世界では、約2,000種の食用昆虫が食べられている。人類は猿人〜新人の進化の過程で栄養価の高い昆虫を日常食としてきた。昆虫食の歴史は、さかのぼると400万年前にも及ぶのだ。タイやベトナムでは現在も親しまれていて、日本も例外ではなく養蚕業が盛んだった頃は、蚕が食卓に並ぶことも稀ではなかったという。

FAO(The United Nations Food and Agricultural Organization)の研究によると、「2050年までに食糧生産量を70%増加させなければ、90億人という人口を養えなくなる」と予測している。来たる食糧危機に備えて、フードテック業界は肉の培養や植物ベースの食品の研究を目下進行中、昆虫を使った開発もその一つだ。

昆虫食が注目を集めている理由を挙げるには、畜産業が抱える問題に目を向ける必要がある。
前述した通り、2050年までに食糧危機は深刻化し、気温上昇により自然災害が増加、すると農作物が育たたない。現状のままだと飢餓は避けられないというのが研究者たちの見解だ。畜産業が地球温暖化に与える影響は大きく、牛のゲップに含まれるメタンガスは、二酸化炭素の約25倍(!)温室効果をもたらすとも言われている。また、牛を育てるには広大な土地と膨大な餌を必要とし、コストと資源がかかることも忘れてはならない。

maggots and cockroach on spoon
Malte Mueller//Getty Images

一方で昆虫食は、牛や豚に比べて養殖しやすい。少ない餌で育てられ、小さなスペースでも量産が可能と言われている。さらに、野菜は皮や芯が、家畜は骨や内臓など、スーパーに並ぶまでに廃棄されてしまう部分が多い。昆虫は(羽や肢を除いて)そのほとんどを食べることができる。農作物の価格変動に影響を受けやすい餌と広大な土地を必要とし、温暖化を促進しかねない畜産を増やし続けた先に、明るい食の未来を見いだすのは難しいのかもしれない。

こうした動きの中で、世界一と称されるコペンハーゲンのレストラン「Noma」で虫が取り入れられたり、アメリカではコオロギ粉末を使用したプロテインバーが販売されたり、今年11月末には東京駅構内で昆虫料理を楽しめる「虫グルメフェス」が開催されたり、と徐々に市民権を獲得してきている。

「虫グルメフェス」を監修し、NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長を務める内山昭一さんはこう語る。「昆虫は調理次第でおいしくなるうえ、高タンパク・低脂肪、しかも不飽和脂肪酸を含んでいるので栄養価がとても高い。スーパーに昆虫が並ぶ日も近いかもしれません。従来の肉の代用としてではなく、一つの食のカテゴリとして昆虫食を味わってほしい」

昆虫食は、危機感から仕方がなく選択する食材ではない。近年では小学生の自由研究の対象になっている例も複数あるという。「現代の子どもたちは、すでに調理された、またはカットされた食品をスーパーなどで目にすることが多く、生き物をいただいている感覚が希薄になっている。昆虫を育て、食べる(※)ことで食育に繋がるのでは」と内山さんは期待する。

昆虫食の最大の課題は、見た目や口に入れた瞬間の不快感だろう。しかし、生魚を食べる文化がなかったヨーロッパで、今や寿司は人気高級フードになった。はじめは受け入れられなくとも、案外人はすぐに慣れてしまうものだ。昆虫食や虫料理のレシピを知りたい人は、内山さんも出演するYouTube チャンネル「バグズクッキング」がおすすめ。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
【企画会議(前半)】昆虫食を身近に!昆虫お茶漬けプロジェクト始動!
【企画会議(前半)】昆虫食を身近に!昆虫お茶漬けプロジェクト始動! thumnail
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「虫グルメフェス」に出店し、昆虫食をお店で展開しているのはこちら。ぜひ足を運んでみては。

  • 鳥獣虫居酒屋 米とサーカス 公式サイトを見る

(※)毒性を持った昆虫や非加熱で食べると危険な虫がいます。必ず専門家と一緒に、または専門店で食べるようにしてください。

お話を伺ったのは……

内山昭一(うちやましょういち)
昆虫料理研究家、 NPO 法人昆虫食普及 ネットワーク 理事長、NPO 法人食用昆虫科学研究会理事。昆虫の味や食感、栄養をはじめ、あらゆる角度から食材としての可能性を追究。 著書に『楽しい昆虫料理』 ビジネス 社 、『昆虫食入門』 平凡社新書 、『昆虫は美味い 』 新潮新書 、『食の常識革命 ! 昆虫を食べてわかったこと』 サイゾー など。

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Sawako Motegi
コントリビューティング・エディター

スポーツファッション・サステナブルの記事を担当。山梨県の富士河口湖町へ移住し、オンラインを駆使して取材活動を行う。フェミニズムや環境問題などの時事ネタやニュース、人を掘るのが得意。  2020年までウィメンズヘルス編集部に在籍。