サッカーのニュージーランド代表副キャプテンとして、ワールドカップにも出場するほどのアスリートだったティム・ブラウン氏。現役サッカー選手として、プラスチック製スニーカーの派手すぎるデザイン、大量生産・大量廃棄の現実に疑問を抱いたことが、靴づくりに興味を持ったきっかけだったという。

アスリートの傍ら、自分が求めるスニーカーのデザイン画を描き、ネット検索で見つけた工場に依頼してプロトタイプを作り続けること6年間。現役を引退する頃には100足ものサンプルができあがっていた。その後、後に共同創業者となるバイオテクノロジーの専門家、ジョーイ・ズウィリンジャー氏と出会い、サステナビリティについても考えるようになる。

そんな2人が2016年に創業したのが、フットウエア業界の革新を牽引するブランド「オールバーズ」だ。今回、来日したブラウン氏に、オールバーズが思い描くフットウエア業界の未来について、話を伺った。

(文中「」内はティム・ブラウン氏)

オールバーズceoインタビュー

オールバーズのスニーカーが愛される理由

2016年3月にたった1型のシューズ(写真上のウールランナー)を売り出すことからスタートした「オールバーズ」は、7年で企業価値1800億円以上という急成長を遂げた。数多のシューズブランドがひしめく世界で、ここまでの大ブレイクを果たした理由はどこにあるのだろうか?

「オールバーズのスニーカーが受け入れられている理由は、3つあると思います。ひとつは、シンプルかつミニマルなデザイン哲学に共感する人が多かったから。ふたつめは、自然素材のイノベーションを牽引しているという点。そして履き心地のよさでしょう。履き心地のよさをうたっているブランドはこれまでにもありましたが、デザインのよさと両立しているブランドは少なかったのではないかと思います」

世界中のテック系起業家から支持されている理由も、フットウエア業界のビジネスのあり方を変えていこうというオールバーズのミッションが共感を得ているのではないかとブラウン氏は分析する。

「未来を考えたとき、商品が変わっているだけではなくて、ビジネスのあり方が変わっていく必要があると思います。オールバーズは、その新しいあり方を牽引していると自負しています。昨年のアディダスとのコラボもそうですが、私たちが開発した素材やテクノロジーを他のブランドにも使ってもらえるようにすることで、新たなビジネスモデルが生まれたり、関係が生まれることもあります。スウィートフォームというサトウキビ由来のソール素材も、みなさんに使ってもらうことでコストが下がり、ビジネス的にも利益が出しやすくなります。新たな技術は自分たちで抱え込むのではなく、開放することでチャンスが生まれるのは良いことですよね」

オールバーズceo ティム・ブラウン氏インタビュー

サステナビリティという言葉が必要ない未来

ブラウン氏が目指す、10年後のフットウエア業界はどんなものなのか?

「サステナビリティという言葉が必要なくなっていて欲しいですね。あえて言わなくても当たり前になっている未来。そういうシフトを牽引するのがオールバーズの役割ですし、プラスチック素材や化学繊維への依存を離れ、自然素材のよさが認識され、質の良い商品に適用されているのが理想だと思います」

サステナビリティの意識を当たり前にしていくために、オールバーズが率先して行っていることのひとつに、すべての商品のカーボンフットプリント(※)を明記するというアクションがある。

「将来的には、食べ物のカロリーを見て商品を購入するように、あらゆる分野の商品においてカーボンフットプリントが表示され、それを目安に消費者が選べるのが理想です。そのために、私たちは他の企業が自社製品のカーボンフットプリントを計算するためのツールも、無償で提供しています。昨年のアディダス とのコラボシューズも、通常のスニーカーが約14kgCO2eに対して、当時としては世界最小のカーボンフットプリントを実現しました」

フットウエア業界のサステナビリティを牽引するオールバーズだが、ブラウン氏はサステナビリティについてどう考えているのか。

「サステナビリティは複雑なトピックで、10人いれば定義は10人違います。それがなんなのか、ピンとこないことで不安になったり、環境が破壊されているのに自分は何もできていないんじゃないかと不安になる人も多いと思います。でも私は、サステナビリティをポジティブな機会として捉えるべきだと考えています。サステナビリティを意識することで、新たなチャンスが生まれたり、クリエイティブ、イノベーション、新たな起業機会が生まれることもあります。そしてサステナビリティが意識されなくなるくらいに、浸透していくといいと思います。私たちも、人々に愛される商品を作っている企業で、その一部にサステナブルというエッセンスがあるだけなのです」

100%天然素材のヴィーガンレザーが実現

“スーパーナチュラルコンフォート”なシューズを実現するため、ウールに始まり、ユーカリ、サトウキビなど自然由来の新素材を次々に開発しているオールバーズが、次なる新素材として送り出したのが、ヴィーガンレザーだ。

オールバーズceo ティム・ブラウン氏インタビュー

「これまで靴に使われてきた合成皮革には、必ずプラスチック素材が入っていました。今回私たちが2年以上の開発期間で完成させたヴィーガンレザーは、米の籾殻や柑橘類などの農業副産物、天然ゴム、植物オイルなどの100%天然材料から作られているのは革新的ではないかと思います」

サッカー選手というキャリアから引退して10年。現在はフットウエア業界に大きな変化を起こす企業のCEOとして多忙な日々を送るブラウン氏。彼にとっての成功とはどんなものなのか、最後に聞いてみた。

「私にとっては、家族が何よりも大切です。3歳と5歳の子どもたちのよき父で、妻にとってはよき夫でありたいと思います。世界中で1000人にまで増えているオールバーズのスタッフたちも自分にとっては家族です。1週間だけ働く人も、何十年も働く人も、全ての人に素晴らしい体験をしてほしいし、素晴らしい価値を一緒に作りあげたいと願います。最終的には自分の価値観からぶれないことですね。大変なことがあっても笑顔、笑い、ユーモアを忘れず、好奇心を持ち続けることが大事だと思っています」

オールバーズ公式サイト

※カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料の調達から生産、流通、廃棄・リサイクルに至るまでのサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの。

Headshot of Kiriko Kageyama
Kiriko Kageyama
エル・グルメ編集長/ウイメンズヘルス編集長

『エル・オンライン(現エル・デジタル)』のファッションエディターを経て、フリーランスに。女性ランナーによる企画集団「ランガール」を設立。その後女性誌立ち上げやWebメディアの立ち上げを経て2017年にウィメンズヘルス』日本版ローンチ時から編集長に。2023年夏よりエル・グルメ編集長も兼務。趣味は料理を作って友人たちに振る舞うこと。