ファッションは、白い肌で痩せ型の人のためだけに作られたものじゃない。あらゆる肌の色、体形、ジェンダーを持つ人がストレスなく身に纏えるものであるべき、という多様性を尊重した考えはここ数年でメインストリームになった。誰も取りこぼさないインクルーシブな社会が求められるなかで注目される「アダプティブ・ファッション」は、今後誰もが必要とする機能を備えているかもしれない。

アダプティブ・ファッションとは?

ランウェイや広告で多様な人種、体形、ジェンダーのモデルが起用されるなどファッションの民主化は進んだ。ブランドは偏った美の定義にとらわれず、多様性を尊重する商品やメッセージを展開するように。そうした動きがある一方で、いまだ需要を満たしていないのが肢体不自由者に向けたファッション。アメリカでは人口(大人)の約4人に1人が何らかの障がいを持っており、うち3.7%は自分で服を着たりお風呂に入ったりすることに困難が生じるという。

しかし、今あるアパレルやシューズは屈まないと身につけられなかったり、着脱は容易にできても「着たい」と思えるデザインが極端に少ないのが現状。「アダプティブ・ファッション」は、“みんな”がおしゃれを楽しめる機能やデザインを兼ね備えたファッションカテゴリの一つとして開発された。

障がいを持っていることでおしゃれの選択肢が減ることがないように 、と工夫を凝らした機能的な下着を販売しているのが「Intimately」。2020年秋のローンチ以降、世界中の女性に商品を届けるとともに、彼らのメッセージを社会に発信している。

どんな女性もセクシーで輝ける存在に。「Intimately」の考え尽くされたランジェリー

脚が痛い、肩が上がらないといった体の不調があるだけで、普段は1分もあれば着られる下着も倍、もしくはそれ以上の時間がかかってしまった、なんて経験はないだろうか。ランジェリーブランド「Intimately」は、障がいのある女性たちを含むどんな女性も機能的でおしゃれな下着を楽しみ、美しくなれるアイテムをオンラインで販売している。

 

創業者のエマ・バトラーは12歳のとき、母親が線維筋痛症(全身に激しい痛みが生じる病気)と診断され、痛みによって着替えにストレスを抱えるようになった姿を目の当たりにしたことで、アダプティブ・ファッションの必要性に気づいたそう。開発にあたっては、数百人もの障がいを持った女性に話を聞き、彼女たちの意見を反映した。

「障がいを持っている女性も、セクシーで美しくありたいと思うのは当然なのに、市場に出回っている適応性のある下着の多くは無地でデザイン性がなく、高齢者をターゲットにしています。Intimatelyはファッションを犠牲にすることなく、快適でいられる製品を目指しています。背中のホックをなくした前開きのマグネットブラ、屈まなくても履ける横開きの下着、頻繁にナプキンやタンポンを変えられない車椅子の女性のための経血吸収下着など。最新のファッション技術を採用しつつ、レースや鮮やかな色のデザインにもこだわっているのです」

「Intimately」が支持される理由は、おしゃれで機能的なランジェリーブランドであることにとどまらない。障がいのある女性たちをモデルに起用し、体形や美しさの多様性をサイト・SNSを通して伝えており、多くの共感を呼んでいる。また、ブランドを介して知り合った女性たちが繋がり、チャットやブログでファッションやデート、セルフラブに関する思いを共有するコミュニティも形成されている。商品を購入するだけのブランドサイトではなく、女性が自分らしくいられる場所でもあるのだ。

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「声を届けるために、声を上げ続けるブランドでありたい」。Intimatelyのこれから

アダプティブ・ファッションは時折、社会的弱者のためのアパレルとして取り上げられることがある。けれど、作り手やユーザーが届けたいのは弱さへの同情ではない。

 
「私たちは、障がいのある女性も他のどんな人とも同じようにセクシーかつ魅力的で、ファッションに夢中であることを伝えたい。世界中には何百万人もの女性が何らかの障がいを持っていて、それが服の着こなしに影響を与えています。Intimatelyは、ファッショナブルで機能的な服を作ることで彼女たちに貢献したいと考えているだけでなく、障がい者のリアルな声をあらゆる場所や人に届けるプラットフォームでありたいと思っています」

「Intimately」のおしゃれで誰もが履きやすいランジェリーは、肢体不自由者だけでなく、忙しい母たちや高齢者の間でも需要を高めていくはずだ。着るストレスは最小限、そして今日もまた身に付けたいと思うお気に入りのデザインを兼ね備えた、本当に快適なみんなのための衣服。そうしたファッションは、インクルーシブな社会のなかでさらに人気を高めていくだろう。

Text : Sawako Motegi

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Sawako Motegi
コントリビューティング・エディター

スポーツファッション・サステナブルの記事を担当。山梨県の富士河口湖町へ移住し、オンラインを駆使して取材活動を行う。フェミニズムや環境問題などの時事ネタやニュース、人を掘るのが得意。  2020年までウィメンズヘルス編集部に在籍。