 50歳から老けない人の歯の習慣

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著者 武内博朗(たけうちひろあき)先生

医療法人社団武科医院理事長、日本大学歯学部臨床教授、医学博士。

横浜市立大学医学部細菌学教室元非常勤講師であり、現在は日本大学歯学部衛生学講座非常勤講師、日本抗加齡医学会専門医、国立感染症研究所元客員研究員、日本アンチエイジング歯科学会常任理事、日本口腔検査学会理事も兼任している。

1987年:日本大学歯学部卒業

1991年:横浜市立大学医学研究科大学院博士課程修了(阳細南学:分子生体防御学專攻)

横浜市立大学医学部附属病院口腔外科勤務

1993年:ドイツ連邦共和国マックスープランク研究所免疫遺伝研究部職員

1995年:ハイデルベルク大学医学部分子瓶場研究部(ドイツ政府研究職具BATⅡa)

1996年:国立子防衛生研究所口腔科学部 う触室研究員

1999年:武内歯科医院勤務

2008年より日本口腔衛生学会認定医

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Nao Sakamoto
エディター

アシスタントエディターとしてSNS業務も担当。人間の心理、睡眠や美容に興味を持ち、記事執筆を行っている。自他ともに認める運動音痴だが、最近ヨガとピラティスで心と体を整え始めた。健康なライフスタイルを送りたいため、1日1食オートミール生活を実践中。