日本国内でコロナウイルスの流行が始まってから、そろそろ4カ月。多くの人が日常生活のなかでさまざまな感染対策を徹底しているはず。なかでも、手洗いや手指消毒をこまめに行う習慣は、広く定着し始めた。感染症を防ぐためには、病原体を洗い流したり除菌したりする手洗いや手指消毒が必須。しかし、頻繁な手洗いや手指消毒は、思いのほか手肌や爪にダメージを与えるもの。「最近、手荒れが気になる……」と感じている人も多いはずだ。そこで今回は、手荒れの原因・種類・対策・ケア方法などを成田亜希子先生から教わった。
そもそも手荒れはなぜ起こる?
「手は、肌に刺激を与えるような石鹸、洗剤、消毒液などに触れる機会が多く、紫外線も浴びやすいもの。私たちが思っている以上に、ダメージが積み重なっている部位でもあるのです。
そのため、”手の甲がカサカサと乾燥する””赤くなって痛む””指や手の平の皮が剥ける””ぷつぷつとした湿疹ができる”など、さまざまなトラブルを引き起こすことも少なくありません。
対策方法を知るには、原因をしっかり把握しておくことが大切。まずは、手荒れがどのようなメカニズムで引き起こされるのか詳しく見てみましょう」
肌荒れの根本的な原因は?
健康的な肌は「角質層のきめが整い、十分な水分と弾力性がある」状態を指すという。
「私たちの肌は外側から角質層・顆粒層・有棘層・基底層という4つの層に分かれています。そのうち、肌のコンディションを決めるのは角質層であるといっても過言ではありません。
角質層は、古くなった肌の細胞が規則正しくレンガのように積み重なった構造をしています。そして、肌の奥で作られた新しい細胞が押し出されるように皮膚の表層に浮きあがり、古くなった角質層が”垢”として剥がれ落ちて日々新しい細胞と入れ替わっていきます。
角質層の役割は、ズバリ『肌を外的な刺激から守ること』と『肌に水分を保持すること』です。角質層はやや硬くなった細胞で構成されており、紫外線・摩擦・化学物質などによる刺激がデリケートな肌の深層にまで及ぶのを防ぐ働きを担っています。また、肌の中の水分をパッキングして乾燥を防ぐ働きも。
このため、角質層の構造が乱れたり、ダメージを受けたりすると肌の深層に外的な刺激が伝わりやすくなったり、乾燥しやすくなったりすることで肌荒れが生じてしまうのです」
”感染対策による手荒れ”にはどんなタイプがあるの?
手は肌荒れを起こしやすい部位だけど、体質や原因によって症状の現れ方はまちまち。手洗いや手指消毒などによる手荒れにはどのようなタイプがあるのか詳しく伺った。
① 乾燥によるトラブル
「手荒れの初期段階といえるのは、肌の乾燥です。上述した通り、肌は角質層によって水分がパッキングされて潤いをキープしています。
石鹸や消毒液は確かに細菌やウイルスを退治するために必要なものです。しかし、これらの病原体を退治することができるということは、少なからず刺激があるという証拠。当然、私たちの肌、とくに角質層にダメージを与えることも少なくありません。ダメージを受けた角質層はキメが粗くなり、水分をパッキングする力も低下。結果として乾燥を引き起こしやすくなります。
また、角質層の表面では、キメを整えて乾燥を防ぐために皮脂の分泌が行われています。感染対策のため、頻回に手を洗うと肌を守ってくれる皮脂も洗い流すことに。また、手指消毒に使用するアルコールも速乾性が強く、皮脂も一緒に乾かしてしまいます。つまり、感染対策を徹底していると、知らず知らずのうちに角質層にダメージを与えるだけでなく、肌に必要な皮脂まで除去してしまうことで乾燥が助長されてしまうのです。
乾燥した肌はガサガサの固い肌を作り出すだけでなく、些細な刺激で痛みやかゆみを引き起こす敏感肌に……。さらに悪化すると厚くなった角質層がぱっくり割れてあかぎれやひび割れを引き起こします」
② アレルギー
アレルギーとは、特定の物質に触れたり、体内に取り入れたりすることによって免疫作用が過剰に働き、蕁麻疹、くしゃみ、鼻水などの症状を引き起こす症状のこと。春先に悩む方が多い花粉症もスギ花粉などに対するアレルギーによるものです。アレルギーの原因となる物質は人によって異なりますが、なかには洗剤や消毒液にアレルギー反応を起こしてしまう方も少なくありません。
洗剤や消毒液など肌の一部に触れた部位にのみ赤みやかゆみなどのアレルギー反応が起こる病気のことを『接触性皮膚炎』と言います。いわゆる『かぶれ』ともいわれる病気ですが、ひどい場合には皮がむけたり出血してしまうことも。
また、接触性皮膚炎はアレルギーの原因となる物質に繰り返し触れることによって徐々に症状が現れようになることも少なくありません。新しい洗剤や消毒液を使い始めて赤みなどの症状が現れたときは、すぐに使用を中止する方も多いでしょう。ですが、これまで問題なく使用していた場合でも突然アレルギーが起こることもありますので注意が必要です」
③ 湿疹
「水や洗剤などに触れる機会が多くなると、かゆみを伴う水ぶくれができるようになることがあります。これは、皮脂が洗い流されることによって乾燥が悪化。そして角質層のバリア機能が低下したなか、さらに水や洗剤の刺激が加わることが原因と考えられています。指先から手の平にかけて発症しやすく、悪化すると発疹が手の甲にまで広がっていくのが特徴です。また、炎症を起こして痛みを引き起こすことも少なくありません。
このような水や洗剤の頻回使用によって現れる手の湿疹のことを『手湿疹』と呼び、水や洗剤を使用する機会が多い主婦に発症しやすいことから、『主婦湿疹』と呼ばれることもあります」
感染対策による肌荒れを乗り切るためのケアとは?
美しい手をキープするのに頻繁な手洗いや消毒液の使用は大敵。とはいえ、まだまだ終息の気配が見えない新型コロナウイルスへの感染を予防するには、今まで通りの感染対策を行っていく必要が。
そこで大切なのは、感染対策によってダメージを受けた手をしっかりケアしていくこと。感染対策による肌荒れにはどのようなケアがいい?
とにかく保湿を! まずは尿素成分で角質層を整えて
「感染対策による肌荒れの原因は、角質層の乱れと皮脂が過剰に失われてしまうこと。それらを健康的な状態に戻すには、とにかく肌を保湿して潤いを与えることに力を入れましょう。
軽度な乾燥であれば、お使いの化粧水などを使ってもOKですが、”カサカサが目立ってきた””ヒリヒリする”など、乾燥がひどい場合はハンドクリームを使用しましょう。
基本的にはお好みのテクスチャーのものを使用して構いませんが、カサカサがひどいときは尿素配合のものを選ぶのがおすすめです。尿素はカサカサと固くなった角質層を柔らかくして新しい細胞に入れ替わるのを促す働きがあります。硬くなった角質層の肌にいくら化粧水などで保湿しようとしても、肌の深層にまでは届きません。まずは角質層のケアをしてあげましょう」
敏感肌に過度なセルフケアはNG?
「敏感肌がひどいときに化粧水やハンドクリームなどで過度なセルフケアをするのはNG。敏感肌やあかぎれなどがあるときなどは、肌の深層にまで外的な刺激が伝わりやすくなっているということです。化粧水やハンドクリームなどに含まれる成分が強い刺激になってしまうことも少なくありません。化粧水やハンドクリームを塗ってヒリヒリとした刺激があるときは使用を中止して洗い流しましょう。
このような重度な手荒れが起きているときに重宝するのが、ワセリンです。ワセリンは皮膚の保護材の一種。病院での治療にも用いられます。やや硬さのあるクリームのような感触で、肌を外的な刺激から守ったり、肌に水分をパッキングするのに最適です。
ややべたつくこともありますが、あかぎれやひび割れがあるときは、その部分だけでもワセリンを塗ると治りが早くなります」
湿疹があるときはセルフケアをせずに病院へ!
「手にかゆみのある湿疹ができたときは、接触性皮膚炎や手湿疹の可能性があります。自己流でケアをするのはやめましょう。これらの肌トラブルはステロイドの塗り薬などを使用しないと治らないことも少なくありません。
悪化すると症状がどんどん広がっていくこともありますので、できるだけ早い段階で病院を受診するようにしましょう」
爪が割れる……どうケアすればいいの?
「手荒れと同じく、感染対策によって引き起こされるのが爪のトラブル。洗剤や消毒液に触れる機会が増えたところ、爪が割れやすくなったという人も多いでしょう。
実は爪は、皮膚の細胞が変化してできたもの。爪も洗剤や消毒液に触れると乾燥しやすくなるのです。そして、水分を失った爪は脆くなり、些細な刺激で割れてしまうことも……。
爪専用のケア用品も市販されていますが、ハンドクリームなどで手のケアをする際に爪にもなじませてあげるとケアにつながりますよ」
感染対策をしつつ美しい手をキープするにはケアが必要!
「新型コロナウイルス対策として感染対策を徹底しながら、美しくしっとりした手をキープするにはいつも以上に入念なケアが必要です。重症度によって、今回ご紹介したケア方法を実践してみましょう。
また、ときには病院での治療が必要となることもあります。強い症状があるときは、単なる手荒れ…と軽く考えずに早めに病院に行きましょう!」
卒後、10年目の一般内科医。行政機関に勤務していたこともあり、母子保健や医療問題にも精通している。プライベートでは二児を育てる母。