この記事を書いているいまも私(ニューヨーク在住のエディター)は、右脚から肩にかけて電気ショックのような痛みが走り、関節が鼓動に合わせてズキズキするのを感じている。立てば毎回、視界が万華鏡のように変化して、少しのあいだ暗くなる。これでも今日はマシなほう。私は何の変哲もない35歳の白人女性で、他の人と同じくらい丈夫に見える。でも、実際は目に見えない障害と共に生きる無数のアメリカ人の1人。健康と障害の情報サイト『Disabled World』によると、米国人口の推定約10%は目に見えない障害を持っている。私が思うに、実際はもっと多い。

このような症状は大学生の頃からあったけれど、線維筋痛症と診断されるまでには7年かかった。線維筋痛症には診断を下すための検査がなく、他の病気の可能性を1つずつ除外していくしかない(この診断方法を除外診断と呼ぶ)ので、あらゆる分野の医師に会った。2021年、コロナウイルスに感染し、後遺症(またしても目に見えない病気)にかかると、線維筋痛症の症状が悪化して、複数の新しい症状が出始めた。

だから私は、他の人より体のニーズに敏感だ。毎朝その日の健康状態を把握して、寝室の外の世界で生きるためにするべきことを考える。在宅ワークの日は温熱パッドを用意して、どうしても力が出ない日はスケジュールを変更する。そのせいで友人や同僚と気まずい感じになることも少なくない。私の障害は目に見えないので、自分から体調を明かさないと体のニーズが満たせない。

診断が下りる前は、病院に行くだけで人生が元通りになると思っていた。でも、自分の障害と闘うのではなく共に生きることを学んでからは、いまさら追い求めても意味のないこと(元通りになること)に精神的なエネルギーを費やすことが圧倒的に少なくなった。障害を外的な要素ではなく、その人のアイデンティティの一部として捉えるPerson-First Language(パーソン・ファースト・ランゲージ)を私が使っているのも、そのためだ(パーソン・ファースト・ランゲージでは“人”を前に持ってくるため、障害者はDisabled peopleではなくPeople with disabilitiesと表記される)。わざわざサインアップしなくても、障害者のコミュニティは豊かで多彩。さまざまなニーズと経験を持つユニークな人々で溢れている。

目に見えない障害とは?

目に見えない障害(非顕在性障害と呼ばれることもある)には、本人も驚くような幅広い慢性疾患が含まれる。一例として、米国の障害者支援団体The Center for Disability Rightsが指定した目に見えない障害のリストに含まれるのは、学習障害、難聴、自閉症、補綴、外傷性脳損傷、メンタルヘルス疾患、双極性障害、糖尿病、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、線維筋痛症、関節炎、アルツハイマー病、不安障害、睡眠障害、クローン病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、てんかん、多発性硬化症、嚢胞性線維症など。

非顕在性障害のサポート団体Invisible Disabilities Associationのエグゼクティブディレクター、ジェス・ステインブルックのもとには、『〇〇病や〇〇病は目に見えない障害ですか?』という質問が頻繁に寄せられる。「そのような質問に対しては『その病気のせいで日常生活に何らかの支障が出ていれば、そうでしょう』と答えています。非顕在性障害は目に見えませんが、特別なサポートを要するだけの支障をきたします」

いかなる疾患も厳密に言えば障害であることを認識し、その事実を受け入れるのは簡単なことじゃない。そもそも障害という言葉自体に喪失や欠損というイメージがあるので怖い。そして、現代社会では、一部の能力が欠けているだけで他の人より劣っていると思われがち。

「私たちは障害者であることを罰する社会に生きています」と語るのは、ライターで障害者を支援する活動家のイマニ・バーバリン。「普通に暮らして家や食糧、リソースを確保する能力は、その人の生産能力に直結するので、みんな障害者と認定されるのを嫌がります」

目に見えない障害と慢性疾患を持つ人は「急に体調が悪くなって、治療を受けて、回復する」という通常のプロセスを踏めない分、他の人より苦労する。重症度や症状の出方が日によって違うことも少なくない。2~3km歩いて市場へ行き、ランチを食べてから映画を観ることができる日もあれば、疲れすぎか痛すぎで何もできない日もある。Unfixed Media創業者のキンバリー・ワーナーによると、これはなかなか理解されない。「現代人には、慢性疾患の不確実性を受け入れるだけのゆとりもありません」

目に見えない障害を抱える人は、どのくらいいる?

米国の障害者は年々増えているけれど、世の中には自分のことを障害者と思っていない、あるいは思いたくない人が大勢いるので、正確な数字は分からない。米国疾病管理予防センターによると、米国人口の推定26%、つまり4人に1人は目に見える障害か目に見えない障害を抱えている。私が人数にこだわるのは、コミュニティが大きければ大きいほど、その声も社会に与える影響も大きくなるから。

障害者コミュニティは米国最大のマイノリティーグループで、誰もが一時的または永久的に入ってもおかしくない唯一のコミュニティ。バーバリンいわく、障害者のコミュニティは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンに関する議論の中で人種、ジェンダー、セクシュアリティと横並びになることはないけれど、他のマイノリティーグループと切っても切れない関係にある。「これは、どんな社会的疎外化も障害につながるからです。階級・人種・ジェンダー・セクシュアリティによる差別や医療サービス側の受け入れ拒否は、障害のもとになります。黒人女性が症状を訴えても信じてもらえなかったり、倒れるまで医者に診てもらえなかったりすれば、障害につながりますよね」とバーバリン。「だから障害を他人事と思うのは大きな間違いです」

私の障害は日常生活のあらゆる面に影響を及ぼしている。なのに私は、つい最近まで、その障害を自分のアイデンティティの一部として見ていなかった。でも、それでは私に必要な配慮やサポートが得られない。

目に見えない障害を持つ人は、職場の中でも外でも誤解されがち

「障害者には、国から支給される障害者手当をもらっている人というイメージがあります」と話すのは、米シンクタンクData for Progressの会員で障害者の権利擁護を専門とする弁護士のマシュー・コートランド。「それが理由で多くの人は『働いている以上、自分が障害者であるはずはない』と考えてしまいます。私たちは今日もピューリタンの労働倫理、つまり資本主義のために生み出せるものの量で人の価値を計っています」

働いている人や働ける人であっても、職場や日常生活でバリアに直面し、自分らしくいられないことはある。感覚処理感受性が高い人にはオープンなフロアプランが辛いかもしれないし、偏頭痛持ちの人には蛍光灯が辛いかもしれない。慢性疲労症候群や運動障害の人にとっては毎日の通勤が大仕事。だからコロナ禍で各種イベントがリモートになったとき、障害者の大半は喜んだ。いままで参加できなかったイベントに自宅から参加できるようになったわけだから。私自身もフォームローラーを使いながら会議に出たり、ベッドで横になりながら電話をしたり、体のニーズに応じて休憩を取ったりしていたので、長時間デスクに縛り付けられている感じがなかった。私の場合は、勤務体系がフレキシブルになったことで人としての機能が向上し、パンデミック前より仕事がはかどるようになったので、多くの企業が従業員をオフィスに戻したのは残念なこと。

でも、パンデミックが収束したからというだけで、当時の生活をラクにしてくれた保護を手放す必要はない。「自分が障害者コミュニティの一員として数えられ、平等な保護を受けていることに気付いていない人は大勢います」とコートランド。「このような保護には、職場や教育現場における配慮、公共スペースを使う権利、私たちが“障害”という言葉から連想するような政府のプログラムなどが含まれます」

米国の障害者法は目に見えない障害も保護してくれる。でも、職場や学校で必要なサポートを得るのは大変だし、気分が優れない状態で立ち向かうのは至難の業。コートランドによると、障害者を取り巻くアメリカの法律は本当に分かりにくい。「ひょっとすると、意図的にそうなっているのかもしれません」。Invisible Disabilities Associationなどの団体は、法律の制定を通して目に見えない障害が目に見える社会を作ろうとしている。IDカードや駐車ステッカーも、障害者用のサポートが使いづらい状況を改善し、非顕在性障害に光を当てるきっかけになるかもしれない。

いまこそ変革のとき

目に見えない障害を抱える人がかつてないほど多いいまなら、私たちのニーズも注目を浴びやすい。「コロナウイルス感染症は目に見えない病気でした。後遺症の件数もいまだに増え続けているので、目に見えない障害の認知度は高まっているはずです」とワーナー。「これはよいことであると同時に悲劇的。苦しんでいるのに必要なケアが得られない人は想像以上に多いですから。見たところは問題がなくても内面は辛くて仕方ないことを医師だけでなく、家族や友人までもが分かってくれないケースは少なくありません」

コロナウイルス感染症の後遺症に関する初期の報告書も、あのパンデミックを大規模な障害を引き起こす出来事として位置づけていた。米国労働統計局が16歳以上の一般市民のデータを分析したところ、障害者と認定された人の数は2020年から2021年までの1年間で120万人も増えていた。労働人口における障害者の数も49万6千人増加した。これは、理解やアクセスの格差に苦しみ、自分のコミュニティを切実に求めている人が増えていることを意味する。

「この社会で暮らしていれば、すぐにでも“普通”の状態に戻りたいと思うのが自然です」とバーバリン。「100%回復する人もいますが、コロナウイルス感染症の後遺症にかかった人の大半は、障害者になったことを受け入れなければなりません。自分の置かれている状況を客観的に見て、障害者の歴史や文献、体験記を読んでみましょう。広い意味では自分も障害者であることが分かるはずです」

私にとって目に見えない障害を受け入れるとは、障害者の擁護団体の豊かな歴史を学び、自分のコミュニティを見つけて、“普通”はスタンダードではなく概念の1つに過ぎないことを理解するプロセスだった。「私の場合は治らないことを知り、この疾患と共に生きると決めたら気持ちがラクになりました」とワーナー。「過去の扉を閉めたことで、自分がこうあるべきと思う自分ではなく、ありのままの自分自身と付き合えるようになりました」

※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Lizz Schumer Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。