食事と運動のどちらを優先してダイエットを行うか。

これは様々な意見が飛び交うが、そもそもの目的が違うことは知っておきたい。

食事管理はエネルギー収支のバランスを整えるものなので、筋肉が大きくなったり増えたりすることはない。また、体重減少により日常生活が楽になることはあっても、活動量が上がることはない。

一方の筋トレは、筋力アップや関節可動域改善などで日常生活が楽になったり、何気ない動きの消費エネルギーが増大したりする。

もちろん組み合わせることが最も重要だが、運動には目に見えない大きなメリットが存在する。

「運動で筋肉を動かすことでホルモンなど様々な物質が分泌され、多種多様な働きにより良い影響をたくさん与えてくれます。また、筋肉が動くことにより脂肪や骨など体の全ての組織が内分泌器官になるとも考えられています」

こう語るのはパーソナルトレーナーの林健太さん。

運動をすることで気分が前向きになることや、様々な疾患を防いでくれることなど、目に見えない変化は様々なホルモンの働きによるもの。

筋肉がつく、代謝が上がる、引き締まる……目に見える変化だけではおさまらない、運動のメリットを知れば、きっと今日からあなたも運動したくなるはず!

①脂肪から出る痩せホルモン

痩せホルモンとして話題となった物質がアディポネクチン

これは脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種で、脂肪を燃焼させる働きがある。運動をしなくても脂肪の消費をサポートしてくれている物質だが、運動により分泌が増大するという研究結果も。

では太っていたほうが多く分泌されるかと言われると、我々の体はそう都合よくできていない。内臓脂肪が多くなればなるほど分泌量が少なくなるので、痩せにくくなってしまう。

「さらにこのアディポネクチンは、血糖値をコントロールする働きもあるので糖尿病への効果も期待されています。肥満や糖尿病を抱える人はアディポネクチンレベルが低いので、積極的に運動することをお勧めします」

そのほかにも動脈硬化予防効果などもあり、アディポネクチンレベルを高めることは肥満や糖尿病の改善と合わせて多くのリスクを避けることができると考えられている。

②天才ホルモンは筋肉から

記憶形成や空間学習能力に関わる脳の一部・海馬に高濃度で存在するとされているBDNF。タンパク質の一種であり、減少することで記憶障害やうつ病のリスク増加に関連する。

「認知症やうつ病を防ぐためにも、筋肉を動かすことで分泌されるアイリシンというホルモンがBDNFの増加を促してくれます。加齢とともに低下してくるので、年齢を重ねて物忘れが激しくなるといった症状は、海馬の萎縮が関係しています。しかし、運動で海馬が大きくなることも確認されているので、いつ始めても遅くありませんし、理屈的には若返ることも可能です」

適度な運動は体を健康にすることはもちろん、脳も健康にしてくれる最高のアンチエイジング方法。

まずはウォーキングやジョギング、ストレッチなど、簡単な運動からでもスタートし、自身の筋肉に刺激を入れていこう。

③美肌ホルモンも運動で
beauty woman using cotton pad to remove make up
Ridofranz//Getty Images

運動の習慣化で肌がきれいになるという大手化粧品メーカーの発表が話題に。

骨格筋から分泌されるマイオネクチンというホルモンがその一端を担っている。さらには体重当たりの筋肉量が多いほど、シミやシワが少なく肌の状態も良いことが確認された。

「マイオネクチンは心臓を保護するホルモンとしても注目されており、急性心筋障害を抑制するとも言われています。美肌効果のある化粧品開発だけではなく、心疾患の治療薬開発にも役立てられています」

スキンケアや化粧で肌のコンディションを整えることはもちろん、内側から美しくなるためにも運動は必要不可欠。若々しい見た目も健康的な脳や内臓も、運動が大きな鍵を握っていると言っても過言ではない。

④貴重な天然抗がん剤

こちらも運動により血中に増加するホルモンの一種、SPARCが一役買っている。

「HIITトレーニングはSPARC濃度が増加し、大腸がん発症の初期段階でのがん細胞を減少させ予防する効果があります。また、肥満の大きなステップである脂肪合成を阻害することも分かっているので、様々な強度の運動を取り入れることは非常に重要です。」

筋肉が減るということは目に見える運動機能の低下はもちろん、目に見えない内側の老化も早くなるということを忘れてはいけない。

ダイエットでは体重を減らすことにフォーカスされがちだが、長期的なメリットを考えると、いかに筋肉量を減らさないようにするかが重要だ。

⑤全てが絡み合う健康効果

他にもエネルギー代謝を増加させると言われるアイリシン、免疫コントロールに関係するIL-6など、運動によって分泌されるホルモンの数は数十~数百種類とも言われている。

どの程度の運動強度でどういったホルモンが分泌されるかも分かっていない部分が多いが、軽い有酸素運動などでも分泌されることは間違いない。

「運動により分泌される生理活性物質は、それぞれに特徴的な働きはあるものの、単体での作用に関しての研究結果は様々です。どれか一つが分泌されるということはあり得ないので、その全てが複雑に絡み合い作用していると考えられます」

こうした運動のメリットを頭で理解することで、日々の運動のモチベーションを上げていこう。

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林健太
NESTA公認トレーナー SIXPADオフィシャルトレーナー

 幼少期よりプロレスラーに憧れ、中学生の頃からジムに通い始め、高校・大学はアマチュアレスリング部に所属。
 卒業後、一度は就職するもプロレスラーの夢を諦めきれず2011年プロレスリング・ノアに入門。練習中の怪我により
 選手としてデビューすることはできなかったが、トレーニングを続けることで心身のモチベーションを維持し続けたことがきっかけでトレーナーとしての活動を始める。
インスタグラム: www.instagram.com/kenta_0327_/