NYからロンドン、ミラノ、パリの各都市で行われた2023-24秋冬コレクションは、例年どおり、新鮮なアイデアやスリリングなクリエイティビティへの期待感に包まれたものとなった。

だがそれとは別に、同時に高まっていくある疑問もあった――それは、「ボディのダイバーシティを積極的に受け入れようとの気運は、どこへ行ってしまったのだろうか?」ということ。UK版『エル』がリポート。

ファッション関連のさまざまな情報を検索できる「タグウォーク(Tagwalk)」によると、ミッドサイズやプラスサイズのモデルの起用は今シーズン、2022年に比べ24%減少したという。また、少なくとも1人は起用したというブランドの数は、前シーズンが90あったのに対し、今シーズンは68に減っていた。

歓迎すべきとは言えないこうした変化に逆らったのは、フランスのミュージシャン、イズーや、モデルのセリーナ・ラルフ、デヴィン・ガルシア、ジル・コートリーヴなどを起用した「アレキサンダー・マックイーン」や、ハリス・リードを新たなクリエイティブディレクターに迎え、ショーのオープニングにモデルのプレシャス・リーを登場させた「ニナ リッチ」など、ごくわずかだった。

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Courtesy of Nina Ricci
「ニナ リッチ」2023-24秋冬コレクションのオープニングを飾ったプレシャス・リー

そのほかに挙げられるのは、サイズインクルーシブなアプローチで知られる「エスター マニャス」(パリ)、アシュリー・グラハムを起用した「ドルチェ&ガッバーナ」のショー(ミラノ)くらいだ。

こうしたなか、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学んだアイルランド生まれのデザイナー、シネイド・オドワイヤーが特に注目を集めたのは、当然のことだったと言えるだろう。サイズインクルーシブを前面に打ち出した彼女は、より現実的なサイズを代表するモデルたちを採用した。

ただ、『エル』のインタビューに応じたオドワイヤーは、「実際のところは、それほど単純なことではない」と明かしている。

初めてランウェイショーを行った2022年は、サンプルの大半をイギリスの「サイズ20(おおよそXL~XXL)」で用意していたことから、十分な数のモデルをキャスティングすることに苦労したという。

そのため今シーズンは、一部のデザインについては事前にモデルを決定し、その体形に合わせてサンプルを作成。次回は、モデルに合わせて作るサンプルの数をさらに増やし、ショーの準備にあたるスタッフの負担を軽減したい考えだと話す。

一方、より多くのリソースを持つその他のブランドは、新興ブランドを率いるオドワイヤーのように、サイズの異なる複数のサンプルを用意しようとしない。それは一体なぜなのだろうか? 彼女によれば、理由は主に2つある。

「それには、ファッション業界のスピードが大きく影響しています。常にシーズンごとに動いていることが、複数のサイズのサンプルを同時に製作することを非常に困難にしているのです」

「確立された規模の大きなブランドには資金があり、デザインにおいてもよりインクルーシブなプロセスをいち早く取り入れることができるだろうと期待されました」「ですが、彼らのビジネスモデルはすでに、より多くのサイズでサンプルを作ることが可能なインフラが存在しない形でできあがっているのです」

リアルタイムでそのビジネスの構造を構築しているオドワイヤーと、彼女と同世代のデザイナーたちは、自身のブランドを発展させていくうえで、「複数のサイズが必要」との考え方が不可欠だとしている。

オドワイヤーによれば、それは「将来の変化を方向付ける」ものだ。

同一サイズでしかサンプルを作ることができない構造は、ファッション業界が抱える問題だが、解決策はある。それは、「現実的、かつ包括的なサイズで服を作る」というシンプルなもの。そして、ショーにはプラスサイズのモデルを起用し、製作したサンプルは単にメディアへの露出やキャンペーンでの使用にとどめるのではなく、実際に販売することだ。

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Kate Green/BFC//Getty Images
「ディ ペッツァ」2023-24秋冬コレクションより

ただ、そう聞けば単純なことのように思えるこの問題について、豊富なサイズ展開を信条とするブランド「グッド・アメリカン(Good American)」の共同創業者でCEOのエマ・グリード氏は、次のように語る。

「トレンドによって目まぐるしく変化するファッション界に、本当の、実質的な変化を起こすのは、 かなり難しいことです」「残念ながら、ファッション業界が実質的なサイズの多様性を歓迎していないことは、否定できません」

「ですが、ファッションは広く社会を反映したものです。いま(世間に)ある偏見が、非常に大きな悪影響を及ぼしているのです」

「グッド・アメリカン」が幅広いサイズを展開できるのは、彼女と彼女のチームが「すべての女性に配慮することが重要だと考え、ブランド創設最初からビジネスプランに組み込んでいるから」だとグリード氏は主張する。「そのためにさらにコストがかかるかもしれませんが、私たちはインクルーシブであることを使命としてブランドを立ち上げたので、その点は妥協するつもりはありません」

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Kay-Paris Fernandes//Getty Images
「エスター マニャス」 2023-24秋冬コレクションより

また、『ニューヨーク・タイムズ』紙のエリザベス・ペイトン記者も、次のように語る。「ファッションジャーナリズムにおいて、ボディシェイミングはまったく受け入れられないものです」

ペイトン記者はさらに、はるかに大きな力を持つデザイナーたちの多くが、自身の美学に対する妥協を拒否することについても指摘する。そして、何としても仕事を確保したい一部のモデルエージェンシーが、所属するモデルたちに「何がどうあれ、デザイナーが求めるもの提供させようとする」ことを問題として挙げている。

一方、最終的な変化を引き起こすポテンシャルを持っているはずの各ブランドの幹部たちは、業界に波風を立てることに対して、あまりにも臆病だという。

そのほかに重要なのは、ファッション業界にみられる“サイズ0賛美”への回帰を、より幅広い文化的背景を含めて考えること。やせていることを「やみくもに崇拝」することについて、主に非難されるべきはファッション業界だ。ただ、ハリウッドをはじめとするその他のクリエイティブ産業も、罪なき傍観者であるとは言えない。

エディターをはじめ、スタイリストやデザイナー、モデルたちのなかにも、サイズの多様性を支持する人たちは大勢いる。だが、そうした人たちとともに声をあげてきたグリードCEOは、自分ひとりでは何も変えられないことをよく理解している。

「残念ながら、この業界の非常に多くは、女性たちの真の姿を代表していません。『グッド・アメリカン』は喜んで先駆者の役割を担っていきますが、より多くのブランドが後に続いてくれなければ、本当の意味での成功を収めることはできません」

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Cameron Smith/BFC//Getty Images
「ディラーラ フィンディコグルー」2023-24秋冬コレクションより

ランウェイにおけるサイズの多様性の欠如に大きく不満を募らせる人々のなかには、バイヤーたちもいる。サイズ展開について、その幅を広げるようデザイナーたちに働きかけることができるのは、主にそうしたバイヤーたちだ。

イギリスのファッションECサイト、「マッチズ・ファッション」でレディースウェアを担当するリアーン・ウィギンズ氏は、こう説明する。

「私たちは常に、商品を購入してくれる多様な女性たちのことを考えます。商品とサイズ展開が、その女性たちを反映したものになっていることを確認しています」

ただ、同社が取り扱うブランドにとって、より幅広いサイズ展開を実現することは必ずしも簡単なことではない。小規模で比較的新しいブランドは、資金面でその実現が難しい場合もある。ウィギンズ氏はそのことにも、常に注意を払っているという。

それでもウィギンズ氏は、ショーやキャンペーンにより多様性のあるモデルをキャスティングすることは、かつてなく「将来性のあるもの」になりつつあると指摘する。

「私たちは、世界中の女性たちを代表するものでなくてはなりません。そして、それは形だけの平等主義ではなく、信頼性と誠実さとともに、実現しなければならないものです」

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Pascal Le Segretain//Getty Images
「シャネル」2023-24秋冬コレクションより

こうした業界関係者たちの話からもわかるとおり、ボディダイバーシティを実現するための方法は確かにある。だが、それはいまのところ、起こした変化を持続させ、一般的なものにするまでには至っていないということだ。

グリードCEOはこれについて、次のように語る。「ボディポジティブについて、7年前にはいまのように議論されることもありませんでした。インクルーシビティは、トレンドに終わるべきものではありません」

次の2024春夏ファッションウィークの後には、私たちがこの問題について同じ議論を繰り返す状況ではなくなっているのだろうか……?

Translation: Ryoko Kiuchi From ELLE UK

From: ELLE JP