ランニングが脳にいい理由8
シンプルな走るという行為がこんな効果が!
エンドルフィンの高揚感、創造性や集中力の向上、認知症の予防など、ランニングが脳にとって重要な働きをする理由をご紹介。
1.賢くなる
大事な会議を控えているのなら、ランニングシューズを用意してみよう。米国イリノイ大学の研究者たちは、ランニングをすることで推論能力が向上することを明らかにした。また、国立台湾体育大学の研究では、30分間の適度な運動が、その直後に認知能力を最適化するための理想的な時間と強度であると指摘している。
さらに、結果を感じられるのを待たなくてもこんな結果もあるという。オーストラリアアバディーン大学の研究によると、走ることで創造的な思考が誘発されるという結果も出ているのだ。研究者によると、このメカニズムは、脳が前進する動きを感じることを未来と関連づけるということが理由だそう。この研究によると、効果を最大化するためには、よく知っているなじみのルートを走るのがベスト。道順を考えるなどで心の動きが制限されることを防げるからだ。また、スピードを追い求めたり、ラップタイムを気にして走ると脳が創造性に避けるエネルギーが減ってしまうので、程よいスピードで行おう。
2.ハイになる
汗をかいて頭が回転したのに、まだ満足できない場合は、よく聞くランナーズハイが効果的かも。ドイツの研究によると、ランニング中に脳から自然なアヘンが放出されるということが分かったそう。他の研究では、エンドルフィン生成のカギは、心地よくハードな努力(リズムよく走ることなど)であることが示されており、オックスフォード大学の研究では、グループでの運動がエンドルフィン放出を増加させることがわかっている。
さらに、走ることで脳内にエンドカンナビノイドと呼ばれる物質が分泌され、気持ちを落ち着かせる効果もあるということ。最大心拍数の70〜85%を目安に、全力ではないが、少し頑張るような走りをすることが、脳の働きを引き出すポイントとなる。
3.幸せが続く
よくある科学的な幸せへのショートカットとは異なり、ランニングには反動がない。実際、定期的にランニングをすることで、長期的にはストレスが軽減され、気分が高揚するという研究結果が出ている。Medicine & Science in Sports & Exercise誌に掲載された研究では、ランナーはトリプトファンの濃度が高いことが確認されている。トリプトファンの濃度が高いと、気分を高揚させる神経伝達物質であるセロトニンの濃度も高くなるのだ。また、Journal of Sports Medicine and Physical Fitness誌に掲載された別の研究では、身体活動が患者のうつ症状、不安、ストレスなどを測るDepression, Anxiety and Stress Scale(DASS)のスコアを低下させることが分かった。
他の研究でランニングは、セロトニンやノルエピネフリンなど気分を高揚させる神経伝達物質が体内により長くたまるようにすることで、抗うつ剤と同等かそれ以上の効果を発揮することが分かっているという。
最近、アメリカ最古のランニング専門ブランド、サッカニーのコレクションに協力した神経科学者のベン・マーティノガ氏は、アリゾナ大学のデビッド・ライチェン氏が主導した研究についてこう述べている。この研究では、瞑想とランニングが脳に同じような影響を与えることを脳スキャンで示したというのだ。マーティノガ氏の説明によると「ランナーであれば、ランニングが脳に影響を与えるのは当たり前だと思うでしょう。でも神経科学者としては、その証拠を探したいのです。走っている最中は、その瞬間に没頭し、体の状態を把握し、呼吸を意識しているはず。これは、マインドフルネスで目指す大切なことと同じです」
4.食欲を抑える
ランニング後に食べるパスタのことを想像しながら走るのもいいが、脳内化学反応のレベルでは、ランニングは食べ過ぎを防ぐシステムを助けることになる。西オーストラリア大学で行われた研究では、激しいインターバルトレーニングが食欲をコントロールするのに最も効果的であることが分かった。研究者たちは、これは運動が「空腹ホルモン」であるグレリンの産生を抑制するためではないかと考えている。
他の研究では、暑さの中での運動がさらに食欲を抑えるのに効果的であることが示されてる。カロリー摂取を抑えることがあなたの優先事項なら、冬の日はトレッドミルを検討してみて。喫煙者の脳をスキャンしたところ、脳の中毒に関連する領域は運動後に活動が低下することがプリマス大学の研究によって判明したという。
5.記憶力の向上
ランニングの効果が期待される脳の部位として、数多くの研究によってわかったのは、学習や記憶に関連する海馬。日本の研究者が行ったこのような研究は、International Journal of Sports Medicineに誌に掲載されたものだ。それによると、適度な運動を定期的に行うことで、海馬に関連する記憶力が向上することが分かった。ただ、興味深いことに、強度を上げて乳酸閾値よりも速いペースでランニングを行ったネズミは、運動を制限されたグループと比べて記憶力が向上しなかったという。
科学者たちはこれを、一貫したハードなトレーニングによるストレスが、ネズミの生理的リソースを、脳のシステムを強化するよりも回復に振り向けさせたためで、人間でも同様なことが起きると考えられている。
6.脳の力を高める
ランニングは、脳の潤滑油のとして働くだけでなく、新しい脳組織の成長を促す可能性もある。米国メリーランド大学の研究者によると、運動は新しい神経細胞(神経新生)と血管(血管新生)の成長を促し、これらが組み合わさって脳組織の体積を増加させるという。これは非常に重要なことである。というのも、20代後半以降は脳組織が減少し始めるという研究結果があるのだ。
具体的には、米国科学アカデミー紀要に掲載された研究によると、定期的に運動をしている人は、運動をしていない人に比べて、学習や記憶に関連する脳の一部である海馬の体積が2%増加していることが判明している。以前は、海馬の体積は子供の頃からまったく成長しないと考えられていたので、これは大きなニュース。
7.脳の力を高めて維持する
脳の状態を良好に保つためには、年齢を重ねても健康であることが重要。Frontiers in Aging Neuroscience誌に掲載された研究によると、高齢者の心肺機能が高いほど、高度な認知機能に重要な領域を含む脳のさまざまな領域の活動が活発になることが分かっているそう。また、テキサス大学の研究者は、中高年のフィットネスと認知機能の間に相関関係があることを発見し、少なくともフィットネスが脳内の血流をよくすることに起因すると考えている。
しかし、始めるのが遅すぎてはよくない。ボストン大学医学部の研究者は、1,000人以上の男女のデータを分析した結果、中年期(40代)に健康状態が悪かった人は、20年後には脳組織の体積が減少していることを発見した。つまり、将来の脳機能向上のために今から運動しよう!
8.長期的なメリット
少しでも早く運動を始めよう、というメッセージをサポートするような研究結果も増えている。例えば、ランニングへの投資に対する長期的な精神的リターンは、認知症のリスクを減らすことであるという研究結果も。Medicine and Science in Sports and Exercise誌に掲載されたある研究では、人生のにおいてどこかの段階で定期的にトレッドミルランニングを行うことで、認知機能の低下を遅らせ脳機能を改善させるということが、アルツハイマーの一種にかかったマウスの実験で判明した。
また、2015年のアルツハイマー病協会国際会議で発表された研究では、身体的な運動がアルツハイマー病の有効な治療法となる可能性があり、精神的な症状を軽減することが分かった。The Lancet誌に掲載された研究では、英国、欧州、米国において、アルツハイマー病の最も強い修正可能な危険因子は、身体活動の不活発さであることが明らかになっている。
多くの研究は海馬に焦点を当てているが、ランニングは記憶の形成に役立つだけでなく、その記憶へのアクセスもよくすることが分かっている。初期のアルツハイマー病患者の脳をスキャンしたところ、運動をしている人は、記憶回路を支える脳領域である尾状核の活動が活発であることが分かった。
ランニングは、その記憶回路を流れる信号の質も向上させる効果があるそう。さあ、走りたくなる理由がまた一つ増えたのでは。
Text: Runner's World Translation: Noriko Yanagisawa