帰宅路にあるセブンイレブンに駆け込み、迷わずとろりんシューを3つ買った、あの日のこと。もう何年も昔のことだけど、私の手にはいつもと違う勢いと確信があったことを昨日のように思い出せます。それは、ふわふわのシュークリームにたっぷり詰まったとろとろのクリームが大好きだから食べたい! といった「好き」の気持ちとは違う、ヤケになったような勢いでした。

我慢の反動で、ふりこのように揺さぶられ激しく返ってきた執着心。その勢いはリバウンドそのものでした。

私の場合、ダイエットをしていた訳ではありませんでしたが、無理な食事制限をしたことには変わらず、我慢の度合いを示すかのように極度なリバウンドを何度も体験しました。ヨガを始めてから一年くらいが経ち、食生活を変えることがいかに自分の呼吸や体に影響するかということを身を持って知り始め、とにかく自分の体で色々試していたのです。中でも、ヴィーガンに初めてトライした時。一挙に全ての動物性食品を抜いたので、カツオ出汁も乳製品も摂らない中、当時は今のように植物性の代用品もあまりなく、とても辛く感じていたのです。

自分にそんな無理をさせてしまっている中でも、動物性食品を摂取しないことで感じられた体の軽さと呼吸の深さは私にとって衝撃的な発見でした。その体験は自分の体質をよりよく知るための大きな気づきの一つでもあります。同時に、体は必要としていないのに、心は「どうしてもシュークリームが食べたい!」と、一気に3つ食べないと気が済まないほど欲する。我慢のしわ寄せが積もる中で、私はヨガが指す心身の統一どころか、どうしても心と体が全然違うことを言うバラバラ感を痛感しました。

こんなに激しい”失敗体験”を繰り返しているのに、なぜ、そしてどうやって私は食生活の調整においても、ヨガの練習においても「成功」に至ることができたのでしょうか? 自分で振り返ってみても、私にはどう考えても特別なテクニックやノウハウもなければ、当時は今のようにアドバイスをもらえるリソースもあまりありませんでした。そんな中、私に唯一あった力。それは、ただ「やめないで続ける」ということだったように思います。

ヨガを始めてから心と体の健康を取り戻し、どれだけ人生が一変したか。イイ話は何度もシェアする機会がありましたが、その裏側にある、そこに至るまでの道のりで私がどれだけアンバランスな”失敗”を繰り返してきているか。努力でも美徳でもなんでもない、試行錯誤の「誤」の部分がたくさんあるのです。

ただ一つだけ、誤ちを誤ちに留めないレシピがあるのだとしたら、それは誤ちから学ぶこと。そしてそのためには、学ぶまで諦めないで、やめないで続ける心さえあれば、最後にはどうにかなる。そう考えるようになりました。

食生活で言うと、やめない心があったから、様々な失敗を繰り返したのち、自分の体質についての理解を深め、ライフスタイルに合った食べ方を見つけ出すことができました。ヴィーガンは結果的に私には合わなかったのですが、そこで体験したリバウンドのおかげで、食生活の調整には心とのコミュニケーションとライフスタイルにおけるバランスが欠かせないということを学びました。食が、常に暮らしの一部にある必須要素であるからこそ、自分の心と食とのつながりをないがしろにしてしまうのでは、どんなに体が喜ぶ食生活であっても長期的に成功させることは難しいと、痛い思いをしながら体験的に知りました。

自分のことではないのですが、最近我が家では小さな革命が起こっています。13歳になった長男が、朝6時のランニングを3ヶ月以上続けているのです。サッカーコーチの一言がきっかけになったそうですが、びっくりするほど意志が固いのです。どうやら今ハマっているサッカー漫画にも「練習は、疲れている時こそやらないと意味がない」という台詞が出てきたそう。一番走りたくない日にもとりあえずスニーカーを履いて、出掛けてみる。どうしても走れないなら、まずは歩いてみること。やめない精神と継続は力なりのスピリットは、言葉を通して勧めることより、背中で見せる姿を通して伝わっているようです。

もう一つ、私の経験から語れる大切なことがあります。それは、息子のように3ヶ月程度だとまだあまり感じられないことですが、3ヶ月が3年になったり、13年になったり。期間が長くなればなるほど、継続の形が変わってきたり、また、時には練習から離れてしまうことがあるということです。

続けようと思っていたことから離れてしまうことがあった時、誰でも感じる挫折や残念さがあります。リバウンドでヤケになってシュークリームを3つ食べてしまっても、その後に罪悪感や自己嫌悪がのしかかります。

こんな時こそ「やめないこと」。

やめないのだから、何回でも戻ってくるチャンスはある。すぐに立ち直り、行動を通してそう自分に示してあげることが、広い視点で見た時何よりも自分のためになってきたように感じています。

ヨガの練習を続けることで身につけてきた恩恵を並べると、心と体の柔軟性、穏やかな心、そしてブレない軸などが挙げられますが、その全てを可能にしてきたのは、他ならぬ「やめない心」だと思うのです。

やめない心は、次第に私に規律を身につけさせてくれました。やめないという約束の中でしか養うことのできない、自分自身に対する忠誠心。はちゃめちゃだった学生時代の夜型生活は、1〜2年かけて安定の朝型へ変わり、最初はスタジオへ出向かないとできなかった練習も、自宅でもどこでも安定して、無理なく継続できるようになりました。

規律ができてきたら、ヨガ以外のことにおいても多大な自信につながりました。

「規律とは、=自由なのだ」と、アメリカの著者であり、元米海軍特殊部隊の

ジョッコ・ウィリンク氏の言葉を思い出します。

何度も滑り落ちたことのある私が彼の言葉を引用するのは畏れ多いところもあるのですが……。何度滑り落ちてでも這い上がって来た私は、やめないで戻ってくる時の「戻り方」が必然的に上手になりました。

戻り方は、単純、素朴、シンプルに。

人間なのだから、時にはズレたり離れてしまうこともある。

ならば、次のチャンスで戻ってこよう。

大ごとにせず、シンプルにただ戻る。

大切なこと、本当に続けたい大事なことに、ただ、何度でも戻ってこよう。

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吉川めい
ヨガマスター

MAE Y主宰、ウェルネスメンター。日本で生まれ育ちながら、幼少期より英語圏の文化にも精通する。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児などを経験する中で、13年間インドに通い続けて得た伝統的な学びを日々の生活で活かせるメソッドに落とし込み、自分の中で成熟させた。ヨガ歴22年、日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格者であり『Yoga People Award 2016』ベスト・オブ・ヨギーニ受賞。adidasグローバル・ヨガアンバサダー。2024年4月より、本心から自分を生きることを実現する人のための会員制コミュニティ「 MAE Y」をスタート。https://mae-y.com/